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美しきパフェに浸る。II

パフェとは、つかの間の夢であり刹那のエンターテイメントである。

以前、ブライトンホテル東京ベイのロビーラウンジ「シルフ」にて「美しすぎるパフェ」として苺をふんだんに使用したスワンパフェを堪能した。


そして今回また別のブライトンホテルに泊まることになり、他のスワンにもお目にかかれると知ったとき、これはぜひ会いに行かねばと思った。

というわけでパフェを食す、あの夢のような時間を求めてブライトンホテル京都のラウンジ「ク―・オ・ミディ」へ。

期間限定の「パフェ スワン・プリンシパル」
写真で見るからに、いかにも初夏の爽やかさが香るようなパフェ。
しかし、何事も体験は想像に勝るというもの。

前の「シルフ」ではここには、パフェの到着と同時にこのような中身で・・・といったパフェの構成を親切に示してくれるようなリーフレットが手渡された。
しかし、ここではメニュー表のみでそのようなリーフレットはないようだ。頼りのメニュー表も下げられてしまい、中身もはっきり覚えていない。


なるほど、己の味覚と感性で向き合え、ということ。
受けて立とうじゃありませんか・・・・!

スワンとご対面。
パフェの頂にエレガントに鎮座するスワン。
やっぱり、美しい・・・。

それにしてもスワンの羽の模様、可愛すぎやしませんか…?
簾のような淡い草色に、マーガレットのような色合いのお花がいくつも散りばめられている。
なんという可憐さ!!しかもちゃんとスワンの首の裏にもこの柄が描かれている。
芸が細かいな…。


これでもかというくらいいろんな角度から愛でた。しつこく眺めすぎて、アイスが溶けかけて、羽の部分がずり落ちてきたので、慌ててスワンをそっと別皿に下ろす。

スワンのボディ部分の白いアイスクリーム、バニラかな?と予想しつつ、スプーンですくう。

わあ、これはヨーグルトアイス!
軽やかですっきり。もう、一口目にして満足度が高い。
まさに初夏のパフェにふさわしい始まり。

続いてスワンの羽の部分。羽の形を模した下部分のギザギザや羽の裏側の筋のような模様、羽先にいくにしたがい、薄くなっていく様。
たった一枚のチョコレートに込められた技巧に、改めてほのかな感嘆を抱きながらカリ、と齧る。

そうするとまたしても、駆け抜ける爽やかさ。えっ、と驚いてもう一口。
単なるホワイトチョコレートだと思って疑っていなかったそれは、レモンのような柑橘系の甘酸っぱさを宿したホワイトチョコレートだった。

いいねえ。こういう予想の上をゆく感じがたまらないっ…!

周りをくるりと取り囲んだ、涼し気に艶めく黄緑色。
写真で見たときはマスカットだと思ったけれど、その正体はまあるくくりぬいたメロンだった。口の中でほどける、瑞々しい果物本来の甘さにうっとりする。

そうそう、パフェたるものやっぱりフルーツが美味しくなくっちゃ!

その下に敷き詰められる白い海。パフェに欠かせない名わき役、生クリーム。果物そのものの美味しさはもちろんのこと、生クリームをまとわせることでよりまろやかな別の美味しさに。

そして、クリームはただの生クリームじゃなくて、ココナッツ風味の生クリームだった。そしてその下に控えるアイスは、ここにきて王道のバニラ…ではなく、またもや畳みかけるココナッツ味!!

そう、そういうことなのね。
もう南国に浸れと。ここはグアム!奄美大島!沖縄!大好きよ、そのトロピカルさ。

周りに埋まるのは、お馴染みのさくさくパイの下をざくざく砕いたような食感のシュトロイゼル。
バターを含んだ香ばしさがアクセントを添える。

中央には、目にも鮮やかなイエローが細かく5ミリ四方に刻まれたものがきゅと寄せられている。
とぅるん。のど越しなめらか。パイナップルのゼリーよせみたいだ。

先ほどのシュトロイゼルとの、食感の対比が楽しい。

その下には、ごろんと大きなマンゴーがたっぷり。ほおばると口いっぱいに満ちる南国感!さらに増してきたトロピカル感。
カレーでも肉じゃがでも大きくごろんとした素材ってなんだか、食べているって実感があっていい。

マンゴーだけで。
端に残るココナッツアイスを添えて。

いろんなマンゴーを楽しんでいると、次に姿を現したのは、ボルドーのような落ち着いた赤色。どうやら色からしてアメリカンチェリーのコンポートらしい。
艶めくボルドーは、こだわりのカフェでパウンドケーキに生クリームとともに添えられていそうなお洒落さを醸し出している。

落ち着きながらもまとまりのある甘さ。
コンポートにすることで、より濃密な甘さになっている。

先ほどのマンゴーが、海辺の眩しい光の中で弾けるような少女の笑顔だとしたら、こちらのチェリーコンポートは、ほの暗いBarで含みのある妙齢女性の妖艶な笑み、のような。

透明のゼリー、そこにキウイのジュレ。
半ば溶けて液体と化したモヒートソルベがパフェグラスの進行をより、加速させた。
これまでより一層涼やかな食感と味わいは初夏というより、むしろ夏の盛りを彷彿とさせる。

キウイの甘酸っぱさとサイダー如く爽やかさを余韻にこれにてグラスは、空に。

スワンの羽の可憐な淡い花から始まり、しゅわと駆け抜けて迎えたフィナーレ。

美味しかったな…と余韻に浸りつつ、はっとひらめく。
スワンの柄を、一目見て南国を連想しそうな見た目も華やかなビタミンカラーではなく春の野に咲く花のように淡い草色にしたのは、春をイメージしていたのでは。

このパフェグラスの中でもしかしたらシェフは移りゆく春から夏を表したのでは…というのはわたしの考えすぎだろうか。

パフェグラスの底へと進むたびに、一口ごとに変貌してゆくパフェ。
己の味覚と視覚と食感、感性をフル動員させてその繰り広げられる小宇宙を味わう。

パフェを食すとは、やっぱり刹那の幸福なエンターテイメントだと思うのだ。


その①はこちら⇩



#フードエッセイ
#パフェ








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