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食器棚の妖精 (#シロクマ文芸部)

珈琲とコーヒーの印象の違いについて考えながら、何気なく食器棚の扉を開けた。
すると、珈琲カップとコーヒーカップの間に寝そべっている、手のひらに乗るくらい小さいおじさんと目が合った。

「いつからそこにいるの」
「さぁねぇ」
「どうしてそんなにやる気無さそうなの」

おじさんは起き上がった。そして僕に言った。
「お前もどうせ、珈琲なんざ飲まんのだろ」おじさんは冷たい目をしていた。

「飲むよ。スチャバとか、ドドールとかで」

「かっ!!」
おじさんの大きくて小さな声が響いた。

「スチャバとかドドールとか。何とかアルパチーノとかフラフラフラぺチーノとか!」
おじさんは怒っていた。
そしてよろよろ近づいてきた。

「俺も連れてって?」
「気になるの?」
「……気になるでしょ」

僕は考えた。今日はこの後彼女とスチャバで待ち合わせをしている。連れて行けなくもない。だけど……

「おじさんにスチャバは合わないかもしれない。今度、コメコメダ珈琲に行く時に連れて行ってあげるよ」

おじさんは少し残念そうだった。

「そこってオシャレ?」
「うーん。地域密着な感じ」
「モーニングある?」
「あるよ!」
「じゃ、そこでいいや」

おじさんは笑顔になった。そしてまた食器棚へ戻ろうとしたから僕は言った。

「食器棚の中で寝るのはやめてくれない?なんだか不衛生だから」
おじさんは驚いていた。

「え、食器棚の妖精なのに?」
「そうなの?」
「うん、55年間。寿命は大体、人と同じ」

55歳のおじさんか。ますます食器棚に住み着かれるのは嫌だけど仕方ない。

「わかった。悪さはしないでね」
「しないよ。妖精だから」

僕は食器棚の扉をそっと閉めた。そして次の瞬間、勢いよく開けた。

「かっ!!!!」

おじさんの大きくて小さい声が響いた。




#シロクマ文芸部

今日は急遽親知らずを抜いて安静にしています。時間があるので今週のお題ではこれが2作目です°・*:.。.☆


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