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【木曜日】【短編】本当に怖くない猫の話

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1話完結型です。何でも屋の男が猫の見合いを依頼してきた女性によって、猫に関する依頼が増えて猫にまつわる話を聞かされるという形で書いています。
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#短編小説

【全話】本当に怖くない猫の話

【全話】本当に怖くない猫の話

はじめに

noteでこれまで書いた同じタイトルのものをまとめようと思い立ちました。この「本当に怖くない猫の話」を一つにしています。
正直、誰か読んでくださったかわからないですが、9万字以上も書いたんですね。
noteでは、ほとんど日記や読書感想文を書いています。たまにこうした小説を性懲りもなく書いていますが、あまり気にせずお付き合いいください。
誤字脱字など校正に手を出すと、話がすっかり変わって

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続・本当に怖くない猫の話「憧れの人の助言」

続・本当に怖くない猫の話「憧れの人の助言」

「おっと、すみません」
「いえ、こちらこそ邪魔しました」
後ろから肩にぶつかられ、手に持っていたグラスの赤い液体が揺れてあわや一張羅のスーツにワインのシミができるところだった。それを持ち前のバランス感覚で回避した男は、目の前の仕立ての良いスーツを着た背の高い男性を見上げた。
2人がぶつかったのが、タイミングになってしまったのか、その長身の男性と一緒にいた女性が、話を切り上げて、別の席に去っていって

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【短編】続・本当に怖くない猫の話「ケロケロ」

【短編】続・本当に怖くない猫の話「ケロケロ」

*この話には一部暴力的な表現が含まれます。素人小説ですので、そういったものが苦手な方は決して読まれないでください。深い知識などあって、書いているわけではありません。

 昼の暑さが残りつつも、頭上の夏の月が涼やかだ。暮れきらない空の上に広がる薄い雲が広がって涼し気な月を紗に隠している。
8月16日。まだパリオリンピックの興奮が冷めやらない。客を待つ間も、Tシャツジーパンの軽装で全身に汗をにじませな

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続・本当に怖くない猫の話「猫と小判」

続・本当に怖くない猫の話「猫と小判」

 昨日はケージから脱走して自由を満喫した子猫2匹たち今日は外に出る気が全くないようだ。やんちゃ盛りの子猫たちをケージの外から見守っているメス猫二匹に子猫と血縁関係なないらしい。その猫たちもケージの方に顔を向けているだけで、だらりと床に寝そべっていた。扉が閉まっていないので、どうしても猫たちの様子が目に入って、話の内容に集中できない。
 あまり愛想がよくないという猫たちは、初対面のなんでも屋にほぼ無

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【短編】続・本当にこわくない猫の話「コンプレックスは猫で解消」

【短編】続・本当にこわくない猫の話「コンプレックスは猫で解消」

 なんでも屋は疲れていた。連日の仕事で疲労はピークに達していた。
 結婚相談所のスタッフの仕事ではない。なんでも屋の仕事の方だ。なんでも屋は自分の生計の基盤が、いかに結婚相談所の仕事の方にあろうともなんでも屋が本業だと思って続けてきた。けれども、それもそろそろ返上しなければならない。四十の坂も目前の一生独身の自分が結婚相談所の職員として説得力のない仕事を続けていくことが運命として定まっているのかも

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続・ほんとうに怖くない猫の話 「白猫のドッペルゲンガー」

続・ほんとうに怖くない猫の話 「白猫のドッペルゲンガー」

不吉の象徴と云えば黒猫だろう。
一方で、黒猫の反対で白猫が福を招くとは限らないようだ。或いは、白猫は幸せになりにくい猫と言えるかもしれない。

「うちの家、白猫に取り憑かれているんじゃないかと思うんです」

昨日は金曜日だった。何でも屋は、「増えて行く白猫が怖い」という相談を受けた。働いている結婚相談所『ハッピー➕(プラス)』もとい"猫と人間の幸せ相談所"(最近所長がこのうたい文句を思いついた)に

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【短編】不思議な髪飾り①

【短編】不思議な髪飾り①

彼女のバレッタには秘密がある。
2024年1月1日。元日に彼女はその蝶の形のバレッタと出会った。
数千円の値札が貼ってあったことを考えると、ありえないことにその蝶の髪飾りの輝きは特別だった。
銀の縁取りは本物の鉱物のように煌めいて見えた。
一方で会計を済ませてそれを袋から取り出して、自分の髪につけたとき、まるで本物の蝶を頭に飾ったように感じた。
彼女の髪は首の中ほどで切りそろえられ、結ぶほどの長さ

