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「鴉karas」「正解するカド」、老舗アニメ制作会社が示した底力

日本で最も古いアニメ制作会社は、東映アニメーション(旧東映動画)だといわれている。
続いてトムスエンタテインメント(旧東京ムービー)、タツノコプロ、今はもうないけど虫プロというのもあった。
このへんに興味ある方は、こちらをどうぞ↓↓

で、今は「好きなアニメ会社は?」とアニメファンに聞くと「WITSTUDIO」とか「ufotable」とか「MAPPA」あたりの新興会社を挙げる人が多く、大体の人が老舗を無視してるんだよね。
いやいや、あまり老舗をナメるなって。
老舗だからって古いことばかりやってるわけでもなく、ちゃんと新しいこともしてるんだよ。
たとえば、トムスエンタテインメントは2021年、自社の古くからの看板を3DCGにして「ルパン三世THE FIRST」を作るという新チャレンジをしている。
「ルパン」を3DCGで?それあかんやろ、と最初は思ったが、見たらこれがピクサー映画っぽいテイストで意外と悪くない。
国内というよりも、国際仕様の新機軸になりそうな予感。

「ルパン三世THE FIRST」山崎貴監督作品
3DCGにすると、なぜか次元が異様にカッコよかった

そして東映アニメーション、タツノコプロ。
この2社もまた、新しい映像のチャレンジをしている。
というわけで、今回ご紹介したいアニメは
・タツノコプロ「鴉karas」
・東映アニメーション「正解するカド」
のふたつである。

<鴉-karas->タツノコプロ

トムスエンタテインメントにとっての「ルパン」のようなものが、タツノコプロでは「ガッチャマン」なんだと思う。
もともと「ガッチャマン」は70年代に大ヒットした戦隊ヒーローなんだが、2013年には中村健治監督の「ガッチャマンクラウズ」で斬新な形のリメイクをしたり、さらに2017年には「infini-T Force」でアベンジャーズっぽい企画でのリメイクをしたり、とにかく色々やっている。
「鴉karas」はそれらに先駆けて2005年に出したタツノコプロ40周年記念のOVAで、監督は「TIGER&BUNNY」や「いぬやしき」のさとうけいいち氏。
これは、東京アニメアワードでOVA部門優秀作品賞を受賞している。
とにかく、映像がめちゃくちゃ凄いのよ!
約20年前にここまでのものを作れたのかと、正直驚くよ。

鴉の原型は「ガッチャマン」に違いないだろうに、この作品では和風・伝奇風にアレンジされている。
街の精霊と契約することで鴉という守護者となり、街に出没する妖怪と闘うという「ガッチャマン」とかけ離れた設定。
精霊、すなわち街の土着の神様みたいなもんだね。
その神様がこれぞという人間と契約し、古来よりタチの悪い妖怪から街を守ってくれてるらしい。
しかし、その妖怪というのも「やおよろずの神」の一種といえて、強いんだよなぁ。
妖怪vs鴉の攻防は、まさに「呪術廻戦」そのまんまである。
めっちゃカッコいいのよ。

触手が出てきて、菊地秀行の「妖獣都市」を彷彿とさせる世界観。
都庁がぶっ壊されるほど新宿は壊滅し、まさに「呪術廻戦」の劇場版・百鬼夜行さながらである。

敵は、こういう気持ち悪いやつばかり

淫靡なダークファンタジーが好きな人はハマると思うので、是非見てみて。
老舗・タツノコプロの底力を思い知らされると思うよ。

<正解するカド>東映アニメーション

これは東映アニメーション初の「セル調フルCGアニメ」である。
プロデューサーいわく、「10年先に見ても面白い作品」を目指したという。
VFX-JAPANアワードTVアニメCG部門優秀賞受賞。
物語的には、アーサーCクラークの名作「幼年期の終わり」に近いのかな。
最近でいうなら、庵野秀明の「シンウルトラマン」に近いともいえる。
ある日突然、異方(我々がいる世界より高次元の空間)からヤハクィザシュニナと名乗る人物がやってきて、日本政府とコンタクトをとっていくという物語。
この「異方」というのは、我々いうところの「異世界」とも少し違う。
この世界よりも、遥かに次元が上の空間らしい。
いってみれば、3次元の我々が2次元の世界に潜り込んだ感じ?
いや、ヤハクイザシュ二ナの世界と我々の世界とでは、そんな甘っちょろい次元の開きではないようだ。
まぁそれは置いとくとして、結局彼は何をしに地球に来たのか?
肝心のそこが謎のまま、ヤハクイザシュ二ナは異方の超テクノロジーを次々と地球人類に分け与えていく。
たとえば、エネルギーを無尽蔵に供給できる装置とか。
この装置の分配を巡り、国連が荒れたりする流れはなかなか面白い。

