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名匠・杉井ギサブローの最高傑作「タッチ」

今回は、青春系アニメ不朽の名作「タッチ」について書いてみたい。
これは言わずと知れた、あだち充先生の代表作だよね。
TVアニメ最終回の視聴率は30%超えをしたらしいし、もうトンデモない人気だったということ。
あだち先生の作品の中では、私は「みゆき」も好きだったなぁ。
「みゆき」を読み、当時「血の繋がらない兄妹」というシチュエーションに萌えたものである。
そして、あだちファンなら誰しもが一度は悩む、人生最大の難題。

若松みゆきと鹿島みゆき、どっちを選べばいいんだろう?

左が若松みゆき、右が鹿島みゆき

私の周辺でアンケートをとったところ、大体6:4の比率で若松みゆきの勝利だった。
しかし、これは子供の頃の話である。
オトナになった今改めて見ると、鹿島みゆきって、めっちゃよくね?
うむ、この「みゆき問題」は「リンミンメイ⇔早瀬未沙問題」と並び、今後もずっと世界中で議論され続けていくものだな・・。

じゃ、「タッチ」に話を戻そう。
この物語において最大の注目ポイントは、言うまでもなくヒロイン浅倉南である。
今なお、「理想のカノジョ」として南ちゃんの名を挙げる男は決して少なくない。
しかし、よ~く見てみたら、南ちゃんって地味系だよね?

浅倉南

一応「美少女」という設定なんだが、あだち先生はそういうのにありがちな

・長いまつ毛
・黒以外の髪色(アニメ的には明るい髪色もありだろ?)
・背景に特殊なエフェクト(キラキラした感じのやつ)

などを一切描いてないんだ。
よって、南ちゃんにはどこか「普通の子」っぽさがあるんだよね。
あだち先生の画力の問題?
いやいや、先生の画力は結構高いよ↓↓

ごくたま~に描かれる、綺麗なバージョンの南ちゃん

だけど、先生は作中でこの「綺麗バージョン」をほとんど出さない。

基本は、こんな感じ。
だけど、この力を入れすぎない作画こそが、逆にあだち先生のセンスの良さかもしれない。
いまどきのアニメにおける美少女とは、ややベクトルが違う。

いまどきのアニメが描く「美少女」

うむ、こういう回転して花びらを散らす女子、男目線ではしんどいですね。
やっぱ、南ちゃんの方がいいです。

妙にダサいソックスとスニーカー、逆にいいっすね

さて、今回はアニメ版の「タッチ」をご紹介しようと思ったんだが、実はTVシリーズって全101話の大長編。
正直100を超えるのは、よっぽど好きな人じゃないと見ないだろう。
よって、今回ご紹介するのは劇場版の3作品である。

・「タッチ 背番号のないエース」(1986年)監督・杉井ギサブロー
・「タッチ2 さよならの贈り物」 (1986年)監督・杉井ギサブロー
・「タッチ3 君が通り過ぎたあとに」(1987年)監督・杉井ギサブロー

そう、「タッチ」はレジェンドアニメーター・杉井ギサブローさんの代表作なんだよ。
杉井さんをよく知らん人は、まずこちらをどうぞ↓↓

杉井さんは元「虫プロ」の中核的アニメーターで、同じく中核には出崎統氏もいたんだけど、最も分かりやすくいうと

・アニメ界の「黒澤明」⇒出崎統
・アニメ界の「小津安二郎」⇒杉井ギサブロー

という解釈で構わないと思う。
杉井さんは「タッチ」のみならず、「ナイン」や「陽当たり良好」の監督も手掛けており、よほどあだち作品がお気に入りだったんだろう。
それ、スゲー分かる。
あだち作品って、ちょっと小津安二郎っぽさがあるんだよね。
「間のとり方」こそが生命線というか、とにかく表現にやたら余白が多い。

小津安二郎的映像表現

もともと「タッチ」にはモノローグがないし、達也も南も言葉で本音を語るタイプじゃないから、画で読み取っていかなくてはならん。
しかしその画すら、あだち先生は敢えて表情を読み取れない作画をすることが意外と多いんだ。

これは、さっき「あだち先生は浅倉南を美人に描きすぎない」と書いたことにも通じる話で、ようは先生って読者の想像力が入る余地をわざと作ってるのよ。
「引き算」の表現スキルである。
未熟な作家ほど「足し算」に走るんだが、ぜひあだち先生の境地を見習ってほしいもんだわ。
ただ、こういう作家の作品って、アニメだと結構困るんだよね。
なぜって、漫画よりアニメの方が媒体としての情報量多いから。
だから作品的にも、情報量多いものの方がアニメとしては相性いいのよ。

