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『怖い』けど『羨ましい』多様性ワールド〜「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」ブックレビュー

3歳男女双子子育て中のゆちです!

少し前に話題になってた本だから読んでみたいなと思って手にとった「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」。

小説だと思ってたら、イギリスに住む著者ブレイディみかこさんが息子の中学校生活の様子の一部を綴ったエッセイでした。

しかし、このエッセイがこれまたなかなか面白くて!
読み進めるほどグイグイ惹き込まれる自分がいました。
そして、子育てをしている私には、この本から子供との向き合い方などとても参考になる内容が多く、読んで得られたものがたくさんありました。

このブックレビューでは、私がこのエッセイに惹き込まれた理由や、個人的に印象に残った内容や英国社会の実情を、5つのパートに分けて書いていこうと思います。

(1)怖いけど羨ましい多様性社会

本書に書かれているのはイギリスのごく普通の中学校生活の様子なのだけど、
英国社会は大移民国家であり、正に多様性社会を体現している国であることがよくわかる内容でした。

人種差別、貧富の格差、LGBT・・・
様々な差別が普通の生活の中で当たり前に存在する世界であり、
多種多様な人々が共存する為の模索がとても進んでいる世界でもありました。

特に人種差別が顕著で、普通に暮らしていたら、知らない人から差別的な言葉を浴びせられたり、あからさまに侮辱するような態度をされることなんてザラにあるようなのです。

しかも日本人なんてバリバリ差別される側・・・ (・–・;)!!

人種差別が世の中に根深くあるという知識はあったけど、自分が差別される当事者になったり差別を目の当たりするようなイヤな経験をほとんどしてこなかった、日本生まれの日本育ちの私にはとても怖い世界だなぁと思うと同時に、

英国では、多様性社会ならではの進んだ学校教育や、デモなどの社会活動が学生の頃から当たり前に話題にのぼったり、多様性社会に身を置いているからこそ気付けることや、人として心が豊かになれるきっかけや機会があったりする。

そんな環境を羨ましいなとも思ったのでした。


(2)英国の教育と社会意識の高さ

英国の中学校教育のカリキュラムの中には、「演劇」「シティズンシップ・エデュケーション」というものがあるそうです。

演劇」は、
日常的な生活の中での言葉を使った自己表現力、創造性、コミュニケーション力を高めるための科目。
シティズンシップ・エデュケーション」
日本語で表すと「政治教育」「公民教育」「市民教育」になるそうで、
政治や社会の問題を1国民として積極的に考え、主張し、参加していくための知識とスキルを教える授業なのだそう。

中学校の3年間かけて、議会制民主主義や自由の概念、政党の役割、法の本質や司法制度、市民活動、予算の重要性などをガッツリ学ぶのだそうです。


なかでも関心したのは、それらの授業の中で
エンパシー」について教えていること。

エンパシー」とは、

自分と違う理念や信念を持つ人や、別にかわいそうだとは思えない立場の人々が何を考えているのだろうと想像する力を養い、他人の感情や行為を理解する能力。

似た言葉で「シンパシー」があり、
シンパシー」とは、

可哀想な立場の人や問題を抱えた人、自分と似たような意見を持っている人々に対して人間が抱く感情。同情や共感のこと。

両者の違いは、「シンパシー」は生きていれば自然に抱く感情だが、
エンパシー」は自然にわかるものではなく、想像力を鍛えるような努力をしてはじめて習得できる知的能力とも言えるものなのだそうです。

この移民国家のイギリスでは「エンパシー」はこれからの時代に大切なことだからと、授業で教えているといいます。

日本にはない独特のカリキュラムに関心するとともに、日本ではこのような政治や市民教育などは、私の中学生時代は確か公民の授業で中3くらいにチラッと習ったくらいで、そんなに力をいれてる感じではなかったし、きっと今もさほど変化はないのではないでしょうか。

だけど、今の日本人の政治や社会への無関心ぶりや、投票率の低さなどを思うと、やはりもっとコミュニケーションや政治・社会に関しての教育を取り入れていくことが大切なんじゃないかなと思ってしまったし、何なら私もこういう教育をもっといっぱい受けてみたかった(笑)!

