皐月 朔

小説を書き綴る日々。晴れてたら隔日で走るのが日課。毎日一本短編を上げていきたいとおもう…

皐月 朔

小説を書き綴る日々。晴れてたら隔日で走るのが日課。毎日一本短編を上げていきたいとおもうので、よろしくお願いします

マガジン

  • ファンタジー短篇集

  • 秋の物語

  • 夏の物語

    ナンバリングはされてますが、基本的にそれぞれ独立した物語です 8/22それぞれにサブタイトルをつけました

  • 雑学

  • 黒騎士

    災厄として存在する黒騎士。 それに関わる人々の物語。

記事一覧

任務は暴君の商館で

 踏み出した一歩が地面に着くたび、そのかすかな音を聞きつけて番犬が飛び出してきやしないかとヒヤヒヤする。  この商館は広いし、どこに番犬が控えているかもわかって…

皐月 朔
7年前

新米兵士たちの日常

 上からは空にある太陽の光が降り注ぎ、下からは太陽光を吸収した地面の熱気が立ちのぼってくる。上下からの熱に声にならない悲鳴をあげながら、土で固められた人工の大地…

皐月 朔
7年前

酒場での雑談

 薄暗い酒場の中。人が通るための最低限の空間を確保したそこは、最大限に人を入れることができれば、収入もまた最大になるだろう、という店主の浅はかな考えが見え透いて…

皐月 朔
7年前

プロローグ的な何か

 見上げれば、いつもそこには月があった。それだけで、ここが元いた世界とは別の世界であると思い知るのには十分すぎた。  だから、というわけではないが、この世界を壊…

皐月 朔
7年前
1

スラム街での訓練

 戦場で、毒を散布された場所でもない限り、そこに流れる空気に違いはない。  ただ、その場の雰囲気で印象が変わるだけだ。それは匂いであったり、色であったり様々であ…

皐月 朔
7年前
1

道に迷って冷や汗流す

 招待状を舞踏会の受付嬢に渡し、舞踏会の本会場となっている大ホールに向かっていると、廊下で男と少年が立ち止まっていた。二人の立ち位置は、少年が男にもたれかかって…

皐月 朔
7年前
1

王家医務室の秘密

 白い壁、白い天井。  目を覚まして飛び込んできた光景に、ここが自分の部屋でないことをどうしようもなく理解した。体を起こそうとして、激しい痛みがウェヌの脇腹を襲…

皐月 朔
7年前

暁の空に初心を思い出す

 二日酔いで痛む頭を抱えながら酒場を出ると、そこにはすでに暁の空が目の前にあった。  東から生まれたばかりの太陽光が、目の奥を照らすようで心地よい。 「ぬぁぁぁ。…

皐月 朔
7年前
1

ひまわり色の思い出

「季節ハズレの海も悪くないねぇ・・・・・・」 「いやいや!!寒いだけで何もいいことねぇよ?!お前もさっきから震えてるじゃねぇか!」  そう叫んだ俺の方を見るマリは、唇を…

皐月 朔
7年前

砂漠で月見

「・・・・・・ここまでする必要あった?」 「ん?何がだい?」 「『ん?何がだい?』じゃないわよ!!他の女ならごまかされるような爽やかスマイル浮かべても、私はごまかされな…

皐月 朔
7年前
1

地底の日常

「・・・・・・つまらん」  天からの光が届かない地底。代わりに光源となっているのはそこかしこで動く色とりどりの虫の光と、薄ぼんやりと光る赤いものだ。地底に響いた先ほど…

皐月 朔
7年前
1

仕事が終わって

 茜色に染まる空を、揺れる馬車の荷台から見上げる。  物音を立てれば、御者台にのる男に気づかれるので、物音を立てるわけにはいかない。  リンメは一仕事終えた後の気…

皐月 朔
7年前
2

嘘から出たまこと

 絢爛にして華美。  目に飛び込んでくるその輝きに、見習い小姓の立場を偽って舞踏会に潜入したイネジクは、ただただ目を丸くするばかりだ。 「・・・・・・どうした、少年。主…

皐月 朔
7年前

狐の教え

 目の前の戦火に、足が竦みそうになる。いや、いっそのこと、足が竦んで動かなくなってしまえばいい、とさえ思ってしまう。  が、現実はそうならない。まるで足だけがワ…

皐月 朔
7年前

本日更新の小説。
今まで通り秋の物語に収録しよと思ったんですが、さすがにこれは季節関係なくね・・・・・・?と思ったんで新しいマガジンに収録。これからも一応毎日更新していきたいとは思ってますが、ファンタジーに比重多めで更新していくかも。