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続・本当に怖くない猫の話 part.9 「ねこ日記」

続・本当に怖くない猫の話 part.9 「ねこ日記」

Twitterの終わりに#の文化がきょうびは死語になりつつあるらしい。
検索に引っかかるか?どうか、人気のあるコンテンツに便乗するか?を考えてばかりなのは、今や大人だけ。子どもたちはタイトルにヒキのあるコンテンツであれば流行ってようがどうでもいいらしい。
好みの全てが昔の子供っぽい児戯だと笑われれば、自分こそ古い文化に乗っかった死語の代名詞ではないかと"何でも屋"は思う。
社会の常識に適応できず、

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続・本当に怖くない猫の話 part.8

続・本当に怖くない猫の話 part.8

その後の太宰のその後

何でも屋は普段は結婚相談所の職員をしているが、本業は何でも屋で猫の依頼をされることが多い。それは、単純な迷い猫探しではなく、例えば、猫の新たな飼い主を探したりであるとか、猫にまつわる家族の厄介事を相談されることもある。

それらはいつも非常に難解であるが、いつの間にか話を聞いているうちに、本人たちの中で自己解決してしまう。だから、結局のところ、何でも屋の仕事もほとんどは結婚

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本当に怖くない猫の話 part.7

本当に怖くない猫の話 part.7

アレルギーの猫は怖くない

穀物アレルギーの猫の飼い主が結婚相談所『ハッピープラス』に現れた。人間が猫のアレルギーなのでなく、猫がアレルギーを持っている。猫が穀物を食べられないので、自分も食べないのだという。だから、結婚相手もそれを理解して、グレインフリーな肉食生活を送ってくれる人が良いそうだ。そういった要望に応えられるのか、何でも屋は返答に困り、所長に対応をお願いした。

「そういったご相談であ

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続・本当に怖くない猫の話 part.6

続・本当に怖くない猫の話 part.6

猫と出会う旅は怖くない

「この世のすべての猫と出会いたいんです。その旅に同行してくれるパートナーを探しています」

目の前の男性は唐突にそう切り出した。何でも屋はじっくりと男性を上から下まで観察した。外資系の商社に勤める会社員らしく、スーツを慣れた感じで着こなし、シャツは皺ひとつない。
ん少しタレ目で人好きのする顔をしている。穏やかそうで、見た目だけなら平凡を好みそうだ。とても冒険家を志すように

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続・本当に怖くない猫の話 part.5

続・本当に怖くない猫の話 part.5

番犬をする野良猫猫に好かれすぎて困っている。
猫のせいで婚期を逃してしまいそうだと真剣に訴えてきた女性はまだ20代であった。
実家は資産家だが、大学を卒業して後はよほどのことが無ければば援助をしないと言われている。
大学卒業後は、ずっと派遣社員。収入が少なくとても猫3匹も養う余裕がない。今の2匹だって手いっぱいなのだ。
しかし、まだ後一匹家に入りたがる猫がいる。
その猫は最も健気で、彼女が帰宅する

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続・本当に怖くない猫の話 part.3

続・本当に怖くない猫の話 part.3

運命の猫は怖くない

「こんにちは。今日もお疲れ様です」

新宿の街に似つかわしくない明るく爽やかな声で現れたのは、元力士の議員秘書だ。

久しぶりの来訪に猫と人間の結婚相談所「ハッピープラス」に、一瞬不穏な空気が流れた。
結婚相談所において、以前の会員が訪れる事は良いことではない。
何かのクレームか?結婚後の愚痴を言いに来たのか?それとも離婚したので、再び会員登録して結婚相手を探したいのか?

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続・本当に怖くない猫の話  part.3

続・本当に怖くない猫の話  part.3

これまでのあらすじ

猫が口実

何でも屋には依頼人しか友達がいないかもしれない。さらに、同僚も依頼人しかいなくなった。所長は同僚とは言えないだろう。
結婚相談所の職員の1人が、出産を機にパート勤務を申し出て、それから、2ヶ月の間に2人の正社員もパート勤務を申し出た。
なんでも、子育てや副業に忙しいらしい。

何でも屋は、一応結婚相談所の正社員と言うことになっている。しかし、何でも屋の仕事が自分の

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