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【紹介記事5本】公立高定員割れ/東大推薦入試合格者女子率過去最多/教員未配置過去最多449人/大学と資本の論理/入試の公平性

日々報じられる様々な媒体の教育関連情報から、今後教育業界への影響が高いと思われる内容について、それぞれの私見を述べます。

教育・学校・入試について関心がある方々にとって、考えるヒントとなりましたら幸いです。



🔽「これほどとは…」公立高で70校の定員割 激震の大阪府教育庁、私学無償化策の波紋
(産経・3/30)

【記事概要】
大阪府で高校授業料が段階的に無償化されます。
無償化は全ての生徒を対象としているため、家庭の収入に左右されず進路選択ができるようになります。
その結果、私立を第一志望とする専願者が過去 20 年で初めて3割を超えました。他方、公立の志願者は現行の入試制度となった平成 28 年度以降最少となり、公立の半数近い 70 校が定員割れとなりました。

大阪府のルールでは、定員割れが 3 年連続し改善の見込みなしと判断されれば統廃合の対象となります

府教育庁では、私立入試 2 月、公立 入試 3 月の見直しの声が出ています。

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【研究員はこう考える】
子どもの数が多ければ、公立・私立の「棲み分け」で、何とか調和を保てたかもしれません。それぞれの特色を出しながら、切磋琢磨し、「選ばれる学校」を目指せばよかったのです。

合計特殊出生率が下がり「1.57 ショック」と呼ばれたのは、1989 年のことです。2011 年からは総人口も減り始めました。少子化・人口減少の影響が多くの分野で出始め、学校の在り方、存続も問題化しています。大阪府に限ったことではありません。

解決の方向を見出すのは難しいですが、各校任せにできないことは明らかではないでしょうか。

子どもたちの教育環境がどうあるべきか。

公私の区別なく、自治体、国、社会全体で議論する必要があると思います。

 主幹研究員 林


🔽開始から9年で合格者女子率は過去最多に
「多様性の確保」で何が変わったのか?(Yahoo/AERA・3/30)

【記事概要】
「難関」国立大においては、2000 年度、東北、筑波、九州大学がAO入試(現・総合型)を導入したことが画期的でした。

東大においては、2016 年度推薦入試を始めました。理由は「学生の多様性の確保」です。(特に女子と首都圏以外の地方出身の学生)

女子については、2024 年度推薦入試における女子率は 46.2 %となり過去最高であり成果を上げています。

地方については、例年東大合格者を一人も出さない高校からも推薦入試を活用し、東大に輩出できるようになっています。

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【研究員はこう考える】
推薦、総合型については、「年内入試」と呼ばれ、国公立では2割、私立では6割にまで拡大しています。少子化・高卒者減少の中で、「早期に入学生を確保したい」という経営上の思惑には否定し難いものがあります。

しかしながら「学生の質」「大学の質」についても、思考停止せず、また、全国の子どもたちが置かれた教育環境の差にも配慮しながら、入試制度をアップデートしていってほしいと願います。

大学入試に限らず、多様性を尊重する仕組みが「格差」構造を揺さぶり、人の可能性をより一層開花することになればよいです。

  主幹研究員 林



🔽教員未配置が深刻、過去最多の449人
過重勤務・自習授業増…(朝日・3/30)

【記事概要】
教員の成り手の問題がますます大きくなっています。
採用試験の倍率が低下し、欠員が生じています。

千葉県では、2 月時点での教員未配置が 449 人です。

全国では、昨年 10 月時点で、判明した 32 都道府県・12 政令指定都市の教員の欠員は 3112 人でした。

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【研究員はこう考える】
教員が足りなければどうなるでしょうか。
教員の労働が長時間になります。精神的にも余裕がなくなります。授業の自習も増えます。児童生徒に目が行き届かなくなります。

そうした状況で、質の高い教育を維持することはできるでしょうか。

不登校やいじめ、特別支援に対応することができるでしょうか。

子どもたちが安心して登校することができるでしょうか。

新人教員が「学校現場で長く働きたい」と思えるでしょうか。

社会に喫緊の課題は数多ありますが、教員の未配置問題は、全ての国民が取り組むべき、優先度が高いものだと思います

なお、この記事には、内田良氏(名古屋大学大学院教授)のコメントがあります。

  主幹研究員 林


🔽大学の教養教育を「資本の論理」からどう守るか(東洋経済・3/31)

【記事概要】
斎藤 幸平氏(東京大学大学院准教授)への 堀内 勉氏(多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長)によるインタビュー記事です。

大学が「資本主義の論理の中に組み込まれて」いるのではないかという、問題提起に対し、斎藤氏は同意し、大学の研究や教育と「資本の論理」「(経済的な)成長の論理」は必ずしも両立しないと述べています。

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【研究員はこう考える】
私は、このことについては、賛否両論では終われないと思います。
教養か、「資本の論理」か、ではありません。

なぜなら、議論の前提となる、日本の状況は共通だからです。

全体として、他国に比べ、日本の様々な「力」が落ちています。経済、社会の多くの指標において、日本の数字や順位が低下しています。
大学は定員割れが多くなり、研究力の低下も否めません。

しかし、明らかなことは、教育と未来に関係があるということではないでしょうか。教育力や研究力が高ければ、よい変化が起こってくるはずです。初等中等教育や高等教育の質が上がれば、日本の可能性が広がるということです。

二項対立を超えた前向きな議論を行い、光るアイディアを多くの人に手渡していくことが大切だと思います。

主幹研究員 林


🔽【書籍・論説】
「不正入試事件が示す社会的空気」中村高康(『世界』2024.02.岩波書店)

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\begin{array}{|l|l|} \hline\ 形態 & 論考 \\ \hline 名称 & 「不正入試事件が示す社会的空気」 \\ \hline 出版元・雑誌名 & 世界 2024.02(岩波書店) \\\hline 著者 & 中村高康 (東京大学大学院教育学研究科教授) \\ \hline \end{array}
$$

【研究員はこう考える】
強引な改革の頓挫のたびに浮かび上がる、「公平性」の担保

入試で公平性が求められるのは、日本だけの話ではありません。
アファーマティブ・アクションによるマイノリティ特別枠で有名な米国大学においても、実は公正性・公平性の議論は常につきまとっているのです。

これまで高大接続改革の要所要所で重要な発言をされてきた著者は、それでも、日本の社会においては入試の公平性は「透明性の高い手続き的公平性の世界」( p148 )を守る数少ない機会と指摘。

その上で、これまでの入試改革の議論のプロセスでもたびたびみられた、「一部の人間の「理想」に基づいた改革案を、変えること自体を是と感じるその他大勢の人々が容易に是認してしまう奇妙な社会的空気」( p148 )を危惧したうえで、ここ 1, 2 年見られる「女子枠」の急速な拡大についても、一足飛びに特別枠の導入に進む前に、「両立可能性を探ったり別の可能性を模索したりする冷静な視座をいかにして確保するのか」( p143 )と、性急な扇動的な動きを牽制。

議論が尽くされなかった強引な改革の多くは頓挫している過去の歴史を思い返すと、著者のメッセージはひときわ重みを増すのです。

なお、中村高康氏は現在、大学入試学会(会長:倉元直樹・東北大教授)の副会長でもいらっしゃいます。


次回、vol.02 もお楽しみに📒

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