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実話怪談

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影女

影女

この話には、貞子のような怖い幽霊やインパクトのある怪異などは出てこない。
ものすごく怖い話かと聞かれたら、そうでもないかもしれないし、なんならオチすらもない。
ただただ、ひたすら不可解なだけの話。

これは今から、20年ほど前。
当時、俺は二十歳かそこら、プロのミュージシャンになりたくて、アルバイトと音楽活動で日々を過ごす生活をしていた。
そんな中、とあるプロアレンジャーの方が目にとめてくれ、その

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見聞実話怪談7『黒い僧侶』

見聞実話怪談7『黒い僧侶』

その日、裕美(ひろみ 仮名)は、眠ったばかりの娘を和室のベビー布団に寝かせ、友人の洋子(ようこ 仮名)と夕飯を摂ることにした。

生後5ヶ月になり、寝返りも打てるようになった我が子は可愛いが、乳飲み子は本当に手間がかかる。

実の母親とは疎遠であり、夫の両親は共働きで、なかなか育児の手伝いを頼めない裕美にとって、遊びがてらとはいえ、折を見て家事を手伝ってくれる洋子の存在は、とても心強かった。

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見聞実話怪談6『あの日』

見聞実話怪談6『あの日』

「戦争は嫌だ…戦争は良くない…
戦争はほんとに嫌だよ…
もう二度と戦争なんて…」

太平洋戦争開戦時、アサ(仮)は女学生だった。

アサの家は小さいながらも鉄工所を営んでいたため、少しだけ周りより裕福な家庭であった。

しかし、戦争は、アサからも、そして、アサの家族からも沢山の物を奪った。

戦争が激化するにつれ、アサの家から…いや、日本中から物がなくなった。

やがて、国から召集令状が届き、健康

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見聞実話怪談5『中古車』

見聞実話怪談5『中古車』

某大手の中古車センターに務める萩谷(仮名)は、当時、まだ入社したての新人だった。
それは、やっと仕事にも慣れた頃の話だった。

萩谷が、休日明けに出勤すると、先輩である片瀬に、新入荷した車の洗車を頼まれた。

『萩谷、悪いんだけど、展示場の端にある黒いヴォ○シー、洗車しといてくれないかな?
昨日、中は総出で掃除して消臭もしたんだけど、外身に手が回らなかったんだ、今から、お客様とのアポがあって、俺、

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見聞実話怪談4『鴉の声』

見聞実話怪談4『鴉の声』

会社経営者の妻である恵子は、その日、愛犬のシーズー『みかん』を連れて散歩に出た。

季節は、ちょうど6月末。
梅雨の終わりかけで、散歩に出る前は晴れてまだ明るかった空が、散歩に出て10分程経った頃、急に鉛色(なまりいろ)に変り始めた。

冷たい風が吹きすさび、夏の夕方とは思えない程、周辺は急速に冷え込んでいった。
辺りはみるみる暗くなる。

いつもの散歩コースは、田園地帯から河川敷へ降り、そこから

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見聞実話怪談3『山のモノノケ』

見聞実話怪談3『山のモノノケ』

僕がお世話になっている、吉田さん(仮名)という男性がいる。
年齢は70歳を越えて、気の優しいおじいちゃんといった風貌だ。

若い頃の吉田さんは山男で、日本中の名だたる山に登っていた。
そんな吉田さんは、当時、山仲間と一緒にアルプスのアイガー北壁に挑む計画を立て資金を貯めていたという。

憧れのアイガー北壁登頂を、1年後に控えたある晩秋。

吉田さんはふと思い立って、関東と北陸にまたがる、とある有名

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見聞実話怪談1『最終バスの客』

見聞実話怪談1『最終バスの客』

これは、久々に帰省した友人から聞いた話。
彼女の名前を仮にマリナとする。
マリナはその日、最終の路線バスに乗って帰省した。
予定では、21時にマリナの実家近くのバス停に到着する。
それに合わせて、父親が車で迎えにきてくれるはずだった。
マリナの実家は田舎町だ、実家に近づくにつれて、窓の向こうの風景はどんどん暗くなり、灯もぽつぽつとつくだけになり、乗客もマリナだけになった。
時間は20時43分だった

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見聞実話怪談2『弁財天の華』

見聞実話怪談2『弁財天の華』

これは、祖母の13回忌の折、遠縁のおばさんが酒酔いついでに話してくれた話。

その昔、親戚筋にとある姉妹がいた。
姉が桃江(ももえ 仮名)、妹が桜(仮名)といった。
彼女らが若い時分は、まだ戦時中。
つまりこの話は、戦後まもなくの話になる。

姉の桃江は、美男子と言われた父親に似て、とても綺麗な女性だったという。
妹の桜は、姉ほど美人ではないが、活発で気が強く、とても明るい女性で、とても仲の良い姉

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