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2020年6月の記事一覧

正しいようで正しくない、少し正しい文学論(邂逅/ミラン・クンデラ)(1928字)

正しいようで正しくない、少し正しい文学論(邂逅/ミラン・クンデラ)(1928字)

「言いたい事も言えないこんな世の中」がいよいよ実現してきたというか、実はとっくに実現していて、さらに強化されつつあるというか、とにかく、今の世の中が喜ばしい状況じゃないことはわかる。

「言ってはいけない事」なんて、本当は存在しないのに。「空気を読む」名の下に、僕(ら)は日々圧し潰されている。

KY? その略称は、「空気が読めない」じゃなくて、「空気が読める」でも成立するよ。なんて、まさしく「空

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繭を解く君が最も、(繭、纏う/原百合子)(1233字)

「髪、伸ばさないの?」

僕は、この下らない質問が大嫌いだった。

ショートカットの女の子で、この質問を餌食になったのは、きっと僕だけじゃないんだろう。それを訊かれる度、うんざりしているのも。

僕が髪を短くしているのは、それが一番好きで、似合っているからだ。それなのに、「女の子は髪を伸ばさなきゃいけない」なんて、本当に下らない……。

私たちの制服は
髪で出来ている

――第1話より引用

『繭

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死んでも、夢で会いたくない(エンドロール/泉まくら)(1059字)

あぁ さよならなんて言葉だけ
あんなの嘘なのに
思い知るまでが恋

――泉まくら『エンドロール』より引用

自分がろくな奴じゃないせいか、自分から好きになった人は、大体ろくな奴じゃなかった。

でも、ろくな奴じゃないほど、彼らに対する僕の執着はひどくなった。固執すればするほど、向こうが冷めるのは知っていた。それでも止めることができなかったのは、(恋愛)感情が理屈ではどうにもならないことの証明でもあ

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ソコカラ ナニガミエル?(永遠のソール・ライター)(2347字)

1.親密なソール・ライター「伝説の写真家」とはいえ、僕は彼についてほとんど(という言葉すらウソになるほど)知らなかった。これでも、大学時代は現代芸術のゼミに所属していたのに。(まあ、熱心な学生とは言えなかったから、しょうがないんだけど。)

とにかく僕が、写真または写真家という人種に造詣が深くないことは、前もって言っておきたい。(そのことについて、誰かに責められるわけではないんだけど。)そして、素

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