碧魚 まり
これまでに書いたエッセイをまとめています。🍀
碧魚の、小学校の先生としての日常をちらり。
食べることが大好きな人の、フードエッセイ。
わたしが愛してやまないこと、もの、場所など。
茶道初心者が、お稽古の中で感じたことを徒然と。
「さあさ、もう焼き上がりますんで。」 玄関で靴を脱いでいると、にこやかにそう言われた。 もう、焼き上がり、ますんで・・・? 漂う焼けるお肉の、暴力的なまでにそそられるいい匂い。お昼に食べた給食はすっかり消化し終えている。ほどよく空っぽの胃が、物欲しげにきゅるきゅる動く。 ・・・ちょうどご夕食の準備中だったのだろうか。タイミングが悪くて申し訳ない。早くお暇しなければ。 そんなことを考えながら、案内されつつ、部屋に続く廊下を歩く。 「さあさ、先生、こちらです。」 そして通
きゅ、と小さな温もりがわたしの手の平に触れる。 少し驚いて、そうっと手の持ち主を盗み見る。特段、照れ臭そうでもなくうれしそうでもなく、いつもと変わらぬ低学年のそうたくん(仮名)の横顔。 意外に思ったのは、彼は普段わたしの近くによってきたり、スキンシップを求めたりするようなタイプではないから。 …なんでこのタイミングで? 彼は、玄関で上靴から外靴に靴を履き替えるときに手を握ってきた。 あ、そうか。 靴を履くためのバランスを取るために握ったのか…! きっと近くにあったわ
小学校に入学して、はや2週間が経った1年生たち。 廊下ですれ違っただけで、にこにこと楽しそうな笑みを乗っけて、手を振ってくれる子。 思わず、こちらも笑顔になっちゃう。 廊下で初めてわたしと会って、 「だあれ?」と目をぱちくりさせて聞いてくる子もいる。 「碧魚先生だよ〜。(名札ちらっ)よろしくね、○○さん。」 「わ〜ありがとうー!なんでわたしの名前、知ってるのー!」 か、可愛い。 まあ多分、次会っても名前覚えていないだろうけれど。 関わりのない先生、すなわちあまり知らな
わたしは、予定を立てるのが好きだ。 否、むしろ立てないと落ち着かないという方が正しい。 学生時代、テスト前にはドリルの○ページから〇ページ。○○を重点的にやる日。など細かくノートに書き記した。 そして完了したものに罫線を被せること、そして+α出来たことを書き足すことに優越感を抱いていた。 今なお、その習慣は健在であり、仕事専用の手帳には同じようにその日や今週やるべきことを細かく書き出しており、終えるたびに罫線を引いている。 そしてプライベート用の手帳でも、その週の目標や
昨日の金曜日ロードショー、「すずめの戸締まり」でしたね…! 映画館で見て衝撃を受け、すごく印象に残った映画の1つです。 そういえば、前にその日のわたしの出来事と映画の内容を絡めてnoteを書いていたなあ、と思い出しました。 仕事に対してマイナスなことも書いてるし、 書いた当時は投稿を躊躇していましたが、折角書いたしこの機会に出しとこう…!笑 …*…*………*………*………*……* 「すずめの戸締まり」をレイトショーで観る予定だったちょうどその日、研究授業が終わった。
以前、もはやわたしの作業部屋といっても過言ではない、愛しのコメダ珈琲についてつらつらと書いたが、比較的お客さんが少ない時間帯であれば、ファミリーレストランも作業場所として最高である。 なんたって、食べ物が充実している上に机が広い。その上ドリンクバーという、カフェオレも珈琲もメロンソーダも何でも飲み放題という神システムが存在するのだから。 そして意外と、時間を選べば、パソコンをカタカタしているサラリーマン、勉強をしている大学生や高校生など「おひとり様」のお客さんも多い。
つい先日、わたしの勤める小学校で卒業式があった。 卒業生の新たな門出を祝うかのごとく、春の日差しが温かな日だった。 何度も練習したように、1人1人、ゆっくりと体育館の壇上にあがる卒業生たち。 担任により名前を呼ばれると返事をし、卒業証書を受け取って礼をし、またゆっくりと階段を降りてゆく。 卒業生である6年生へどんな思いを抱くかは、これまでの彼らとの関係性によると言える。 わたしはというと、卒業生であるこの学年の子たちを一度も受け持ったことがなく、さほど関わりがなかった
未知との遭遇は愉しい。 それが不安要素が特に見当たらず、期待に覆われているならばなおさら。 目に飛びこんでくる文字は読めるけれど、どんなものを指すのかは見当もつかない。 しかし、きっと美味しいものであるという期待は膨らむ。 わたしは、ドイツにやってきた。 いや、正しく言うと滋賀県大津市にある 「ヴュルツブルクハウス」というドイツ料理のレストランにやってきた。 可愛らしい民族衣装のようなワンピースに身を包んだウェイトレスさんに席に案内される。 タルト生地のような温か
