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暦の思い出と暮らす日々

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きわめて個人的な暦のはなし
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野菜を買うことは、明日の自分への期待だった(暦のはなし_2021年末)

野菜を買うことは、明日の自分への期待だった(暦のはなし_2021年末)

12月になるとすぐに、二十四節気で言うと大雪(たいせつ)に入ります。山の峰々は白くなり、気温もぐっと下がる、本格的な冬の訪れ。そして12月の下旬には、1年のうちで最も日が短く夜が長い冬至(とうじ)がやってきます。お正月の準備をしながら、今年はどんな1年だったかな、と振り返る人も多いのではないでしょうか。

私は4年前まで、毎晩遅くまで働き、歩いて帰る気力もないほど疲れ果てて、タクシーに乗り、コンビ

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父の苦しみを知った日(暦のはなし・6月)

父の苦しみを知った日(暦のはなし・6月)

 6月上旬は芒種(ぼうしゅ)といって、穀物の種をまく時期です。農家さんにとっては忙しい頃。そして下旬になると、1年で最も昼が長い夏至(げし)がやってきます。本格的な夏も、もうすぐそこ。

 夏至の少し前、6月20日は父の日です。

 私の父は転勤の多い仕事をしていました。私も幼稚園から中学校に上がるまでに5回転校をしました。その度に友達と別れ、寂しい思いをしましたが、父を責めたり恨んだりはしていな

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適度な距離と時間が、母と私には必要だった(暦のはなし・5月)

 GWが終わって日常が戻ってくる頃、暦の上ではもう夏の訪れ、立夏(りっか)です。晴天のもと、新緑が美しく木々に揺れて、外へ出かけたくなりますね。そして5月後半に差しかかると小満(しょうまん)といって、農家さんが田植えの準備をはじめる頃です。

 5月といえば、母の日。私は毎年なにかしらのプレゼントを贈るのですが、何にしようかいつも本当に困ります。

 母には、とくにこれといった趣味がありません。読

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東風吹かば匂ひおこせよ梅の花(暦のはなし・3月)

東風吹かば匂ひおこせよ梅の花(暦のはなし・3月)

 暖かい日が増え、だんだんと春めいてくる3月。虫たちが土からひょっこり顔を出す啓蟄(けいちつ)から、昼夜の長さがほぼ同じになる春分(しゅんぶん)へと季節が進み、陽が長くなっていきます。

 春といえば桜ですが、春のはじまりに咲く梅の花も良いものです。そう感じるようになったのは、この歌を知って以来かもしれません。
「東風吹かば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな」

 千年よりも昔、京都の北野

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きっと、うまくいく(暦のはなし・2月)

きっと、うまくいく(暦のはなし・2月)

 まだまだ寒い日が続きますが、暦の上ではもう春のはじまり、立春(りっしゅん)です。立春に入ってからはじめて吹く南からの強い風が春一番。そして2月半ば頃を過ぎると、雪が雨に変わる雨水(うすい)へと季節が進みます。

 この時期は受験シーズンでもありますね。電車で英単語帳を熱心に読んでいる高校生を見かけると、自分の受験生時代を思い出してしまいます。センター試験の当日、雪道を絶対に「すべらない」ように慎

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真冬のラオスで、2人の夢が重なる(暦のはなし・1月)

真冬のラオスで、2人の夢が重なる(暦のはなし・1月)

 新たな年のはじまりは、日々厳しくなっていく寒さとともに。小寒(しょうかん)から大寒(だいかん)へと移りゆき、手がかじかむ季節です。

 3年前の1月、私は今の会社に入社しました。最初の仕事はなんと東南アジアのラオスへの出張。コーヒー事業をPRするための動画撮影のディレクションと、Webサイト制作のための取材が目的でした。

 私は大学時代、東南アジア、とくにメコン川流域の国々への開発支援について

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大晦日とエビの天ぷら(暦のはなし・12月)

 いよいよ12月になりました。本格的な寒さが到来する大雪(たいせつ)から、柚子湯に入ることで知られる冬至(とうじ)へ。クリスマスや年末年始の準備に忙しい時期ですね。

 私には毎年、大晦日にエビ天をつくるという使命が課せられています。我が家の年越しそばにはエビ天をのせると決まっているのです。
 祖父母と父母、兄と私、6人分のエビ天。殻を剥き、反らないように包丁でスジを切り、油の中でハネないようにし

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食べることは、生きること(暦のはなし・11月)

食べることは、生きること(暦のはなし・11月)

 11月に入ってしばらくすると、二十四節気では「立冬(りっとう)」、暦の上ではとうとう冬のはじまりです。寒さにコートを羽織れば、やがて木の葉が落ちて山にうっすら雪が積もる、「小雪(しょうせつ)」へと移ろいます。

 私は冬がとても苦手です。空はどんよりしているし、日が短くて1日がすぐ終わるようで気が滅入ってしまうのです。そして、ある苦い経験をしたのも冬でした。刺すような寒さは、暗い気持ちごと、記憶

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私たちを繋いだものは手紙だけだったけれど(暦のはなし・10月)

私たちを繋いだものは手紙だけだったけれど(暦のはなし・10月)

 草木に冷たい露がつく寒露(かんろ)から、朝晩の冷え込みが厳しくなり朝霜がおりはじめる霜降(そうこう)へ。紅葉が山から里へと降りてきます。

 10月は和名だと神無月ですが、私が幼少期を過ごした島根県出雲市では神在月と呼ばれます。日本中の神様が出雲大社に集まるため「在」が使われる、というのは有名な話ですが、では神様が集まって何をしているかというと、農業や縁結びについて話し合っているのだそう。

 

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人より得意じゃなくても、上には上がいても(暦のはなし・9月)

人より得意じゃなくても、上には上がいても(暦のはなし・9月)

 静かに秋が深まっていくこの頃。二十四節気では、草花に朝露がつきはじめる「白露」から、昼夜の長さが同じになる「秋分」へと移ろいます。
 秋といえば、食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋……色々ありますが、私にとって、今年は芸術の秋になりそうです。

 幼い頃から絵を描くのが好きで、子どもの頃の一番の夢は画家になることでした。先生や親から「上手だね」と褒められ、中学生のときには作品が学年代表としてコンク

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あてもなく電車に乗った日のこと(暦のはなし・8月)

あてもなく電車に乗った日のこと(暦のはなし・8月)

暦の上では秋ですが、日中はまだまだ厳しい暑さがつづくこの季節。一方で朝晩は少しずつ過ごしやすくなり、初秋の気配を感じはじめる頃ですね。
夏が大好きな私は、ツクツクボウシが鳴き出すとこの上なく寂しくなります。あぁ、また夏が終わってしまう……。

思い出すのは、ある夏の日、ひとりあてもなく電車に乗ったときのことです。

新卒で就職した会社で毎日朝から深夜まで働き詰めだった私は、心身を病んでしまい退職す

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