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「キングダム」嬴政は善で、呂不韋は悪という解釈は正しいのか?

今回は、「キングダム」について書きたい。
2012年からNHKが頑張って続けている人気シリーズで、先日にようやく5期が終了した。
なんか、長いよな・・。
我々は始皇帝が中華を統一した史実を知ってるからオチは明白なんだけど、「キングダム」は非常に丁寧に物語を紡ぐので、とにかく進行が遅い。
アニメ開始から10年以上経過してるのに、全く中華統一の気配すら見えてこない。
大丈夫かいな・・。
たとえば3期は全26話なんだが、これは「合従軍」編で秦国が絶体絶命のピンチに陥る大盛り上がりのところである。
だけどオチがついた最後の方で、こういうナレーションが入るんだ。

「蕞の戦いの結末については、史記趙世家の一文に一言で記されている。
紀元前241年、龐煖は趙・楚・魏・燕の精兵を率いて、秦の蕞を攻めたが、抜けなかった、と」

そう、歴史書には一文でしか記述のないことを、「キングダム」は2クールも費やしちゃってるのよ(笑)。
そりゃ進行が遅いはずだわ。

「キングダム」

日本人は「中国人ってキライ!」という人が多いんだけど、そのくせ中国史はやたら人気があるものである。
この「キングダム」しかり、三国志しかり、「薬屋のひとりごと」しかり。
遂には、諸葛孔明が現代日本でパリピになっちゃうまでの事態に・・。

ウェイ系になった諸葛孔明

日本人はツンデレだよな。
アンタのことなんか、好きでもなんでもないんだからねっ!
とか言いつつ、かなり中国(特に古いやつ)が好きなんだと思うよ。
日本人にとっての中国は、少なくとも鎖国までは最も規範にすべき先進国だったのは間違いない。
太平戦争後はその座がアメリカに替わったにせよ、中国とアメリカ、日本にとってこの両国は愛憎の対象ともいうべき「兄貴」である。
正直、目の上のタンコブであり、超えるべき大きな壁でもあった。
多くの日本人が日清戦争に勝ったことで途端に中国を見下すようになったんだが、実はもうひとつ、日中戦争で日本は中国に負けてることを忘れてはいけない。
え?
あれは太平洋戦争でアメリカに負けたから芋づる式に負けになったんであって、実際は負けてないでしょ?
と言いたい人も多いだろう。
いや、違うよ。
あれは、中国に「戦術」で負けたんだ。
中国側が後退したことにより日本軍は追跡をかけ、その結果は戦線が間延びして各隊が補給路を断たれて孤立・・。
これ、明らかに諸葛孔明的軍略じゃん。
日本はまんまと中国の軍師の策略にハマったのに、日清戦争で勝ったことで驕って向こうをナメてたから、まさかハメられたとは気付かなかったのよ。
愚かだよなぁ。
帝国軍人が「キングダム」さえ見てれば、絶対こんなことにはならなかったのに・・。

幸い、今は「キングダム」のコミックが発行部数1億を超えたらしいので、さすがにもう中国の狡猾さをナメる人は少なくなってるだろう。
いやホント、日本は警戒すべきだよ?
あいつら、軍略をめぐらすことにかけては歴史の長さが違うんだから。
思えば、「キングダム」でシンが必死になって闘ってるという時代に、日本人はノンキに弥生式土器とか開発して
「うぉ~っ、ツルツルの土器ができた~っ!」
「ホンマや!ツルツルや~っ!」
とかいって喜んでたんだからね。
平和である。

個人的に「キングダム」で凄い!と震えたのは特に第4期。
ここでは派手な国vs国の大規模戦争だった第3期から一転、地味な内戦へと移るから一般的にはむしろ人気がない章かもしれない。
上の画を見ても、地味でしょ?
これは嬴政(後の始皇帝)vs呂不韋の論戦のシーンだ。
嬴政も呂不韋も秦国の人間だが、ある意味嬴政にとって最も手強い敵はこの呂不韋なんですよ。
嬴政は既に秦王だが、それはあくまで表面上の最高権力者であって、実際は呂不韋が権力を握っている捻じれた構造。
嬴政を王にしてる根拠は「血統」であるのに対し、呂不韋の権力の根拠は「財力」である。
どうやら呂不韋は商人上がりの叩き上げらしく、並の人物ではない。
その思想は「経済こそが国に繁栄をもたらす」というロジックであり、そこは現代人の我々にも非常に理解しやすい、リベラルなものだった。
あれ?こいつ悪役のはずなのに意外とマトモじゃん、と思ったほど。
一方、嬴政の思想は「戦乱の世を終わらす為には国をひとつにまとめる必要がある」というものであり、つまり秦による中華統一、中央集権という治世の理想を追求したものである。
うん、これも決して間違ってない。
そう、どっちも間違ってないのよ。
皆さんは「キングダム」第4期を見て、どっちの言ってることが正しいと思った?
そりゃ、この作品は嬴政が主人公サイドだから、演出上嬴政の理想の高潔さの方を強調する形になっていたけどさ・・。