つい先日まで、冷たい風に首を縮こませて歩いていたというのに急に気温が上がった。 分厚いセーターの下、じわりと微かに汗ばんできたので、コートを腕にかけ歩く。 今日のお稽古はきっとお雛祭りにちなんだしつらえに違いない、なんて思いながら茶道の先生のお宅へ急ぐ。 予想通り、使うお道具も床の間も桃の節句のしつらえ。 菱餅に似たような棚(業平棚というらしい)と、床の間には可愛らしいお雛様と桃の花。 どちらも、1年ぶりの再会である。 わたしは、ここに季節の移ろいを感じに来ているのか
京都といえば、歴史と文化の町だが、それと同時に喫茶店・カフェ天国でもあると思う。 先日京都の老舗喫茶店「フランソア喫茶室」を訪れた。喫茶店好きな方々の中には、耳にされたことがあるかもしれない。 30分ほど店の前で並んでから、わくわくしながら足を踏み入れた。 重厚なつくりの内装に、老舗と呼ばれるのにふさわしい風格を感じ、気持ちが上がる。 珈琲を頼むつもりだったけれど、一軒目で珈琲を飲んだばかりだったので、ここでは紅茶とレアチーズケーキを頼んだ。 老舗喫茶店なら、珈琲だけ
「はちみつ、舐めとき。」 幼いわたしが「喉が痛い。」と訴えると母は必ずそう言った。 ガサガサ、チクチク、イガイガ。 わたしの風邪は、決まって喉から嫌な乾燥と痛みを伴ってやって来た。 トローチでもなく、病院でもなく、はちみつ。 はちみつは、我が家の薬とも言える存在だった。 また母から、「はい、これ食べ。」と渡されるはちみつもバリエーション豊かで、ヨーグルトにふんだんにかけた「はちみつヨーグルト」、角切り大根をはちみつに漬けた特製「はちみつ大根」、そしてスプーンで一匙すくって
応募数10648の中から、ブックサンタについて書いた、さわかみ投信さん主催の #かなえたい夢 プロジェクトの候補に選んでいただきました! なんかすごい夢がたくさん並ぶ中、万が一選ばれたりでもしたら、 もうわたしサンタの格好して直々に本を届けにいくしかないですね…!笑
ドレッサー。それは幼い日のわたしにとって憧れの象徴だった。 母の部屋にあった落ち着いた色合いのどっしりとした立派なドレッサー。引き出しに手を伸ばせば、目をひく蠱惑的な色の口紅や、つやつやと小瓶の中で煌めくマニキュアたち。 何度か母が留守の時間を見計らって、小さな唇や爪にちょんと色を乗せてみたっけ。 わたしも大人になったら、ドレッサーでお化粧するんだ・・・! そう信じてやまなかったのだが、実際お化粧をするような年齢になったら、ドレッサーの存在なんてこれっぽっちも頭に残って
今年は、ディズニーが世に誕生してちょうど100周年の年にあたるそう。 公開前から「ディズニー100年の集大成」と銘打って宣伝された、「Wish」。 駅に予告のポスターが掲示されていたり、グッズがコラボされたりしているのを見かけ、広告にもかなり力を入れている様子がうかがえた。 さあ、どんなものを出してくるんだろう、と気になっており先日ようやく観に行くことができた。 〜ここから じゃんじゃんネタバレに繋がることにも言及していきます。ご注意ください。これから観にいかれる予定の
頬に当たる風は、相変わらずつんと冷たい。心なしか、はや足で茶道のお稽古に通っている先生のお宅に向かう。 扉を開けて目に飛び込んできたのは、枝につつましやかに白く色づく可憐な花。これは梅かもしれない。 こんなに寒いというのに、どこかでは春の兆しが顔を覗かせているんだろうか。 この日、わたしがお点前をするのは、1か月半ぶりだった。 先月の初めにあった初釜は、先生やお稽古歴の長い先輩にお点前をしてもらい、わたしはいただくのみだったからだ。 「お棗を置く位置はもう少し、右。」
「かしこいまりちゃんにこれをあげよう。」 そう言って今は亡き祖母は、幼稚園児だったわたしに、阪神百貨店の包みを差し出した。 祖母は百貨店が好きで、足腰弱るまではよく出かけていたものだ。 なんだろう…! わくわくしながら包装紙を破る。 姿を現したのは綺麗にラッピングされ、お行儀よく箱に納まったハンカチだった。 黒地に華やかな花が描かれている、ふわふわのハンカチ。 (…あんまり好きじゃない。セーラームーンの柄とかが良かったな。) 5歳だったわたしは、内心少しがっかりし