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小説

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こちら時空管理局。何らかの影響によりこのアカウント内に小説が発生してしまった。パルス誘導システムを使用して、マガジンに閉じ込めておいた。もし興味があったら見ておいてくれ。以上
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#ほろ酔い文学

短編小説|運べボール

短編小説|運べボール

 ナガモトがボールを左前方に蹴り出しすと、それに反応するように相手が右足を前に出した。ナガモトがボールの下をポンと蹴り上げると、相手は一瞬にしてボールを見失ってしまった。そして軽々と相手をかわし、何事も。するとすかさず二人の選手が立ちふさがり、示し合わせたようにスライディングでボールを奪いに来た。さすがのナガモトもこれはかわせず、急いで右サイドにいたダウアンにパスを出した。

 ダウアンは、体全体

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掌編小説|シャンプー

掌編小説|シャンプー

 ガラスケースの中には液体が並々と注がれている。その中心に、数十本のコードとセンサーらしき針が刺さっている脳が浮かんでいた。束ねたコードを辿っていくと大きなモニターがあり、そこには、脳が今考えているイメージと言葉がずらずらと映し出されている。こちらから話しかけることはできない。いったいどんなシャンプーなのか私は気になった。

大超短編小説|ファッションセンス

大超短編小説|ファッションセンス

 ふと、窓が気になった。
 手のひらでカーテンをどけると、暗闇に顔が浮かんでいる。随分と使い込まれたそれは、まぎれもない私の顔だった。その後ろにはガラスに反射した部屋が見える。時計は午前二時過ぎを指して、秒針が逆に動き続けていた。
 丑三つ時か、なんてことを考えていると死んだはずの母親が壁から現れた。さもそこに入り口があるかのように当たり前に入ってきた母親は、生前お気に入りだったヒョウ柄のセーター

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小説|汗汗汗汗汗汗

小説|汗汗汗汗汗汗

うるさいほど聞こえるセミの鳴き声と、吹き出してくる汗に耐えながら冬樹はホットコーヒーを飲んでいた。イヤホンの音量をいじりながら思う、とにかく暑いし熱い。クーラーをつければいいじゃないか。クーラーは昨年の夏から故障中だった。扇風機はどうだ。扇風機は家族がどこかに持っていってしまったらしい。部屋には高温の空気がこれでもかと充満している。

そんな状況でホットコーヒーを飲む。中々体験できることではない。

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短編小説|「「母さん」」

短編小説|「「母さん」」

スマホが鳴った。

画面を見ると、母さん、という文字が浮かんでいる。まったく仕事中は電話をしてくるなといつも言っているのに。
おれは、やれやれといった表情を3割増しで表すと、もったいぶって電話に出た。

「もしもし?」
「ああ、わたしだよ。母さんだよ」
「知ってるよ。で、何?」
「それが大変なんだよ」

第一声から、明らかに慌てている様子が伝わってくる。しかし、今は仕事中だ。おれは声を強めてこう言

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短編小説|スマホが鳴った2

短編小説|スマホが鳴った2

スマホが鳴った。

まったく非常識極まりない。今なんの時間だと思ってるんじゃ。けしからん。こんなときでもスマホスマホか。まったく近頃の若者たちは、最低限の常識も持っとらん。こそこそと電源を切るくらいなら、持って来なければいいだけの話じゃ。

そもそも、そんな物を肌身離さず持っている神経も分からん。人間それなりの経験を積んでいれさえすれば、何も持たずとも立派に生きていられる。なんでもかんでも機械に頼

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短編小説|しっそうした女

短編小説|しっそうした女

探偵というなんでも屋の仕事をしている俺の元に依頼が入った。女を捕まえてくれ、というものだった。おかしな頼み方だなと思ったが、金になるなら俺はやる。詳しく事情を聞いてみることにした。

しかし、男は妙に落ち着かない様子で今にも事務所を飛び出しそうな勢いである。いったい何があったんですか、と聞いても
「早く彼女を捕まえてくれ。早くしないと行ってしまう」
というばかりである。

ははあ、なるほどな。どう

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短編小説|スマホが鳴った

短編小説|スマホが鳴った

スマホが鳴った。

「今何してる?」
俺は、またか、と独り言を言った。
「今からメシ」
と簡単に返信してスマホを置こうとした、その瞬間すぐに返信が来た。
「何食べるの?」
俺はふたたびスマホを持ち上げて
「おにぎり」
とだけ打ちこんで送った。

今度こそスマホを置き、おにぎりのパッケージを開封する。ガサガサという音だけがする。この場所は実に静かである。集中するにはもってこいの場所だ。

スマホが鳴

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小説|それから300年後

小説|それから300年後

友人の家は江戸時代から続く古い建物で、茅葺きの屋根は全体が苔で覆われている。畳は波打っているし、木製の壁は元の色が何色だったのか分からない程に黒ずんでいる。そんな歴史ある建物は、この度取り壊されることになった。

近隣住民から、由緒ある、歴史ある、と言われるのは嫌ではないが、決して金にもならないのでここいら辺で区切りをつけて近代的な新築物件を建てるそうだ。家財道具の一式はすでに運び出しているので、

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