マガジンのカバー画像

ビスケット缶にしまうもの

38
忘れたくないnoteを大好きな缶に。
運営しているクリエイター

#小説

杖喰い婆さん  【ごはん杖】

杖喰い婆さん 【ごはん杖】

「最後の旅にでてくるわ」
婆さんはそう言うと、たいそう不格好な杖を手にした。

「そんな杖で大丈夫?途中で折れてしまうんでない?」
ずっと婆さんの世話をしてきた女が心配そうに尋ねる。

「大丈夫大丈夫。じゃ、行ってくるで」

婆さんは最後の旅に出た。
しばらく歩いて、途中腹が減ると杖を齧った。
「硬いけど美味いわ」
婆さんの杖は、炊いた米を棒状に練ったものだ。

婆さんは茶屋に寄った。温かい茶をい

もっとみる
食器棚の妖精  (#シロクマ文芸部)

食器棚の妖精 (#シロクマ文芸部)

珈琲とコーヒーの印象の違いについて考えながら、何気なく食器棚の扉を開けた。
すると、珈琲カップとコーヒーカップの間に寝そべっている、手のひらに乗るくらい小さいおじさんと目が合った。

「いつからそこにいるの」
「さぁねぇ」
「どうしてそんなにやる気無さそうなの」

おじさんは起き上がった。そして僕に言った。
「お前もどうせ、珈琲なんざ飲まんのだろ」おじさんは冷たい目をしていた。

「飲むよ。スチャ

もっとみる
告白ロボ  (短編小説)

告白ロボ (短編小説)

「最近はいつもこの時間だね」
僕がよく行くレストランで働く馴染みの配膳ロボットは言った。
「バイトを変えたからね。だけど、この時間の方がこの店は落ち着いているからいいね」
22時を過ぎた平日のレストランでフロアを動き回るのは、二台の配膳ロボットだけだった。キッチンにこもってお喋りに夢中のアルバイトたちは、レジの近くに人が寄った時にしか姿を見せない。
数ヶ月前から顔見知りになったこの配膳ロボットと僕

もっとみる