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タツノコプロをナメるな!進化する「ガッチャマン」

今回は、アニメの系譜について少し書いてみたいと思う。
日本で一番古いアニメ制作会社といえば、東映アニメーションである。
ここは「東映」の名を冠してることからも分かるように、映画会社が母体。
・・という感じで、どの会社にせよ大体が母体になるものがあるんだよ。

<老舗4社の母体>
・東映アニメーション⇒映画会社
・虫プロ⇒漫画家・手塚治虫
・東京ムービー(トムスエンタテインメント)⇒人形劇劇団
・タツノコプロ⇒漫画家・吉田竜夫

上記の4社が、現アニメ界の源流となった「老舗」である。

で、各々の会社の系譜についてだが、たとえば「東映アニメーション」。
ここは黎明期の1966年、「魔女っ子」シリーズというのを立ち上げてるんだ。
第1弾が「魔法使いサリー」、第2弾が「ひみつのアッコちゃん」という感じでね。
こういうのがず~っと続き、現在の「プリキュア」にまで繋がってるということ。
系譜って、意外と馬鹿にできないでしょ?

「プリキュア」シリーズ

じゃ、「虫プロ」の系譜はどうなのかというと、ここは1963年、日本初のTVアニメ「鉄腕アトム」からその歴史をスタートさせている。
一番最初が、いわゆるロボットもの。
虫プロはやがて経営破綻によって倒産するんだが、その系譜を継いだのが元虫プロ演出家の富野由悠季であり、虫プロから独立した新会社サンライズが「ガンダム」シリーズ等でそれを受け継ぐこととなった。

「ガンダム」シリーズ

じゃ、「東京ムービー」はどうなのかというと、ここはモトが人形劇の劇団ゆえ、絵を描ける人材が乏しく、東映アニメーションから大塚康生(宮崎駿の師匠)を引っ張ってきて、彼に初めて手掛けさせたのが「ルパン三世」。
いわゆるクライムアクションものなんだが、この系譜は80年代の「キャッツアイ」を経て、やがて90年代には「名探偵コナン」へと繋がる。

「名探偵コナン」シリーズ

そして「タツノコプロ」はどうなのかというと、ここは吉田竜夫さんという漫画家が母体になってるんだけど、そもそも、この人のことを知ってる?
多分、手塚治虫に比べると知名度は遥かに落ちるよね・・。
だけど、この先生の原作アニメって案外多いんだ。

・マッハGOGOGO
・ハクション大魔王
・みなしごハッチ
・ガッチャマン
・キャシャーンetc

特に、「ガッチャマン」は70年代に一世を風靡することになったかと。
70年代は他社がオトコノコ向けにロボットものを多く作ってた中、タツノコプロは敢えて「変身ヒーローもの」だったわけさ。
私、「ガッチャマン」ってアニメ文化に与えた影響がめちゃくちゃデカいと思ってるのよ。
ひとつは、そのキャラの立て方。

「科学忍者隊ガッチャマン」(1972年)

1号「大鷲のケン」⇒堅物
2号「コンドルのジョー」⇒DQN
3号「白鳥のジュン」⇒オンナノコ
4号「燕のジンペイ」⇒チビ
5号「みみずくの竜」⇒デブ

5人のキャラ設定が各々めっちゃ分かりやすく、でもって立て方のセンスが実にいい。
いわゆる戦隊ヒーローものの基本だね。
タツノコプロ自体は90年代以降衰退を辿っていくんだが、ここから分岐したProduction I.G,がその戦隊ヒーローの系譜を継ぎ、現在の「攻殻機動隊」や「PSYCHO-PASS」あたりにその片鱗が見えるでしょ?

さて、今回取り上げてみたいのは、この「ガッチャマン」なんだ。
1972年制作の本編は全105話とさすがに長いので、今改めて見るなら劇場版(1978年)がいいと思う。
監督は鳥海永行(押井守の師匠)。
この作品は何より、悪役・ベルクカッツェのキャラが立ってるんだよな~。

ベルクカッツェ

カッツェは両性具有のミュータントで、一応「首領」という肩書なんだけど実は上司に「総裁X」がいるという中間管理職の立場。
総裁Xが毎回モニター越しで指令を出してくるというスタイルは、タツノコプロが後に作る「ヤッターマン」などタイムボカンシリーズにも継承されている。

ドロンジョの原型は、やはりベルクカッツェだろう

タツノコプロはこの「ガッチャマン」をとても大事な財産と捉えてるようで、何度もリメイクしている。
中でも私が特にお気に入りなのが、2013年制作の「ガッチャマンクラウズ」である。