「アップルシード」

私が嬴政vs呂不韋の論戦を聞いててまず思い出したのが、士郎正宗の「アップルシード」である。
士郎先生は「攻殻機動隊」の原作者として皆さんもよくご存じのように未来シミュレーションの天才であり、その彼が「攻殻」の百年後、つまり未来の最終到達地点として描いてるのが「アップルシード」なのね。
その世界では、日本という国は「ポセイドン」という企業体になっちゃってるのよ。
つまり、企業が国家を凌駕し、国家財政が破綻したことで最後は合併・吸収しちゃったということでしょ?
そんなのあり得んわ、と思うだろうが、私はあながちあり得ない話でもないと思ってたりして。
法律⇒社則、行政サービス⇒福利厚生、税金⇒組合費という感じで、企業が国家の代替機能を果たすことって可能だと思うし。
実際、皆さんも普段日本という国よりも、自分が所属する会社のことを意識することの方が多いんじゃない?
いや、別に未来がこうなることが望ましいというわけじゃなく、これは単にディストピアの話さ。
でもこれ、呂不韋がいう「経済こそが繁栄をもたらす」の究極形である。
つまり「キングダム」4期の嬴政vs呂不韋の論戦は、今なお正解の分からない究極の思考対決だったということ。
「こんなシーン、視聴率とれないから短縮しようか?」と考えたりせず、きっちり映像化したNHKおよび制作会社に拍手をおくりたい。

羌瘣
河了貂

さて、常に男臭くて暑苦しい「キングダム」だが、そこに華を添える女性キャラの存在も忘れてはいけない。
特にメインヒロインといえる羌瘣と河了貂、このふたりは外せないね。
人気ランキングを見ると、特に羌瘣の人気は凄まじい。
美少女、真面目、クール、最強。
女性キャラとしての、おいしい要素を独占してるよね。
彼女の面白かったくだりは、4期第1話のあれである。

羌瘣「(今後の自分の目標の)ふたつ目は、お前(シン)の子を産む」
河了貂「な、何言ってんの、羌瘣!」
シン「い、いや、別に構わないよ、俺は・・」
河了貂「シン!・・羌瘣、そ、その、ちゃんと分かって言ってんの?
どうやって子供を作るか・・」
羌瘣「ん?知ってるぞ。
確か、強い男と組んで力を合わせて、どこか高い山に登って何かを炸裂させたら、子供を授かるんだろ?」
河了貂「な、何か違う・・」

いや、確かに羌瘣は全く理解してないようだが、でも言ってることの大半は正しいのが逆に笑える。
結構、天然な人だ。
だから彼女が女性キャラ人気1位というのはよく理解できるんだが、アニメでは河了貂もかなり可愛い。
これ、明らかに釘宮理恵効果だね。
声優が彼女じゃなきゃ、正直これほど可愛くなかったと思う。
彼女が敵軍に誘拐され人質にされたくだりで、救出された後、彼女が
あとな、シン、俺、何もされてないよ
と言うところ、私は胸がきゅっとなった。
釘宮さんってキャラ声としてばかり崇拝されてるけど、実は演技力も凄いということが「キングダム」を見てるとよく理解できる。
ただ、実写版では、羌瘣も河了貂も完全にあの人に食われちゃってるんだよなぁ・・。

そう、楊端和ね。
というか、長澤まさみね。
もはや実写版「キングダム」は長澤まさみの為に作られたのか?というほど彼女はフェロモンをまき散らしており、内容が頭に入ってこないんですよ。

楊端和

アニメだと原作準拠ゆえ、だいぶ違うんですけど。
ま、いいか。
この楊端和も、おいしいキャラだよね。
シンが絶体絶命のピンチの時にギリギリで駆け付け、一番おいしいところをかっさらっていく。
う~ん、アクション作品の王道だよな~。
そう、「キングダム」はいまどき恥ずかしいぐらいの王道なんだ。
主人公・シンの声を「BLEACH」一護役の森田成一さんがやってるぐらいだし。
分かりやすい熱血ヒーロー声である。
そして秦王・嬴政の声は、「コードギアス」ルルーシュ役の福山潤さん。
うん、確かに若き王といえば、福山さん以上はない。
この冷めきった令和の時代に、今なおこういうストレートな王道、立身出世の熱血サクセスストーリーをやってくれてるというのは嬉しいじゃないか。
若い人たちにほど見てもらいたい名作だ。
原作はまだ継続中でいつ終わるのかもよく分からんけど、ぜひNHKさんには頑張ってアニメを継続していってもらいたい。


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