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掬われない金魚

息継ぎの仕方を知らない子どもが順番に溺れてゆく夢を見た。なんで誰も教えてあげなかったんだろう、なんで誰も教えてくれなかったんだろう。息ができなくてくるしいのにその視界に飛び込んでくる光をぼうっと眺めては妙に感動してしまう。見晴らしの良い地獄って此処だったのかな。空気の中で溺れることってあるんだね、私たちはずっと地上を泳いでいたんだっけ、どうだったんだっけ。もう何も憶えていない。私たちはそんなこと憶えようともしなかったし、憶えていようともしなかった。ジンクスが叶うのって結局ことばにすることでいつもより意識して世界の隅々までその光を探そうとするからだよね。探せばなんだって見つかるんだよ、分からないと嘆くひとびとは大抵分かろうとも答えを探そうともしていない。でもそれが正しい泳ぎ方なんだよね。光を探そうとすればするほどひとびとは深く潜ろうとするからこうしてぼくらは簡単に溺れてしまう。光は潜っても見つからないのに。見上げれば光はすぐそこにあるのに。誰かに掬い上げてほしい。金魚掬いの金魚にもなれなくて、こうしていつまでも水槽の中に囚われたままの私たち。どうせなら浴衣の柄にでもなればよかった。一度でいいからきみと一緒に花火が見たかった。相変わらず息はできない。

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