皐月 朔
7年前

理不尽

 いつからだろう、自分の心の赴くまま、人間を貶め、競わせ、絶望させようとするたびに邪魔が入るようになったのは。  少なくとも、ここ十数年の話ではない。邪魔が入り…

皐月 朔
7年前
2

任務は暴君の商館で

 踏み出した一歩が地面に着くたび、そのかすかな音を聞きつけて番犬が飛び出してきやしないかとヒヤヒヤする。
 この商館は広いし、どこに番犬が控えているかもわかっている。さらにいえば見回りの時間も事前に調べているので、この時間この通路には、警備の人間はこない。それがわかっていても、やましいことをしていると、一挙手一投足に気を使ってしまう。もしも見つかれば、罪人として捕まるだけでなく、打ち首の上で晒され

もっとみる

新米兵士たちの日常

 上からは空にある太陽の光が降り注ぎ、下からは太陽光を吸収した地面の熱気が立ちのぼってくる。上下からの熱に声にならない悲鳴をあげながら、土で固められた人工の大地の上を、若い兵士たちが走っている。コースは土で固められた場所と、芝生が植えられた場所の境。
「これ、ぜ、ぜったい・・・・・・、きょ、きょうかんの・・・・・・うさばらし・・・・・・だよな」
「はッ・・・・・・!!なにを今更・・・・・・!!そう

もっとみる

酒場での雑談

 薄暗い酒場の中。人が通るための最低限の空間を確保したそこは、最大限に人を入れることができれば、収入もまた最大になるだろう、という店主の浅はかな考えが見え透いているかのような店内だ。
 その店内と、先日先輩とともに呑みに行った店を脳内で比べ、やはりこれくらい混み合って騒がしい方が自分には合っているな、と再認識する。店内の様子を観察していると、今日、この店で飲むことになった理由が、ついにその重い口を

もっとみる

プロローグ的な何か

 見上げれば、いつもそこには月があった。それだけで、ここが元いた世界とは別の世界であると思い知るのには十分すぎた。
 だから、というわけではないが、この世界を壊すことには何の抵抗もなかったし、計画通りに月食が始まった時には安心さえしたものだ。
 イトゥユの立つ地の遥か下方、群れた人々が空を指差している。遠くにいても聞こえるその声には、恐れ、戸惑い、不安などがその大半を占めている。しかし、その声を聞

もっとみる

スラム街での訓練

 戦場で、毒を散布された場所でもない限り、そこに流れる空気に違いはない。
 ただ、その場の雰囲気で印象が変わるだけだ。それは匂いであったり、色であったり様々であるが。
 そのことがわかっていてもこの息苦しさだけはどうにもならない。周囲を建物に囲まれ、狭い空を見上げる。周囲から漂ってくるのは、ゴミの匂いと腐った水の匂い。壁には、そここそが我が居城と言わんばかりに、もたれかかり眠る人。
 スラム街とい

もっとみる

道に迷って冷や汗流す

 招待状を舞踏会の受付嬢に渡し、舞踏会の本会場となっている大ホールに向かっていると、廊下で男と少年が立ち止まっていた。二人の立ち位置は、少年が男にもたれかかっているようなもの。
 舞踏会というのは名目で、その実、貴族同士の情報交換であったり、主催者が自分の愛娘のお披露目というのがこの国でいう舞踏会の本当の目的だ。今回の舞踏会は貴族同士の情報交換が隠された目的。そのような場所で、あのような目立つこと

もっとみる

王家医務室の秘密

 白い壁、白い天井。
 目を覚まして飛び込んできた光景に、ここが自分の部屋でないことをどうしようもなく理解した。体を起こそうとして、激しい痛みがウェヌの脇腹を襲った。
 今いるのが自分の部屋でないことは理解していたが、どうして目を覚ましたのが自分の部屋でないのか。それを思い出せなかったウェヌは、脇腹の痛みでここがどこなのかを理解した。
「医務室であるか、ここは・・・・・・」
 起き上がることを諦め

