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エッセイ

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架空の兄が出来た話。

架空の兄が出来た話。

その日は、なんだか気分の良い帰り道だった。

予定以上に仕事は捗ったし、子どもたちのトラブルもなかった。仕事帰りにカフェにだって行くことができた。そして手からぶら下がるのは、先ほどコンビニで買ったばかりの幸せバターのポテチと限定三ツ矢サイダーみかん味。

その上、明日からは週末。しかもずっと楽しみにしている予定があるときた。

傘の上で弾ける雨の音も心なしか、リズミカル。
こんなささやかな幸せが幾

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繋がれた小さな手。

繋がれた小さな手。

きゅ、と小さな温もりがわたしの手の平に触れる。

少し驚いて、そうっと手の持ち主を盗み見る。特段、照れ臭そうでもなくうれしそうでもなく、いつもと変わらぬ低学年のそうたくん(仮名)の横顔。

意外に思ったのは、彼は普段わたしの近くによってきたり、スキンシップを求めたりするようなタイプではないから。

…なんでこのタイミングで?

彼は、玄関で上靴から外靴に靴を履き替えるときに手を握ってきた。

あ、

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新1年生に、きゅん。

新1年生に、きゅん。

小学校に入学して、はや2週間が経った1年生たち。

廊下ですれ違っただけで、にこにこと楽しそうな笑みを乗っけて、手を振ってくれる子。
思わず、こちらも笑顔になっちゃう。

廊下で初めてわたしと会って、
「だあれ?」と目をぱちくりさせて聞いてくる子もいる。
「碧魚先生だよ〜。(名札ちらっ)よろしくね、○○さん。」
「わ〜ありがとうー!なんでわたしの名前、知ってるのー!」

か、可愛い。
まあ多分、次

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予定は未定。

予定は未定。

わたしは、予定を立てるのが好きだ。
否、むしろ立てないと落ち着かないという方が正しい。

学生時代、テスト前にはドリルの○ページから〇ページ。○○を重点的にやる日。など細かくノートに書き記した。
そして完了したものに罫線を被せること、そして+α出来たことを書き足すことに優越感を抱いていた。

今なお、その習慣は健在であり、仕事専用の手帳には同じようにその日や今週やるべきことを細かく書き出しており、

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すずめと一緒に「戸締まり」できた話。

すずめと一緒に「戸締まり」できた話。

昨日の金曜日ロードショー、「すずめの戸締まり」でしたね…!
映画館で見て衝撃を受け、すごく印象に残った映画の1つです。

そういえば、前にその日のわたしの出来事と映画の内容を絡めてnoteを書いていたなあ、と思い出しました。
仕事に対してマイナスなことも書いてるし、
書いた当時は投稿を躊躇していましたが、折角書いたしこの機会に出しとこう…!笑

…*…*………*………*………*……*

「すずめの

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ロイホであんみつに出会い直す。

ロイホであんみつに出会い直す。

以前、もはやわたしの作業部屋といっても過言ではない、愛しのコメダ珈琲についてつらつらと書いたが、比較的お客さんが少ない時間帯であれば、ファミリーレストランも作業場所として最高である。

