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三十一提督の軍艦小話(さわ)

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海軍・軍艦に関する記事をまとめました
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2023年2月の記事一覧

19世紀軍艦の艦載砲と装甲

19世紀軍艦の艦載砲と装甲

 以前、下のような記事を書いたときに砲と装甲についてはいずれまたと書いてしまったので、まとめてみました。

前装・後装砲、滑腔・施条砲 最初に砲の種類について説明しておこう。まず弾丸の装填方法で前装砲 muzzle loader (ML) と後装砲 breech loader (BL) に分けられる。前装砲は砲弾を砲身の発射口(砲口)から装填するもので、戦国時代の火縄銃を想像してもらえればいい。後

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フリゲートってどんなフネ

フリゲートってどんなフネ

 この質問は海軍クラスタがもっとも答えに困る質問のひとつでしょう。ウィキペディアの冒頭の説明を見た時は思わず笑ってしまいました。過去の話はぜんぶ置いて「今はね」と単純化してしまうこともできなくはありませんが、しかしそれもそれほど昔からのことではないのです(世代にもよるでしょうが)。
 なおこちらの記事とすこし内容がかぶります。あらかじめご了承ください。

艦種類別と等級制 旧日本海軍では艦艇類別標

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スション提督の第一次世界大戦 - Admiral Souchon in WWI

スション提督の第一次世界大戦 - Admiral Souchon in WWI

 古い書籍などではゾーヒョンと表記されていたドイツ帝国海軍のスション提督は一般には第一次大戦冒頭での地中海支隊司令官として知られていますが、実は戦争中それだけにはとどまらない興味深い活躍をしていました。最後は後味の悪いキャリアの終え方になってしまいましたが、波乱に満ちたスション提督の戦歴を知ってもらえましたら幸いです。

第一次大戦まで ヴィルヘルム・スション(ゾーヒョン)Wilhelm Souc

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大英帝国自治領海軍 - Navies of Dominion in the British Empire

大英帝国自治領海軍 - Navies of Dominion in the British Empire

 かつて「七つの海を支配する」と称されたイギリス海軍にはその名称など特有の慣習があります。その同じ慣習をもつ海軍がイギリスの他にもいくつかあるのですが、それらはもともとイギリスの植民地から自治領となり、自治領の時代に海軍を創設したその末裔なのです。
 なお文中にあらわれる組織名には定訳がないものがあります。本稿中かぎりの私訳であることをご了承ください。

パクスブリタニカ のちに「長い18世紀」と

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巡洋艦ドレスデンの冒険

巡洋艦ドレスデンの冒険

 第一次大戦でのドイツ巡洋艦といえばまずエムデン SMS Emden の名前が挙がりついでケーニヒスベルク SMS Königsberg が有名ですが、それほど知られてはいないもののドレスデン SMS Dresden の行動もけっこう波瀾万丈といえるのでできれば多くの方に知って欲しいと思います。

巡洋艦ドレスデン ドレスデンは1908年に就役した軽巡洋艦でその艦名はドイツ帝国の構成国のひとつであ

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南米ABC三国の建艦競争

南米ABC三国の建艦競争

 むかしツイッターに投稿した内容ですが加筆してまとめてみます。

南アメリカ大陸 スペインとポルトガルの植民地だった南アメリカ大陸では、ナポレオン戦争で本国が征服され統制が緩んだのをきっかけとして19世紀最初の四半世紀にほぼ全域が独立した。大半を占めていた旧スペイン領では統一国家を目指す動きもあったが、各地域の利害が一致せず各地に新国家が分立することになる。

 この中ではアルゼンチン、ブラジル、

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機雷は嫌い

機雷は嫌い

 タイトルは日本海軍の機雷潜水艦(伊号第21潜水艦型)は機雷敷設作業中、潜航状態で低速航行をする必要があり、敷設したばかりの機雷の方に押し流されそうになることがあって操船が難しく乗組員から「嫌いな潜水艦だ」と洒落混じりに愚痴を言われたという故事に由来しております。けしてワタクシの考えたものではありませんので。
 それはさておき、機雷という兵器は実戦で使用されるようになってからすでに1世紀半を超える

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英リバー級フリゲート

英リバー級フリゲート

 第二次世界大戦が始まると同時にドイツは無制限潜水艦戦を宣言した。イギリスは先の大戦で父の世代が血をもって贖った教訓である「船団護衛に必要なのはとにかく数」に従い帝国中の造船能力を総動員して護衛艦艇の量産にとりかかる。しかし国内の造船所の多くは軍艦の建造に不慣れだった。また精密なタービン機関はより高速を必要とする軍艦に装備する分を製造するので手一杯だった。

 こうして事情からうまれたのが艦名に花

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イギリス戦艦の黎明 1873-1892

イギリス戦艦の黎明 1873-1892

はじめに 近代戦艦の歴史を振り返ってみるといくつかのエポックが見受けられる。1861年の装甲艦の登場と1906年の弩級艦の誕生がその最たるものだが、最初の戦艦と呼ばれるロイヤル・ソブリン Royal Sovereign の就役 (1892年) と、戦艦の原形とされるデバステーション Devastation の就役 (1873年) も大きな契機とみていいだろう。

 しかしこれはあくまでも後世になっ

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英国主力艦名録

英国主力艦名録

日本海軍や海上自衛隊では、艦艇の命名基準を規定している。しかし他国ではこうした基準を明文規定として定めているだろうか。各国の法令を確認するのは自分の手に余るが、実際の命名のされ方を見る限りとてもそうとは思われない。試みに英国主力艦160隻あまりの艦名を分類してみたのが小文である。

大きく王室関係、その他の人名、官職・称号、地名・地域名、神話・伝承、一般名詞・形容詞、不明の7カテゴリに分け、それぞ

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オーストリア・ハンガリー海軍の歴史

オーストリア・ハンガリー海軍の歴史

たまたま機会があり、オーストリア・ハンガリー海軍について調べ始めたところこれが思いのほか面白かった。前身のオーストリア海軍を含めてもその歴史はせいぜい一世紀ほどなのだが、山あり谷ありで飽きさせない。
なお、オーストリア・ハンガリー海軍の仮想敵は一貫してイタリアなのでイタリアの政情(特に統一運動)に大きく影響されている。

オーストリアと海との関わりは1382年にアドリア海に面する港湾都市トリエステ

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