いまどきの情報量多いアニメ心象表現

で、名匠・杉井ギザブロー監督は「タッチ」でどういう表現をしたのか?
これは、ぜひ作品を見て確認してみてほしい。
やはり見事だよ。
ちゃんと、あだち充の世界観になってるから。
多分、杉井監督は「引き算」が得意な人なんだろう。
そもそも、全101話ある大長編のアニメを僅か3つの劇場版にまとめるということ自体、よっぽど「引き算」が得意な人じゃないとできない芸当である。
実際、映画を見てほしい。
普通なら「ダイジェスト版」のような作りになってしまうところだろうに、驚いたことにそうなってはいない。
このカットの仕方がまた実に秀逸で、たとえば1作目、これは和也の死までを描いてるんだが、TV版屈指の名シーンとされる「遺体との対面」「高架下での号泣」などが全部カットされてるんだわ。
その代わり、劇場版オリジナルの展開が終盤に挿入されてて、これがもう、私は泣けて泣けて・・。
あぁ、こうくるか~、って感じ。
1作目、2作目は、ほぼ完璧である。
ただ難をいうと、3作目は監督代行・柏葉英二郎に焦点を絞り込んだ構成になっていて(お陰で新田の妹は一度も出てこない・・笑)、それ自体はいい判断だったんだけど、それでも地獄のシゴキの尺が足りなかった感がある。
う~ん、柏葉が来てからのくだりだけ、補足としてTVアニメ版見た方がいいのかも・・。

柏葉英二郎

だけどさ、この3つの劇場版見て思ったんだが、つくづく「タッチ」は綺麗にプロットが整理されてるよね。
3作目に柏葉英二郎をもってきて、達也⇔和也、英二郎⇔英一郎の両兄弟を対比させ、テーマをうまく原点回帰させている。
こういう起承転結のバランスのいいプロットは、「タッチ」の連載当初から予定されてたものに違いない。
もちろん、和也の死や、新田との出会いも含めて。
こういうところ、さすが少年サンデーというべきか、これがジャンプなら、まず間違いなく編集部の介入でプロット通りにはいかんだろうし、ジャンプお得意の「インフレーションシステム」が導入され、新田以上の強敵が続々と湧いてきただろうことは想像に難くない。
あだち先生、つくづく連載誌がサンデーでよかったっすね。

「タッチ Miss Lonely Yesterday あれから君は・・」(1998年)
「タッチ CROSS ROAD〜風のゆくえ〜」(2001年)

そして上の2作品は、TVアニメの続編となるアニオリ2時間スペシャル企画。

・「タッチ Miss Lonely Yesterday あれから君は・・」⇒大学生編
・「タッチ CROSS ROAD〜風のゆくえ〜」⇒社会人編

両作品とも、やはり杉井ギサブロー氏が総監督を務めている。
とはいえ、私としてはこれをお薦めはしません。
というのも、特に大学生編は達也と南ちゃんの心のすれ違いがシビアな形で描かれており、せっかく本編では綺麗にまとまったはずなのに、こういう「その後うまくいってません」的なドラマはいかがなものか、と。
社会人編は、その評判悪かった大学生編をリカバーする意味で制作されたんじゃない?
ここでは、達也が単身渡米してマイナーリーグで投手デビュー、南ちゃんは日本でスポーツカメラマンの助手として修業の日々。
つまり、遠距離恋愛か・・。
最後は達也所属チームがリーグ優勝するので、まぁまぁ後味はいいものの、それでも蛇足感は拭えない。
・・うん、やっぱ見なくていいよ。

もともと「タッチ」は余白があってこその名作だったというのに、その大事な余白をわざわざ塗りつぶしてどうすんのよ?


小津安二郎は、「東京物語」の後日譚を作ったか?
杉井さんも、多分そのへんは誰より分かってたはずなんだけどなぁ・・。
ちなみに、このTVスペシャル版にあだち先生は全く関与してないらしいので、この「タッチ」は公式ではない、という解釈でいいと思う。
そもそも、フジテレビ制作だった「タッチ」の後日譚を、なぜ日テレが制作したんだ?
・・と考えると、色々と謎の残る作品である。

実写版の南ちゃんは、長澤まさみだったよね


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