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杖喰い婆さん 【ごはん杖】

「最後の旅にでてくるわ」
婆さんはそう言うと、たいそう不格好な杖を手にした。

「そんな杖で大丈夫?途中で折れてしまうんでない?」
ずっと婆さんの世話をしてきた女が心配そうに尋ねる。

「大丈夫大丈夫。じゃ、行ってくるで」

婆さんは最後の旅に出た。
しばらく歩いて、途中腹が減ると杖を齧った。
「硬いけど美味いわ」
婆さんの杖は、炊いた米を棒状に練ったものだ。

婆さんは茶屋に寄った。温かい茶をいただいて一休み。
茶を飲みながら、また杖を齧る。
「なんだかんだ言っても美味いわ」
杖を茶で飲み下す。

杖は、歩く度婆さんに齧られてだんだん小さくなったので、婆さんはうんと腰をかがめなければならない。

「疲れたわ」
そう言いながら、婆さんは日のくれた山の上で、もう一度杖を齧った。

「硬っ。食えねえな、こりゃ」
婆さんは途方にくれた。

「仕方ねえ、チンしに戻るか」

糊化・老化を繰り返すでんぷんのように、婆さんはまた、来た道を戻って行った。

これが婆さんの日課だもの。



[完]


#毎週ショートショートnote
今週のお題は【ごはん】×【杖】です。

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