自分の誕生日プレゼントに、人生初アートを買う。
3年前から、毎年自分の誕生日前後にエッセイを書くことにしている。
そのときその瞬間の自分のリアルを文章という形にして後から見返すと、ほうこんなことを思っていたのか…と自分のことにも関わらずちょっと俯瞰的に見ることが出来る。
これがなかなか興味深い。
ちなみに、去年の。
なんだかつい最近な気がする。
でも、このときみたいな焦りのような気持ちはだいぶ緩やかになったような。
一昨年の。
結婚してちょっぴり変わったこと。
誕生日は、あんまり関係なかった。笑
3年前の。
20代…おおう眩しい響き…。
このときは1人暮らしだったんだなあ。
自分に花束買うの我ながら良きアイデア。
10月末に無事に出産できれば、母になる前の最後の誕生日になる。
産休・育休に入れば、入ってくるお金は減るのに購入しなければいけないものは増え、自分のためにお金を使う機会は減ると思われる。
心置きなく、自分のためにお金が使える今、何か記念になるようなものでも買おうかと数週間前から企んでいた。
とはいえ、鞄だとか、靴だとか、さほどブランドものにも惹かれないし、高価なジュエリーにもそんなに興味がない。
最近のわたしの大きなお金のかけどころといえば、物というより、旅行や美味しいものなど経験になるものがほとんど。
鞄が好きなので、店頭で見かけたらすごく可愛い…いいなあ、と相応のときめきみたいなものは感じる。
だけど、値段を見ると、これだけあったら、どこそこへ行けちゃう…とか、カフェ何回分…とか現実的に考えてしまう。
タイトルにもある通り、結果的にわたしは、アートを買うことにした。
とはいえ実は、買おう!と勇んで出かけたわけではなかった。
たまたま足を運んだ百貨店の一角に設けられた、ギャラリー。わたし好みの色遣いの絵が並んでいたので、ふらりと入った。
わたしは「好き」がたくさんあると自負しているのだけどその中の一つは、絵をみること。
「美術館巡りが趣味です!」といえるほどの頻度ではないけれど、年に5回くらいは美術館に行く。
有名な画家さんでなくても、イラストレーターさんや作家さんの絵も大好き。
なので、美術館のショップや雑貨屋さんでなんとなく好きだな、と思った作品のポストカードをよく買う。
そのギャラリーでも、いつものように、いいなと惹かれた絵のポストカードを4枚ほど選んだ。
絵を見ていると、ふと部屋に飾るとしたら、どれだろうという想像がよぎった。
そんな目で絵を見たことがなかったから、いつもより熱がこもる視線。
時にざらり、時にしゅるんと波打つ表面の盛り上がり。
砂金を溶かしたような、微細な輝き。
岩絵の具を使って描かれているようで、半立体的な筆の運びがよく分かる。
やはり、質感を伴う本物はポストカードに印刷されたものよりも、迫ってくるものが違う。
大きなサイズは、えいっと買えるような値段ではなかったけれど、少し小さなサイズなら、いいホテルにニ食つきの一泊するくらいで買える。
これまで生きてきて、一点物の絵を買うという選択肢を考えたことはなかった。
けれどこれはいい機会じゃないか…!となんだか興奮してきた。
しかもいいな、と思った絵の一つに紫陽花が描かれているときた…!
わたしは紫陽花がすごく好きだ。
花弁の中に、ひかえめに織り交じる色合いが好きとか、微妙に違う色形の様々な個性が楽しいとか、そもそも生まれ月の花だからとか、理由を並べるといろいろあるのだけれど、数ある花の中でも首位を争うくらい好きな花である。
夜の海に浮かぶようなどこか神秘的で儚げな紫陽花と、月の舟に乗るきゅるんと愛らしい二匹のうさぎ。
幸いなことに、たまたま作家さんの方が在廊されていて、この絵に思い描いていたストーリーを教えてもらえた。
二匹のうさぎは、一匹が旅する中で出会った友だちであり、この世界の綺麗なものや不思議なものを見つけていく旅を共にしているのだという。
…なんて素敵な…!
32歳。
生活ががらりと変わる変化の年になると思われる。
旅行、面白そうな企画展やイベント、行ったことのない喫茶店やカフェの開拓。
これまでは、心地よい場所、惹かれるもの、そういったものに刺激と安らぎを求めて外へ外へと出かけていた。
けれど、これからしばらくはそういうわけにはいかず、必然と家の中で過ごす時間も多くなってくるのだろう。
これまでにおざなりにしていた「暮らし」に向き合う機会も増えそうだ。
どこか遠くに出かけなくとも、身近にきっと美しいものや愛おしいものはたくさんある。
ー穏やかに、豊かに、健やかに。
日常に潜む小さなきらめきを見つけられるような、穏やかで満ち足りた瞬間を日々のなかで積み重ねていきたい。
ギャラリーの会期が終われば、購入した紫陽花とうさぎの絵が我が家にやってくる。
この絵を見るたびに、今の気持ちを思い出せたらいいなあ。
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