マガジンのカバー画像

黒騎士

9
災厄として存在する黒騎士。 それに関わる人々の物語。
運営しているクリエイター

記事一覧

黒騎士 最終話

 人間の暮らす地下洞窟。
 それは天頂で常に大陸を見張っている太陽から、人間が身を隠すためのものだ。
 その内の一つ、クローガ村と呼ばれる地下村がある。例に漏れず人間の暮らす集落であり、いまこの時、村の今後を左右する瞬間であった。
「では、これにて今後の方針の話し合いを終わりたいと思います」
 そう言ったのは、クローガ村の広場の中心で、机に座っている一人の女性だ。彼女の言葉を合図に、白髪の男性が立

もっとみる

黒騎士 8

 予想通りの展開に、カルドは思わず天を仰ぎたくなった。
 しかし状況がそれを許さない。例え一人一人ならカルドの足元にも及ばない村人とはいえ、今はカルドの周囲に隙間なくいるのだ。村人たちが自分たちの身を顧みずカルドをこの地に沈めるために全力でかかってくれば、さすがのカルドでも無傷でこの場をやり過ごす自身はない。加えてここはクローガ村という、人間が太陽の光から身を守るために作った人工の地下道だ。土地勘

もっとみる

黒騎士 7

 周囲を土の壁で覆われた部屋の中に、人影が3つある。人型のものが一つと、トカゲ型のものが2つだ。3人は車座になって座っており、人間が話した言葉を、帽子をかぶったリザードマンが訳してもう一人のリザードマンに伝える、ということを行っている。対して、リザードマンの方の言葉を人間は理解できるのか、帽子のリザードマンの力を借りることなく、対面に座ったリザードマンの言葉のみを聞き、言葉を放っている。
{はぁ・

もっとみる

黒騎士 6

 太陽が3つ昇り、地表を焼く熱がもっとも高くなる時間帯。そんな時間帯にあっても、太陽光を遮る洞窟の中は少し涼しい。
 洞窟の中に作られているのは、リザードマンの家だ。
 その、リザードマンの家の中で、カルドは帽子をかぶったリザードマンと対峙していた。
「なぜお前がここに・・・・・・。いや共通言語を使わずにすむのは俺も楽でいいが」
 目の前のリザードマンとは、カルドは何度か話したことがある。黒騎士の

もっとみる

黒騎士 5

 月が三つ空に昇ろうとも、砂漠の砂が冷えることはない。天頂の太陽が動かないからだ。
 しかし、月が昇れば精霊術は使いやすくなる。困るのは普段探さなければ見つけることができないような精霊が、宙を気ままに漂うことだ。
 カルドはいつもよりも騒がしい精霊をなだめながらリザードマンのいる洞窟に向かって進んでいた。
 リザードマンの本拠地に行くのだから、当然見張りがいるものだと思っていたが、道中でリザードマ

もっとみる

黒騎士 4

「この村から出て行きたい理由はなんですか!?」
 村長に、リザードマンの住処に潜入捜査する旨を伝えたカルドを、アリアンスの質問が襲った。
 アリアンスの問いかけに、カルドは自分の眉間にシワが寄るのがわかった。
「何をいきなり・・・・・・」
「だって!リザードマンの住処に行くのは、殲滅するための下見ですよね!?」
 村長にはそう説明したので、カルドは頷く。眉間のシワはまだなくなりそうにない。
「初め

もっとみる

黒騎士 3

 クローガ村の村長に、リザードマンを殲滅するのではなく、迎撃するのなら、この村の用心棒にならなければいけない、と言われ、カルドは思わず眉間にしわを寄せた。
 言っている意味はわかる。リザードマンを殲滅しなければ、この村に訪れる脅威は去らない。そのため迎撃するのなら用心棒としてこの村に滞在し、リザードマンが襲撃してくるために迎撃せよ、ということだ。
 意味はわかるが、この取引は平等ではない。なにしろ

もっとみる

黒騎士 2

 
 今の雇用主が、カルドの知らないうちにカルドを解雇していた。さらに今滞在している村で雇うことに勝手に許可を出したことに対する真偽を確かめようと、酒場に入ったカルドではあったが、酒場での客たちを見て後悔した。相当に酔っ払っている。これでは話にならない。
 これは日を改めんといかんな、と思い、酒場を出ようとしたカルドだが、その肩を何者かに掴まれた。
 酔っ払いに絡まれることほど面倒なことはない。逃

もっとみる

黒騎士 1

「黒騎士だ・・・・・・」
 荒野を走る馬車の中、誰かの呟きでカルドは浅い眠りから目を覚ました。荷台にもたれかかってうつらうつらとしていた意識がはっきりとする。馬車が走っている陽光大陸では、天頂にはいつも太陽がある。その陽光大陸では極めて稀な、幌のない馬車の荷台だ。日よけにかぶっている幅広帽から空を見上げれば、空には太陽が3つある。
 太陽が3つあることを確認して、カルドは軽く舌打ちした。
 太陽と

もっとみる