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告白ロボ (短編小説)

「最近はいつもこの時間だね」
僕がよく行くレストランで働く馴染みの配膳ロボットは言った。
「バイトを変えたからね。だけど、この時間の方がこの店は落ち着いているからいいね」
22時を過ぎた平日のレストランでフロアを動き回るのは、二台の配膳ロボットだけだった。キッチンにこもってお喋りに夢中のアルバイトたちは、レジの近くに人が寄った時にしか姿を見せない。
数ヶ月前から顔見知りになったこの配膳ロボットと僕は、なぜだか馬が合った。見た目もやることも他のロボットたちと変わらないのに不思議な感覚だ。

「今日はいつにも増して空いているね」
今夜この店には、イヤホンをして手元のスマートフォンで動画を見続ける青年が一人いるだけだった。そんな状況だから、特にやることも無くフロアを移動していた配膳ロボットをつかまえて僕は言った。
「君に相談があるんだ。今、ちょっと話せるかな」
僕が声を抑えてそう言うと、配膳ロボットは頭の上のカメラを360度回転させて、周りの状況を確認した。
「大丈夫そうだよ。例の話だね?僕も気になっていたから」
配膳ロボットは、僕に近づけるギリギリまで体を寄せてきた。



「そう、彼女のこと。やっぱり、僕は彼女に告白しようと思うよ」
僕は言った。言いながら、憧れの彼女のことを思った。風でなびく、さらさらの長い髪。彼女の向こうに海が見える。ここは海無し県だというのに。彼女には海風が似合うんだ。

「絶対に成功させたい。付き合えなかったとしても、心に刺さるような告白をしたいんだ」
興奮気味に話す僕の言葉に、配膳ロボットは頭に付いているカメラを大きく上下させて頷いて見せた。
「10代の男子のアイデアなんてまるでだめなんだ。だから君の意見を聞かせてよ。誰も思いつかないような告白の仕方を一緒に考えてほしい」
僕は期待の目で配膳ロボットを見た。彼にとって目の役割であるカメラは、斜め上を向いたところで停止していた。おそらく、考えているのだ。

「彼女は、大人の女性だものね」
「そう。僕は女性に年齢を尋ねるような不躾なことをしないから正確には分からないけど、彼女が若白髪を見つけて驚いていたことや、僕と同年代の女の子たちを見る時の冷ややかな視線を思うと、20代も半ばを過ぎているのだと思う」
「なるほどね。人の老い方について僕には分からないから。ただね、パートのおばさんたちのお喋りから察するに、大人の女性というのは、男の人の清潔感をとても重要視するようだよ。そういう意味で、今日の君はとても有望に思える」
配膳ロボットに言われて、僕は自分が今日身につけているシャツや腕時計を改めて見てみた。それから、窓に映った自分の髪型やメガネなどを眺めた。
「そういえば、今日の僕はいつになく小洒落ているね。なぜだろう」
「さぁ。人のファッションについて僕には分からないから。あとね、大人の女性というのは、意外と男の人の爪を見ているそうだよ」
「爪?」
「そう。パートのおばさんたちのお喋りによると、やりすぎのピカピカはだめだけど、きちんと切りそろえられて、透明感のある爪の持ち主には『抱かれたい』と言っていたね」
「おいおい!」
僕は咄嗟に、配膳ロボットの口を抑えようと手を伸ばしてみたが、最新型のすっきりとしたデザインの彼には、口らしきものは見当たらず、伸ばした手を所在なく引っ込めた。
「あまり大きい声で話さないでくれよ。
それより、具体的にどういう言葉で彼女に想いを伝えたらいいかな。」
「そうだね。僕なりに考えてみたのだけど、こんなのはどうかな」
配膳ロボットは、僕の正面に向けていた体を少しだけ斜めにずらした。あたかも彼の目の前に彼女がいることを想定しているようだった。
「やぁ、いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか。もしまだ決まっていないのでしたら、この彼なんていかがでしょう。大変お熱くなっております。特別な情熱を持っていますので、この熱々を持続して、これからの寒い時期にあなたを温めてくれるでしょう。
現在、当店では告白フェアを開催中です。彼で決定の場合は、てっぺんにあるボタンを押してください」
配膳ロボットは悦に入って、饒舌に話した。
彼は告白の文言を披露することに夢中で、360度動かすことのできるカメラを有効に使うことをしなかった。だから、いつの間にか僕の目の前に座った女性のことには気づいていなかった。

「はじめまして。ロボットさん」
彼女はそう言って、配膳ロボットに笑顔を向けた。配膳ロボットは突然言葉を発した女性の存在に気がついて、驚いて動きを止めた。
「例の彼女だよ。実はね、もう告白は成功していたんだ。今日は親友の君に会わせたくてここで待ち合わせをしたんだよ。驚かせてごめん」
僕はとびきりの笑顔で配膳ロボットに言った。配膳ロボットは僕と彼女を交互に見ようとして、忙しなくカメラを動かした。それはいつもの滑らかな動きではなく、どこかぎこちない動きだった。

「というわけで、ご苦労さま」
彼女は既に配膳ロボットには飽きてしまったようで、迷いなくてっぺんにあるボタンを押した。美しく塗られたネイルポリッシュがキラッと光った。
「ご……ごゆっくり~」
配膳ロボットは僕たちにくるりと背を向けると、相変わらずいまいちな音楽を鳴らしながら、キッチンへ戻って行った。

そのあと配膳ロボットは、僕たちが食事を楽しむ横を何度も何度も通り過ぎた。そして、通り過ぎる時には必ずと言っていいほど、彼のカメラは僕たちの方を向いていた。



[完]


#短編小説

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