マガジンのカバー画像

三日月のお宿 (詩を投稿します)

19
詩を投稿します。
運営しているクリエイター

記事一覧

となりで

となりで

 いま夏が来て
 雑草だけが高く
 声遠い祈念碑から
 綺麗な花は咲きましたか
 問う人は冷たい灰のなか
 世界が誇る美しい未来都市に
 祈念碑など初めから
 アダージョ・カンタービレ
 骨の浮き出たあの人の隣
 わたしは確かにいた

「青空の足元で」

「青空の足元で」

今日からいっしょに歩こうね

あの足跡まで歩こうね

明日が生まれる前に出て

終電時刻の二つ前

今日からわたしはだれでしょう

有刺鉄線越えたから

リュックひとつに詰め込んだ

いのち重いだろうね?と奪う

句読点を打つさようなら

愛と心とわたしの子

それは旅立つ前の日に

Hotchkiss 詰め寄せ綴じられた

どうぞ写真はご自由に

歴史が求める顔を指示をして

どうぞ空だけ青いま

もっとみる

入梅のころ

入梅雲居の空、気怠く体起こし窓際より認めるのは朧な日の光。
懇意であった友の晴れ着、見交わすこと叶わず、往時の喜びを思うにつれ昔が今に淋しさ覚える。

感情の矢

感情の矢

 人の悲しみと怒りとを吸い上げて落とし、襲い来る感情の矢を捌き続ける雲中の人よ。
 お前自身は感情を失くしてしまった。時として刺さる矢を己のものとして錯誤し、なおも剣を振るい続ける。あくまでも強者として立ち向かう。
 この雨のなか一滴さえ許せば、かわりに泣く者もあろうに。

余白を塗る

余白を塗る

 あの木はもうすぐ咲くだろう。お茶もほのかに香る。ベランダに椅子を出してみようか。陽だまりでうたた寝した後は、湯船にゆったりと浸かってもいい。
 生きている実感は余白に身を移したとき表れてくる。絵を飛び出して私を捜す者。私に色を与え、余白に足跡を残して去る。

涙で血は薄まるか

涙で血は薄まるか

涙で血は薄まるか

 名も知れぬ亡骸が
 天に召されることも地に埋もれることもなく
 吐息も脈拍も
 助けてと言うはずもなく
 だが耳には地響きの聞こえ続ける
 赤い衣纏った天使は包帯巻きながら絶えている
 巻かれる人も気付かず死んでいる
 うめき声と血生臭さに立ちすくみ
 生命に囲まれている
 ここにいる誰が戦争中だと知っているだろう
 蠅ばかりせわしなく飛ぶ
 啼け、啼け我が子。
 受けたばか

もっとみる
春とその日の色

春とその日の色

荒廃に死んだこどもに誘われ春の目覚めに雨は降る降る

きっとそれなりの名を持った命だったのだろう

あわよくば触れてみたいとさえ痛んだこの胸は

あの小さなからだをついに抱きしめられなかった

わたしが若葉の原に踏み入って歓びと希望にある中でさえ

清新な魂まではこちらへ宿らなかった

未熟な戸が開き、去らねばならぬこの身の上は

極めて輪の大きな観覧車に詰められた

遠ざかるまで

もっとみる