英国がこういった教育に力を入れているのは、移民がたくさんいる多様性社会の未来を築いていく為には、通常のカリキュラム同様に教育すべきとても大切なことだと考えているんだろうなと感じました。


(3)貧困でデモ活動に参加できない子供達

本の中で、息子さんが地球温暖化対策を訴える世界的な学生デモ(スクール・ストライキ)に参加したかったけど、できなかったというエピソードがありました。

ニュースなどのイメージでは、欧州中の学生達が大集結しデモが行われたイメージだけど、実際はデモに参加することを許可しない学校もいくつかあったそうです。

理由は学力の高い学校などは学業優先だったり、底辺中学校などは生徒がデモの中で何か問題などを起こしたりすることを防ぐ為だったり。

息子さんの通っていた学校も、デモに行く許可を出さなかったのだけど、そんな中デモに行くと「ズル休み」とみなされ、地方自治体のルールで親が罰金を払わされることになるのだそうで、親に迷惑をかけたくないからデモに行くのを我慢したというのです。

そして、他の貧困層の子供達なども、同じ理由で行きたいけど行けなかった子がたくさんいたのだそうだ。

日本の学生がデモに参加しない理由が、授業があるから、内申に影響するからいう自分の為の理由なのに対し、
親が困る、生活での負担を増やしてしまうという、親を思いやる理由であることが何とも印象的でした。

世界では、社会運動に参加する自由も、貧困によって実質制限されてしまうことがあるという問題もはらんでいるということを知りました。

その後、デモに参加できなかった息子さんが友達と結成したバンドで、彼らが自分達の思いを叫んだ曲の歌詞が社会の実態を表していました。

俺たちもデモに行きたかった
プラカード作っていきたかった
でも俺らプアでガラの悪いガキだから
でも俺らアホで手のつけられないガキだから
デモに行くのを禁止された

あれはリッチ・キッズの運動
あれはグッド・キッズの運動
俺たちだってプラカード持ってクールにストリートを歩きたかった
俺たちだって大声出してこの星の未来のために騒ぎたかった

気分はマージナライズド
俺たちはマージナライズド


(4)「ハーフ」は差別用語

これは私が知らなかっただけかもしれないけど、外国人との混血の人を指す「ハーフ」という言葉は差別用語らしいのです。

そう言われてみれば、当事者からしたらきっと、お前の存在は半分だって言われてるようでイヤな気持ちになりますよね。2つの人種の血をひいてるけど本人は決して半分の存在ではないのだから。

現在では「ダブル」だったり「MIXED」だったり様々な表現で表す意見があるそうです。

それにしても、今までの人生で何の疑問も持たなかった自分がちょっと恥ずかしい・・!!

どれだけ自分自身が、日本人同士の馴れ合いの中しか知らずに生きてきて、想像力が育っていない世間知らずなのかを思い知った気持ちになりました(世界知らずと言ったほうがいいのかも)


(5)著者の親子関係がとても素敵

最後に、この本を読んで一番羨ましいと思ったのは、なんと言っても著者家族の親子関係でした!!
私が感じた2つの羨ましいポイントを紹介します。

息子さんの中学校選びのエピソードが素敵

なんでも英国では、公立の小中学校を選べる制度で、親達は学力が高いランキング上位の学校近くに引っ越す人も多いそうで、
息子さんはたまたま、市のランキング1位のカトリック小学校に通っていたのだけど、そのままランキング1位のカトリック中学校にいくのかと思いきや、興味本位で見学に行った近所の元底辺中学校へいくことに!

息子さんの気持ちを尊重して選んだそうなのですが、日本の普通の親だったら大反対するのではないかなって

日本の親だったら、経済的に通わせることができるのであれば、学力の高い私立の学校に入れたがることが一般的だと思うし、学力が下がり治安も悪くなるような学校をあえて選択していかせたくないと思うのが普通だと思うのです。

だけど、著者は子供の意志を尊重すると共に、
その元底辺中学校ならではの、あえて貧困などの多様性が更に広がっている環境の中の学校だからこそ、そこで起こる様々なことを経験する中で、考え学び成長できる貴重な人生経験になり、学力では測れない人として大切なことも学ぶことができる環境であるということを肌で感じ、息子さん自身もそんな直感があり、しっかりした意志でこの中学校を選んだのではないかと。

なんとなくそんな気がしたのでした。

息子さんとの日々の会話が素敵

学校での出来事や授業の内容についてはもちろん、いじめや差別、社会問題についてなど、親子で当たり前に議論できる日常風景。

日本だと、政治などのこむずしい話は話題にすらあがらない家庭も多いと思うのだけど、この差別溢れる多様性社会の中で生きていることや、市民活動や政治教育が子供の頃からしっかり教えられている環境だからこそできる会話なのか?

いろんな要因はあるのかもしれないけど、著者のブレイディみかこさんの子育てのスタンスが、息子さんを自立した1人の人間として尊重しているんだなというのがとても伝わってきます。

日本は英国とは環境が違うかもしれないけど、ブレイディみかこさんのように子供を1人の人間として対等に向き合って、子供の気持ちを尊重していけるような子育てがしていけたら素敵だなぁ。

そんなことを考えながら、この本を読み終えたのでした。


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最後までお読み下さりありがとうございました✨

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