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朝起きたら、クロワッサンだった
「パリのエストニア人」という映画があります。
パリで家政婦として働くことになった主人公は、雇い主の老婦人から、朝食にはクロワッサンを出すよう言われます。
そこで主人公は、スーパーでクロワッサンを買い、言われた通り朝食に出したのですが、老婦人に叱られてしまいます。
こんなのはクロワッサンじゃない、ここはパリなのだから、ちゃんとブーランジェリー(パン屋)で買ったものを出せ、と。
「朝目が覚めると、あなたは巨大なクロワッサンになっていました。あなたはどうしますか?」
カフカの「変身」が思い出される問いです。
朝目覚めると巨大な虫になっていたという始まりで有名な、不条理の文学。
もし、朝起きて、自分がクロワッサンになっていたら、あなたはどうしますか?
どんなことを考えますか?
私は、安心すると思います。
何故なら、あとはもう誰かに食べてもらうだけだから。
ただ、手足がないから動けないし、スマホが使えず誰も呼べないので、結局誰にも、食べてもらえないかも。
それでもやっぱり、安心するかも知れません。
何故なら、「クロワッサンになった」ということは、私はもう「完成」しているのです。
これ以上、何かになろうとしなくていいし、何処へも行かなくていい。
怖いものも、何もないような気がします。
何より、「自分はクロワッサンである」ということを知っている。
結構、いいことかも知れないと思いました。
私は病気で仕事を休んでいる間、
「早く、はやく元気になって働かなくては」とか、
「このまま休み続けたら、この先どうなってしまうんだろう」とか、
そんなことばかり考えながら、
毎日が、焦りと不安でいっぱいでした。
そして、働けなくなってしまった自分が、
本当に嫌でした。
働けないなんて、許せない。
こうなってしまった自分を受け入れられず、苦しみました。
それからの日々は、
「自分はこれが足りてないから、こういうことをやってみないと」と、
日々試して、工夫して、
うまくいったり、いかなかったり、
喜んだり、落ち込んだりしているわけですが。
自分がクロワッサンだとわかったら、もう完成しているので…
クロワッサンとして、できることとできないことがハッキリして、
私はもうこれ以上、無理をしたり、将来を不安に思ったり、
しないと思うんです。
そして自分を受け入れられる。
私はブーランジェリーの焼きたてクロワッサンじゃない、
前の日にスーパーで買った一袋5個入りの、
若干ぺしゃんこなやつかも知れないけれど、
でも、クロワッサンであることにかわりはないよ。
クロワッサンとしてそこにいるだけで、上出来。
そう思ったら、何があっても、
「私、クロワッサンだからなあ…」で、
のらりくらりと生きていける気がしてくる。
ちょっと楽になれる。
そんなことから、「自分を受け入れる」みたいなことが、
始まってもいいのかなと思ったのです。
「パリのエストニア人」(邦題「クロワッサンで朝食を」)
映画「クロワッサンで朝食を」オフィシャルサイト | INTRODUCTION:作品紹介 | (cetera.co.jp)
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