「ガッチャマンクラウズ」(2013年)

ちょっとオシャレ系の作風になってて、「これのどこがガッチャマン?」とツッコまれてたけど、個人的にはめっちゃ面白かったよ。
なんせ主人公が女子高生で、しかも彼女は語尾に必ず「~っす!」をつけるタイプの元気系ボクっ娘なんだわ(どうも百合資質あるっぽい)。
こういう色気の欠けたキャラ、普通は主役に据えられないよね?
だけどこれ、ある意味「主人公最強系」ともいえる作品であり、この主人公はじめちゃんって「いまどきのヒーロー像」を体現したキャラ設定なんだと思うよ。
元祖「大鷲のケン」のクソ真面目さとは真逆のキャラ設定。
あぁ、時代は変わったんだな~と痛感します。
で、悪役のベルクカッツェは、ここでも健在。

ベルクカッツェ

これは元祖の両性具有コンセプトを継承して、「頭おかしいオカマ」というキャラ設定。
あの宮野真守が頭おかしい役をやるんだから、そのブッ壊れ方は大体想像がつくでしょ(笑)。

この作品の監督は、「モノノ怪」等で知られる中村健治
ちょっと変わった作風の人である。

私、この人の前衛性、結構好きなんですけど。
この中村さん、Wikipediaにはこう書かれてるのよ。

細田守の知的でロジカルなアニメの作り方や編集でどんどん切って無駄を徹底的に排する引き算の演出と、さとうけいいちの感覚的でアイデアが降りてきたらどんどん取り入れていく足し算の演出の両方の影響を受けている

細田守+さとうけいいち=中村健治?


そういや、さとうけいいち監督も「ガッチャマン」のリメイクやってたんだよな。
それが「鴉karasu」(2005年)というやつさ。

当時この作品のスタッフに中村さんも入ってたらしく、「あのガッチャマンをここまで大胆にアレンジしていいんだ?」と彼はここで学んだんだろうね。
で、彼もまた「クラウズ」で思いっきり大胆なアレンジを入れている。
さとう監督が「伝奇系ガッチャマン」だったのに対し、中村監督の切り口は「サイバーパンク系ガッチャマン」。
多分、彼は悪役の設定として

ベルクカッツェ=ネット社会の悪意のメタファー

としたわけよ。
ネット社会の悪意、人間の精神の陰の部分、いわゆる「荒らし」というやつだね。
このカッツェは、特技が「他人のなりすまし」と「燃料投下」。
そして趣味が、「炎上を眺めること」。
ただ、それだけの悪役である。
元祖カッツェの「世界征服」みたいな高尚な志しがあるわけでもなく、ただ楽しいから荒らしをやってるという、本質は小学生レベルのイタズラっ子にすぎないんだ。
彼はネットを駆使して「破壊」を煽り、一部それに煽られた人たちがテロを起こしたものの、結局「破壊」より楽しいことを見つけた大多数の人たちは最終的に誰もカッツェの燃料投下に反応しなくなった、というオチ。
カッツェ自身には実体がないから(人に見えない存在)、皆に無視されたらもうそのアイデンティティってゼロなんだよね。
「なりすまし」でしか手を汚すことはできない存在、素の自分では特に何もできない存在。
あぁ、いかにも現代社会を象徴する哀れな悪役だな・・という感じがしたわ。

最終回、カッツェは主人公・はじめと融合するというオチだった
はじめはカッツェを否定せず、敢えて共存という選択をしたわけね。
しかし融合前と融合後のはじめを見ても、特に大きな変化が見受けられない。
そこが彼女のスーパーなところだろう。
これまでの「ガッチャマン」は悪に対して暴力で対抗し、排除を目標としてきたけど、そうではなく融合・共存を最終決着としたところに特別なものを感じたわ。
あぁ、そうか。
だから、はじめちゃんってボクっ娘設定だったんだね。
元々この作品はジェンダーが曖昧なキャラがやたらと多いんだが(他にも累、OD、カッツェetc)、はじめちゃんについては「全方位で受け入れOKのキャラ」として、むしろボクっ娘である必然性があったわけさ。
ヒーローものとして、一種の到達点だね。
単純な勧善懲悪とせず、敢えて悪を滅さない。

なぜって、悪を否定することは自分を否定することであり、人間を否定すること、世界を否定することでもあるんだから。

否定をするのではなく、アップデートしましょうよ、と
はい、元祖から数十年経て、遂に「ガッチャマン」はここまで哲学的な作品になりましたよ。
アップデートされとるなぁ・・。


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