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#散文詩

閏日

睫毛で計った雪の重さとちょうど同じくらいの汽笛の音が身体の外で響いている。目の前で崩れてゆくその白の綻び方があなたの泣き顔みたいな笑顔によく似ていた。たゆんで、 落    。
       。     ち   
  。       。           。
           る   。
時の (銃   。        。
    声)       。がちょうど産声に重なって、わたしはわたし

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4年●組のあの子

太陽の色を瞼の裏に映して見るのが好きだった。
ルーペを使ってわたしの足元のアスファルトを焼き払ってしまおうと思い立った時、集合の合図が横切って、光を遮る手が昇る。瞼で感じるその光の温度よりも、それを遮る手のひらの体温の方が高いことには気付かずに。きみの後ろに並んでいると前ならえの空白も突然こわしてみたくなる。ピンと伸ばした腕をほどいて急に抱きついても笑って赦してくれる子のことが好き。わたしが水色で

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渚に/て//

ひとつひとつ殺意を込めて順に息の根を絶やしていく仕事。海の映像がまたひとつ乱れて砂嵐に変わる。砂の城はきみの指先にいとも簡単に壊されてしまって、そのままわたしはさらに大きな波に呑まれてゆく。こうして身を委ねているとき、わたしはいつもそこに打ち棄てられた遺体になったような気分でいる。毛先の靡く方角にひたすら進んでいるとまるで魂をくり抜かれたような気持ちになるのに、きみに手を引かれるがままに歩いている

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くちなしの欠伸

くちなしの欠伸

平日の昼下がりはいつも青写真を無理矢理引き伸ばしたみたいに間延びしている。わたしはくちのない生き物に向かってえんえんと話し続けている。風が吹いてそれは答える。その答に堪えて耐えて耐えて耐えて耐えていつか絶えるところまで目に見えている。それでもわたしはこうしてえんえんと話し続けている。それが届くかどうかではなく放ち続けることがわたしの意味で、だけどそういう掬い方をしているうちは結局わたしはわたしのな

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透かして見つけた19つ目の星

透かして見つけた19つ目の星

忘れたくない夜の数がぼくにとっての光で星で、それらを繋げる指先の透明な動きは紛れもなく祈りそのものだった。空書きをしてきみに伝える内緒のダブルミーニング。流星みたいに指を滑らせかけた呪い。この呪いの読み方を知っているのはこの世界にぼくときみだけ。深夜2時にふたりでなぞったあの歌詞がその夜の深さを本当にする。そのせいできっとぼくはこれからもあの夜のことを忘れられない。きみはこれもただのこじつけだって

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ナルシス

ナルシス

あのねの先が号令に遮られる。ごめん、何言おうとしたか忘れちゃった。雑音に紛れて聞き取れなかったきみの声。ううん、なんでもない。大したことじゃないから。そういう拾えなかった言葉の空白ばかりを憶えている。だからぼくの頭の中には余白が多い。いつか答え合わせをしよう、きみの声でぼくの空欄を埋めてほしい。あのねの先の、喉につかえたその言葉の形が見たい。なんでもないを捲った先の透明に触れたい。全部エゴでごめん

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掬われない金魚

掬われない金魚

息継ぎの仕方を知らない子どもが順番に溺れてゆく夢を見た。なんで誰も教えてあげなかったんだろう、なんで誰も教えてくれなかったんだろう。息ができなくてくるしいのにその視界に飛び込んでくる光をぼうっと眺めては妙に感動してしまう。見晴らしの良い地獄って此処だったのかな。空気の中で溺れることってあるんだね、私たちはずっと地上を泳いでいたんだっけ、どうだったんだっけ。もう何も憶えていない。私たちはそんなこと憶

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もう忘れてしまった一等星のこと

もう忘れてしまった一等星のこと

きみと一緒に見た夜景が今まででいちばん綺麗だった。きみが遠くの星を見つめながら話してくれた未来の話はその日の夜空にそっくりで、散りばめられた無数の希望と可能性、そんな光が射したきみの瞳孔は一等星。きみが指を差した星に私はいない。それでも私はその指先に恋してた。希望に反射して煌めくきみの瞳孔に恋してた。そんなことを思い出す。だけどレンズを通して見るその光はただそこに散らばる色でしかなくて、その煌めく

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この一歩を証明したくて

この一歩を証明したくて

東京なのに磯の匂いがした。空飛ぶモノレールは宙を切って、労働の光を切り裂いてゆく。空から見下ろすイルミネーションはあまりにもちっぽけで安っぽくて泣きたくなった。ずっと私たちが必死に守っていた煌めきもあんなもんだったんだろうね。WHO IS BABY、今ランダム再生で流れているこの曲を聴くたびに、きっと私はこの夜のことを思い出すんだと思う。開演10分前に発券したチケットを握りしめて冬の空気を切り裂い

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呪うように祈りながら歌ってそうだし、月光のことを月影って歌ってそうだよな、あのバンド。

呪うように祈りながら歌ってそうだし、月光のことを月影って歌ってそうだよな、あのバンド。

しらねーうるせーの光芒が私を攫って消えてゆく。視界が潤んで膨らんだ光が私を包んでかがやく時、こうして呪いを解かずにいることさえ赦されたような気がした。スマートフォンから漏れる光でも、有線イヤホンから伝う熱量でもない、それは紛れもなく本当の呪いであり祈りでした。呪いを解いたらぜんぶ忘れてしまう気がして解けずにいる、それも含めて私が私にかけた呪い。そんな私たちのこころを掬い救ってくれるのは、月の影みた

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