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読書感想文

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#読書日記

中村文則『遮光』、読書メモ

中村文則『遮光』、読書メモ

以下、『遮光』読書会(https://note.com/yozora/n/ne60c2af7326c )時のメモです。

冒頭のサルトル、エロストラートと銃
が、カミュも
太陽が眩しいから殺した、というカミュの異邦人が想起される。ペストのような細かな心理描写。講演で意識してないとは言うものの、その講演でもカミュを扱っており、彼とフランス文学の親近性が窺える。

見られている感覚
悲しいからなくのか

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読書記録015「廃屋の幽霊」(福澤徹三)

読書記録015「廃屋の幽霊」(福澤徹三)

ホラーを読もうプロジェクト。筆者である福澤氏は、『残穢』(小野不由美)の作中に平山夢明氏と並んで出てきたキーパーソンの一人でもあった。本作の解説も平山氏であり、界隈での横の繋がりを感じる。

表紙はこれぞホラー!という風だが、いい意味で予想を裏切られた。

短編集だが、どの話も泥臭く生活の厭な臭いが染み込んでいる。実話ホラーで脱色されがちなリアリズムが心地良い。それでありながらオチは見事にホラー調

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読書記録014「鈴木ごっこ」(木下半太)

読書記録014「鈴木ごっこ」(木下半太)

一つ屋根の下、一軒家にそれぞれ見知らぬ四人が集められ、「鈴木」を名乗ることに。四人には多額の借金があり、それを返済するには一年間「鈴木」として暮らすだけでいい……。

集められたのは四人だ。主人公の小梅、大学生くらいの青年、三十前半のスーツの男、そして五十過ぎの中年の男。主人公の小梅に母、青年に息子、スーツの男に夫、中年男におじいちゃんという役割が割り振られ、共同生活がスタートする。

突飛な設定

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「エモーショナルきりん大全」雑感、幻視者としての悔悟

「エモーショナルきりん大全」雑感、幻視者としての悔悟

『エモーショナルきりん大全』(上篠 翔、書肆侃侃房 、2021)

フリッツ・ラングを引くまでもなく、ましてや西田幾多郎を引くまでもなく、あまつさえヘラクレイトスを引くまでもないし、もちろんパスカル・キニャールを引くまでもない。別にだれの言葉も引用も必要がない。なぜならここには彼の文字があるのだから。上篠翔の文章がある。だからそれについて語ろう。それ以外のすべては必要ない。少なくとも今は。

なん

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読書記録013「山ん中の獅見朋成雄」(舞城王太郎)

読書記録013「山ん中の獅見朋成雄」(舞城王太郎)

舞城王太郎の作品を読むのは、「スクールアタックシンドローム』以来、約一年ぶりだった。定期的に摂りたくなる癖の強い料理のような、そんな魅力を舞城作品は持っている。
獅見朋成雄(しみともなるお)という高校生が主人公なのだが、彼は背中に先祖由来の獣のタテガミを生やしていて、それをコンプレックスにしている。
舞城の魅力の最たるものはその文体にある。(本作では、それはもちろん音の描出として表現される。)舞台

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読書記録010「TVピープル」村上春樹

読書記録010「TVピープル」村上春樹

基本的に『TVピープル』収録の6つの短編は、コミュニケーションの失敗や挫折を描いている。
村上春樹の作品の主要なものは、意志の疎通がとれないながらも、物語が進んだり関係性が発展していくものが多い傾向にあるが、ここに収められた短編はどれも他者との交流が断絶したところで話が終わっている。関係が発展しない代わりに表現されているのは、喪失感に彩られた奇妙なリアリティだ。
たとえばそれは普通の人の0.7倍の

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読書記録008「光媒の花」道尾秀介

読書記録008「光媒の花」道尾秀介

ちょっと引いてしまうほど話が巧い。

なぜなんだろう?と考える。どうしてこんなに巧いと感じるのだろう?

『光媒の花』は六編の短編から構成されていて、同じ世界観のもとに書かれた連作であり、それぞれの登場人物がほかの短編のなかにも影を落とすようになっている。いわゆるスターシステム的な要素。これによって読んでる方は興奮する。しかしそれはジャブに過ぎない。では、それぞれの独立した短編として読むにしても、

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読書記録007「毒身」星野智幸

読書記録007「毒身」星野智幸

変な本を読んだ、というのが初読の印象だ。

奇妙で、面白い。刺激がある。それは構成の妙と、キャラクターの見せ方にかかわっている。ストーリーを紙に書いて、箱に入れ、それを見ないでよくかき混ぜ、取り出した順に並べていく。そういう方法を提案していたのは、バロウズだったか、ブルトンだったか、ウディ・アレンだったか、あるいはその全員だったか、忘れたが、そういう「時間軸の攪乱」が物語にいいコクを与えている。

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読書記録006「私の奴隷になりなさい」サタミシュウ

読書記録006「私の奴隷になりなさい」サタミシュウ

会社の同じ職場の女性に惹かれるが、冷たくあしらわれる。そんな経験がいままでなかったから、主人公は一層その女性に執着するようになる。突然機会が訪れる。「今日、セックスしましょう」。そして、「ビデオカメラで撮ることが条件」だという。主人公は謎を抱えたまま、その女性と行為に至ることになる……。

官能小説でなくても性行為の描写は結局のところパターン化されているが、その限定された条件のなかでどのように性行

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