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東風吹かば匂ひおこせよ梅の花(暦のはなし・3月)

 暖かい日が増え、だんだんと春めいてくる3月。虫たちが土からひょっこり顔を出す啓蟄(けいちつ)から、昼夜の長さがほぼ同じになる春分(しゅんぶん)へと季節が進み、陽が長くなっていきます。


 春といえば桜ですが、春のはじまりに咲く梅の花も良いものです。そう感じるようになったのは、この歌を知って以来かもしれません。
「東風吹かば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな」


 千年よりも昔、京都の北野天満宮の辺りは一面に梅の木が立ち並び、春のはじまりには一斉に咲いて梅の花の匂いで満たされていたそうです。菅原道真が京都から太宰府へ左遷される際に詠んだとされるこの歌は、切なくもあり美しくもあり、なんとも心がギュッとなります。


 私がこの歌と出会ったのは、以前働いていた会社で、京都をPRする冊子を担当していたときのことでした。毎月、京都にまつわる和歌をひとつ取り上げて紹介するページがあったのですが、百人一首くらいしか知らない私は毎回とても苦労しながら原稿を書いていました。そんななかで出会ったのがこの歌。現代語訳とその背景を知ったときには、目頭がじんわりするほど感動しました。



 桜の花は、小野小町の「花の色は」に代表されるように、その美しさと儚さから、女性の姿と重ねられることが多いように思います。でも私はそれが気に入りません。歳を重ねていくことを、花が色褪せていく様子に重ねるなんて。それならいっそ、やわらかな匂いとともに春のはじまりを告げ、知らない間に散っている梅の方が良い。

その後に付く実は、おいしいお酒にもなりますしね(あ、これは桜も同じかな……?)

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