そのエネルギー装置

この物語の主人公は、日本政府の官僚で官庁きっての交渉の達人とされる男である。
その彼がヤハクイザシュ二ナとの交渉に臨み、交渉を通じて少しずつ理解を深めていく流れ。
ああ、このままいい話で終わるのかな?と思いきや、ラスト3話ぐらいで急に暗雲が立ち込める展開に・・。
どうやら、我々がいる宇宙というのはヤハクイザシュ二ナの世界が創造したものらしく、いうなれはザシュ二ナは神とでもいうべき創造主だったんだね?
よく分からんが、彼らにとって宇宙創造は農業のようなものらしく、「特異点」の育成⇒収穫を目的としてるものらしい。
じゃ、その「特異点」というのが一体何なのかというと、どうやら我々人類のことを指してるようだ。
ザシュ二ナいわく、彼らの世界は情報思念統合体のような環境で、常に情報が枯渇しており、それを補完するのにどうしても「特異点」が必要だという。
ようするにそれって、人類はそっちの世界の「資源」のようなものになるってこと?
だとすりゃザシュ二ナの来訪は、まさに人類にとってのハルマゲドンじゃないか!

最初はいい人に見えて、実は恐いこと考えてる人だったヤハクイザシュ二ナ
こういう展開、「幼年期の終わり」や「シンウルトラマン」と全く同じだね

ただ、この地球には同じく異方から来て秘密裏に潜伏してたという「管理者」が実はいたわけで、その人が物語の終盤ではカギを握る存在となる。
この「管理者」、地球上での仮の親がいるんだけど、幼少の頃からその親の愛情をたっぷり貰って育てられた子で、ヤハクイザシュ二ナと違い、とても人間的なんだよね。
そのお父さんが伝統工芸の彫り職人ってのが、またいいんだわ。
異方の超テクノロジーとは対極に位置する、とてもアナログで非効率な技術の職人。
こんな親の仕事を見て育ったからこそ、「合理的・効率的であることばかりが正解じゃない」と認識したのかもしれない。
だから、この作品のタイトルにもなってる「正解」とは何か?という点だが、ヤハクイザシュ二ナが正解だと思って行動してたことが、実は必ずしも正解じゃないことが最終回に示されるのね。
めっちゃ奇抜な形で。
あのオチは正直どうかと思うけど、ホントの正解が分かるのはまだこれから先の話である、というオチの物語だったと解釈すればいいさ。

なんか、異方の人は地球に来てBLに目覚めたっぽい・・

興味深いことに、タツノコプロ「鴉karas」、東映アニメーション「正解するカド」、どちらも描いたのは「神様」なんだよね。
「鴉karas」の場合は日本古来の「やおよろずの神」で、「正解するカド」の方はキリスト教(ユダヤ教・イスラム教)的な創造主としての神。
どっちも、めっちゃ最新のCGを使って神様を描いてるのよ。
かたや伝奇系ダークファンタジー、かたやアーサーCクラーク系本格SF。
テイストは各々違うけど、狙ってるところは結構似てたかな、と。
どっちも老舗ゆえ、どうしても子供向けアニメのイメージが強いところなんだが、こうやって「我々もオトナ向けアニメを作れるんだぞ」と意地を見せてくれたのは何だか嬉しい。
両社とも、めっちゃCGのハメ込み方がうまいのにも感心した。

「正解するカド」で表現された異方のテクノロジー
「鴉karas」バトルシーンが綺麗!

あと、付け加えるなら両作品ともヒロインがめっちゃ可愛い。

「鴉karas」のヒロイン
「正解するカド」のヒロイン

とにかく、老舗もまた新しいチャレンジを積極的にしてるってことで、こういうところは見逃さないでほしい。
特にこの両作品はお薦めなんで、是非見て下さい。


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