もっとみる

暁の空に初心を思い出す

 二日酔いで痛む頭を抱えながら酒場を出ると、そこにはすでに暁の空が目の前にあった。
 東から生まれたばかりの太陽光が、目の奥を照らすようで心地よい。
「ぬぁぁぁ。もう朝かよ。って今何時だ・・・・・・」
 太陽光を浴び、次第に意識が覚醒していくのを全身で感じるイーヘルの後ろで、野太い男の声が響いた。正確な時間はわかっていないが、朝のまだ早い時間である、ということはわかっているのか、その声はいつもより

もっとみる

ひまわり色の思い出

「季節ハズレの海も悪くないねぇ・・・・・・」
「いやいや!!寒いだけで何もいいことねぇよ?!お前もさっきから震えてるじゃねぇか!」
 そう叫んだ俺の方を見るマリは、唇をすっかり青くして、普段から悪い顔色がより一層悪くなっている。心配させまいと微笑んでいるのだろうが、それがより一層儚さを増すことになっていることに、マリは気がついていないのだろう。
 ひと昔前、雪解け水で川が増水する前は、マリの好きな

もっとみる

砂漠で月見

「・・・・・・ここまでする必要あった?」
「ん?何がだい?」
「『ん?何がだい?』じゃないわよ!!他の女ならごまかされるような爽やかスマイル浮かべても、私はごまかされないわよ!?」
「へぇ。他の女の子ならごまかされるっていうことはわかるんだ」
「・・・・・・!!」
 砂と月明かりしかない場所に、二人の男女の声が響く。声が反響するものもないので、声はよく聞こえる。からかわれ、英人のことを叩こうとして

もっとみる

地底の日常

「・・・・・・つまらん」
 天からの光が届かない地底。代わりに光源となっているのはそこかしこで動く色とりどりの虫の光と、薄ぼんやりと光る赤いものだ。地底に響いた先ほどの言葉を辿れば、ひときわ大きな赤い光にたどり着く。そして、その言葉をきっかけに、地底でうごめいていた赤い光も動きを止める。地底にある赤い光。その光源を目にしたとき、地上にすむものは怯え逃げ出すだろう。なにしろ、その赤い光が漏れているの

もっとみる

仕事が終わって

 茜色に染まる空を、揺れる馬車の荷台から見上げる。
 物音を立てれば、御者台にのる男に気づかれるので、物音を立てるわけにはいかない。
 リンメは一仕事終えた後の気だるさに身を預けながら、右手の中にある仕事の成果を握りしめる。状況は二転三転したが、どうにかこの手につかみとることができた。後はこれを依頼主に届けるだけだ。
『今回もどうにかうまくいったな。まぁ、さすがに宝石を奪う直前で男装野郎が来た時は

もっとみる

嘘から出たまこと

 絢爛にして華美。
 目に飛び込んでくるその輝きに、見習い小姓の立場を偽って舞踏会に潜入したイネジクは、ただただ目を丸くするばかりだ。
「・・・・・・どうした、少年。主人はどこだ」
 抑揚のない声に、途切れがちにそう尋ねられ、イネジクは正気に戻り、声のした方に顔を向ける。
 そして、そこにあった顔に心を殴りつけられた。
「・・・・・・なぜ黙っている。主人はどこだ。はぐれたのか」
 その声の主人こそ

もっとみる

狐の教え

 目の前の戦火に、足が竦みそうになる。いや、いっそのこと、足が竦んで動かなくなってしまえばいい、とさえ思ってしまう。
 が、現実はそうならない。まるで足だけがワユラでない誰かのものになってしまったかのような感覚に陥る。目的地へと向かって走りながら、ワユラはどうしてこんなことになってしまったのか、と自問する。
 当然、己の中に答えがない状態で自分に問いかけても答えが返ってくるわけはなく、結局、そうす

もっとみる

本日更新の小説。
今まで通り秋の物語に収録しよと思ったんですが、さすがにこれは季節関係なくね・・・・・・?と思ったんで新しいマガジンに収録。これからも一応毎日更新していきたいとは思ってますが、ファンタジーに比重多めで更新していくかも。

理不尽

 いつからだろう、自分の心の赴くまま、人間を貶め、競わせ、絶望させようとするたびに邪魔が入るようになったのは。
 少なくとも、ここ十数年の話ではない。邪魔が入り始めた当初は気のせいだと思っていた。それを5、6年ほど放置していたのは、邪魔が入るのもたまには面白い、と思っていたからだ。さらに言えば、邪魔が入るということは、過去にいくらかいたと言われる偉大な悪魔に自分が数えられているかのようで、いくらか

もっとみる