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小説

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こちら時空管理局。何らかの影響によりこのアカウント内に小説が発生してしまった。パルス誘導システムを使用して、マガジンに閉じ込めておいた。もし興味があったら見ておいてくれ。以上
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ビリビリビリ

ビリビリビリ

足の爪先から、今まさにそれは登り始めている。あっという間に足首を超えて、ふくらはぎ、膝へとまいろうかというところである。ところがそれは勢いが一気に衰えた。

ふくらはぎを超えるか超えないかほどの位置でとどまると、それは下へ下へと急降下していく。

今はもう、足首を超えてつま先へと収束してしまったようだ。

私のしびれはもう大丈夫かもしれない。

───ところがどっこい、立ち上がると見事に膝から折れ

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短編小説|「「母さん」」

短編小説|「「母さん」」

スマホが鳴った。

画面を見ると、母さん、という文字が浮かんでいる。まったく仕事中は電話をしてくるなといつも言っているのに。
おれは、やれやれといった表情を3割増しで表すと、もったいぶって電話に出た。

「もしもし?」
「ああ、わたしだよ。母さんだよ」
「知ってるよ。で、何?」
「それが大変なんだよ」

第一声から、明らかに慌てている様子が伝わってくる。しかし、今は仕事中だ。おれは声を強めてこう言

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短編小説|飛び降りてください

短編小説|飛び降りてください

「このマンションに引っ越したいのですが」

吉田が選んだのは、しばらくワイドショーを賑わせている物件で、世界一の超高層マンションとして有名になっていた。

特に最上階までの10フロアにいたっては一般人が住めるような家賃ではなく、仮に入居が決まったら扱いは有名人にも引けを取らなかった。入居が決まるたびに、その人物の人となりがニュースに取り上げられ、最上階の住人はテレビに引っ張りだこになっている。

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小説|この世のありとあらゆる

小説|この世のありとあらゆる

生体認識完了。シリコン製アーム感度調節、調節完了。コード読み込み中。

私は今、白いベッドの上に裸で寝転んでいる。体中には電極がこれでもかと貼り付けられ、細かい一挙一動も全てコンピュータへと記録される。
今こうして考えていることも、おそらく記録されているだろう。
多少の恐怖心を感じる。まだ誰も受けたことのない試験なので、それは仕方のないことだ。

コード読み込み完了。試験開始まで五秒前。

なんの

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ショートショート|おかしくはない

ショートショート|おかしくはない

2階の部屋にいると、突然ベランダに大きく黒いものが落ちてきてもおかしくなかった。それはカラスで、頭がふたつあり羽は4つあってもおかしくなかった。

おれは驚いて尻もちをついてもおかしくはなかったし、その拍子に手に持っていたビールを床に落としてもおかしくはなかった。

空は晴れていて、春先のような風がふいていてもおかしくはない。目の前のベランダにある、このカラスのような化け物だけが違和感を放っていて

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超短編小説|忙しい

超短編小説|忙しい

最近忙しい。

いや、最近というかずっと忙しいような気もする。でも忙しいのは間違いないかも。だって休む暇が無い。もうずっと動きっぱなしで、とにかく大変です。

なんかもう寝てる暇もない。そんな感じがずっとしてる。寝てる暇がない、というのは大抵比喩的に使われるのだけれども、僕の場合は本当に寝てる暇がない。

だってもう寝たら大変だもの。もう本当に大変なことになる。だから寝る暇がない。

たまに少しだ

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