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見聞実話怪談1『最終バスの客』

これは、久々に帰省した友人から聞いた話。
彼女の名前を仮にマリナとする。
マリナはその日、最終の路線バスに乗って帰省した。
予定では、21時にマリナの実家近くのバス停に到着する。
それに合わせて、父親が車で迎えにきてくれるはずだった。
マリナの実家は田舎町だ、実家に近づくにつれて、窓の向こうの風景はどんどん暗くなり、灯もぽつぽつとつくだけになり、乗客もマリナだけになった。
時間は20時43分だったそうだ。
フロントガラスの向こうは、夜だというにも関わらず、なんだか夕日が差してるような赤い色になっていた。
その光景を、マリナは不思議に思ったのだが、野球場の灯りだと思い直し、気にしないことにした。
バスが、曲がりくねった下り坂に差し掛かった時だった、不意に運転手がマリナに話しかけてきた。

「すいません、お客さん・・・あの、今、お客さんの前の席に小学生の男の子が乗ってますか?」

その言葉を聞いて、マリナはきょとんとした。

「え?いえ・・・今、私しか乗ってないですけど・・・」

マリナがそう答えると、運転手は押し黙ってしまった。

この運転手さん、一体、何を言ってるんだろう?

そう思って、ふと、窓の外を見る。
すると…
マリナの前の席に、小学校高学年ぐらいの男の子が座っている姿が、暗闇に曇る窓ガラスに映っていたそうだ。
マリナはぎょっとして、思わず前の席を見る。
だが、そこには誰もいない。

「え?!」

驚いた顔をするマリナに、再び、運転手が話しかけてきた。

「・・・やっぱり・・・いますよね?小学生の男の子」

その言葉を聞いて、マリナは背筋が寒くなった。
運転手はトーンを低めた声で、言葉を続ける。

「その子供・・・時々こうして、終バスに乗ってるんですよ・・・・
もう怖くて怖くて、今日はお客さんがいてくれてよかったですよ」

その言葉に今度はマリナが押し黙ってしまった。
得体の知れない冷たい空気が、シンと静まり返った車内に充満する。
マリナは、窓も前の席も見ないようにうつむいて、スマホをいじり始めた。

早く着いて!早く着いて!

心の中でマリナはそう唱えていたとか。
最寄りのバス停までのたった15分。

だがそれは、マリナにとって果てしなく長い時間に思えたそうだ。
やがて、最寄りのバス停にバスが停まる。
そこにはマリナの父の車がすでに停まっていたそうだ。
マリナは料金を支払い、運転手に向かって「ありがとうございました!」とだけ伝え慌ててバスを降りる。

その時、一瞬だけ、運転手の顔がこわばったように見えたそうだ。

マリナは父の車まで走ると、助手席のドアを開けた。
すると運転席の父親は、いぶかしげにこう言ったそうだ。

「おかえりマリナ・・・・あれ?その子は、どこの家のお子さん?」



【END】
※後輩が経験した話
※初耳怪談でも紹介していただきました
※不思議の館ではこちらの長い方を紹介させていただきました

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