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自分が童話になった男 -太宰治の不思議さ【エッセイ#53】
太宰治は、現在、日本の文学史上最も人気のある作家の一人ですが、改めて読むと、意外と複雑というか、捉えどころのない作家だと思っています。
太宰の作品の特徴は、一言で言うと、「どんな題材でも童話になってしまう」ことです。
ここで言う童話とは、子供向けの教訓話という意味ではありません(流石に子供に読ませるのを躊躇う内容でしょう)。リアルからほんのちょっと浮いた、自分を投影できる世界のフォーマット
[1分小説] からだ
金曜日の18時半を過ぎる頃だった。
駅へ向かう人で混雑する道を、制服姿の香澄は歩いていた。
『綺麗な人だな』
ふいに、勤め人らしき女性が横を通り抜けていった。
自分より10歳くらい上、20代後半といった年齢だろうか。
艶のあるロングヘアーをなびかせて歩く女性の後ろ姿を見て、香澄は思う。
大人っぽいジャケットは、まだ高校生の自分には着こなせない。
ブラウンの長いフレアスカートと細いヒールの