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私たちを繋いだものは手紙だけだったけれど(暦のはなし・10月)

 草木に冷たい露がつく寒露(かんろ)から、朝晩の冷え込みが厳しくなり朝霜がおりはじめる霜降(そうこう)へ。紅葉が山から里へと降りてきます。


 10月は和名だと神無月ですが、私が幼少期を過ごした島根県出雲市では神在月と呼ばれます。日本中の神様が出雲大社に集まるため「在」が使われる、というのは有名な話ですが、では神様が集まって何をしているかというと、農業や縁結びについて話し合っているのだそう。

 小学4年生のとき、父の仕事の都合で出雲を離れる際、たくさんの友達が「手紙を書くね」と言ってくれました。でも、3〜4往復もするとやり取りは徐々に途切れ、年賀状だけを送り合う仲に。唯一、文通が続いたのは、一番仲の良かった子ではなく、少し大人しい佳奈ちゃんという女の子でした。
 不思議なことに、佳奈ちゃんとの文通は、中学生に上がっても続きました。手紙には書きませんでしたが、実は学校に馴染めず消えてしまいたいと何度も思った私にとって、変わらない友人として文通を続けてくれた彼女の存在はとても、とても大きなものでした。

 そして高校生になり、大学生になった頃から、手紙のやり取りは徐々に間隔があいていき、約10年に渡り続いた文通は途切れました。当時はメールもmixiもfacebookも、繋がる手段はいくらでもありました。それでも、私たちを繋いだものは手紙であって、他のものではダメだったのです。

 今、佳奈ちゃんがどこで何をしているのか、私は知りません。覚えている最後の情報は、手紙に書いてあった「はじめて彼氏ができた!」というもの。

 佳奈ちゃんに訪れたご縁は今も続いているのでしょうか。今年も神在月に出雲大社に集まった神様がいろいろ相談をしているのかもしれません。どうか、幸せなご縁に恵まれていますように。

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