なんたって、食べ物が充実している上に机が広い。その上ドリンクバーという、カフェオレも珈琲もメロンソーダも何でも飲み放題という神システムが存在するのだから。

そして意外と、時間を選べば、パソコンをカタカタしているサ

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卒業式、斜め前の先生の涙が美しいと思った。

卒業式、斜め前の先生の涙が美しいと思った。

つい先日、わたしの勤める小学校で卒業式があった。
卒業生の新たな門出を祝うかのごとく、春の日差しが温かな日だった。

何度も練習したように、1人1人、ゆっくりと体育館の壇上にあがる卒業生たち。

担任により名前を呼ばれると返事をし、卒業証書を受け取って礼をし、またゆっくりと階段を降りてゆく。

卒業生である6年生へどんな思いを抱くかは、これまでの彼らとの関係性によると言える。

わたしはというと、

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滋賀大津にて、ドイツを堪能する。

滋賀大津にて、ドイツを堪能する。

未知との遭遇は愉しい。

それが不安要素が特に見当たらず、期待に覆われているならばなおさら。

目に飛びこんでくる文字は読めるけれど、どんなものを指すのかは見当もつかない。
しかし、きっと美味しいものであるという期待は膨らむ。

わたしは、ドイツにやってきた。

いや、正しく言うと滋賀県大津市にある
「ヴュルツブルクハウス」というドイツ料理のレストランにやってきた。

可愛らしい民族衣装のようなワ

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ひな祭りの特別な甘酒。

ひな祭りの特別な甘酒。

つい先日まで、冷たい風に首を縮こませて歩いていたというのに急に気温が上がった。

分厚いセーターの下、じわりと微かに汗ばんできたので、コートを腕にかけ歩く。

今日のお稽古はきっとお雛祭りにちなんだしつらえに違いない、なんて思いながら茶道の先生のお宅へ急ぐ。

予想通り、使うお道具も床の間も桃の節句のしつらえ。
菱餅に似たような棚(業平棚というらしい)と、床の間には可愛らしいお雛様と桃の花。

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かつてサロンだった京都の老舗喫茶店。

かつてサロンだった京都の老舗喫茶店。

京都といえば、歴史と文化の町だが、それと同時に喫茶店・カフェ天国でもあると思う。

先日京都の老舗喫茶店「フランソア喫茶室」を訪れた。喫茶店好きな方々の中には、耳にされたことがあるかもしれない。

30分ほど店の前で並んでから、わくわくしながら足を踏み入れた。
重厚なつくりの内装に、老舗と呼ばれるのにふさわしい風格を感じ、気持ちが上がる。

珈琲を頼むつもりだったけれど、一軒目で珈琲を飲んだばかり

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お守りはちみつ。

お守りはちみつ。

「はちみつ、舐めとき。」
幼いわたしが「喉が痛い。」と訴えると母は必ずそう言った。

ガサガサ、チクチク、イガイガ。
わたしの風邪は、決まって喉から嫌な乾燥と痛みを伴ってやって来た。

トローチでもなく、病院でもなく、はちみつ。
はちみつは、我が家の薬とも言える存在だった。
また母から、「はい、これ食べ。」と渡されるはちみつもバリエーション豊かで、ヨーグルトにふんだんにかけた「はちみつヨーグルト」

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ドレッサーがわたしの暮らしを変える。・・・多分。

ドレッサーがわたしの暮らしを変える。・・・多分。

ドレッサー。それは幼い日のわたしにとって憧れの象徴だった。

母の部屋にあった落ち着いた色合いのどっしりとした立派なドレッサー。引き出しに手を伸ばせば、目をひく蠱惑的な色の口紅や、つやつやと小瓶の中で煌めくマニキュアたち。
何度か母が留守の時間を見計らって、小さな唇や爪にちょんと色を乗せてみたっけ。

わたしも大人になったら、ドレッサーでお化粧するんだ・・・!

そう信じてやまなかったのだが、実際

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映画 「Wish」感想つらつら。

映画 「Wish」感想つらつら。

今年は、ディズニーが世に誕生してちょうど100周年の年にあたるそう。

公開前から「ディズニー100年の集大成」と銘打って宣伝された、「Wish」。
駅に予告のポスターが掲示されていたり、グッズがコラボされたりしているのを見かけ、広告にもかなり力を入れている様子がうかがえた。

さあ、どんなものを出してくるんだろう、と気になっており先日ようやく観に行くことができた。

〜ここから じゃんじゃんネタ

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寒い時期の特別なおもてなし。

寒い時期の特別なおもてなし。

頬に当たる風は、相変わらずつんと冷たい。心なしか、はや足で茶道のお稽古に通っている先生のお宅に向かう。

扉を開けて目に飛び込んできたのは、枝につつましやかに白く色づく可憐な花。これは梅かもしれない。
こんなに寒いというのに、どこかでは春の兆しが顔を覗かせているんだろうか。

この日、わたしがお点前をするのは、1か月半ぶりだった。
先月の初めにあった初釜は、先生やお稽古歴の長い先輩にお点前をしても

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