アニメにおける良い悪役・悪い悪役
今回は、アニメの悪役について考えてみたい。
まず悪役というのは、そのアニメの対象年齢で設定が大きく異なってくると思う。
たとえば小学校低学年以下の層が対象なら、シンボリックで分かりやすい悪のビジュアルを基本にしつつ、でも子供がトラウマにならないよう配慮する必要もあり、そう考えるとバイキンマンなんて実によくできたキャラだよね。
こういうのは多少痛めつけても、笑って済ませられる感じのヌルい悪役。
牧歌的で、こういう悪役はほっこりするよ。
だけど小学生も高学年になれば、さすがにそういうヌルいのは受け付けなくなる。
なんせ、少年ジャンプとか読み始めるから。
思えば、いまどきの子供は価値観形成の最も重要なタイミングに、いきなり「呪術廻戦」とか「鬼滅の刃」とかを見てるんだろ?
悪とのファーストコンタクトが、いきなりそんなハードル高いやつで大丈夫なのか?と少し心配になったりして。
まだ、鳥山先生の「ドラゴンボール」の時代はマシだったというか、もとは悪役だったピッコロやベジータが悟空と共闘する流れもあり、そういうのはホント救いになるよね。
でも、「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」はそういうのが基本無理でしょ?
どう考えても、鬼や呪霊が改心するとは思えんわけで。
そんなの、肉食獣に「殺しちゃダメ。草を食べればいいじゃない?」と言うようなもんである。
多分、こういう悪役を見て育つ子供たちは、「話しても絶対分かり合えない相手というのは確かにいる」という、世界の摂理をここで学ぶんだろう。
こういう子たちって、凄く達観したオトナに育ちそう・・。
ただし標準的には、アニメの年齢区分は以下の通りじゃないだろうか。
【幼稚園児】
アンパンマン
【小学校低学年】
ドラえもん、ポケモン、プリキュア
【小学校高学年】
ワンピース、名探偵コナン、ガンダムビルドシリーズ
【中学生以上】
鬼滅の刃、呪術廻戦、ガンダムシリーズ
基準は、大体こんなもんだろう。
もちろん、実際は小学校低学年から「鬼滅」見てる子もたくさんいるだろうけど。
あと、いまどきの異世界転生アニメが、どの年齢層に受け入れられてるのかはよく分からん。
物語の構造が分かりやすいから、意外と低年齢層に人気かも?
個人的には、アニメ史におけるエポックメイキング的な悪役といえば、まずシャア・アズナブルだと思っている。
厳密にいうと彼は「悪役」でなく、単に主人公サイドから見て敵陣営というだけで、本質的には善悪でカテゴライズできるようなキャラではない。
というか、「ガンダム」におけるジオン軍そのものが善悪で語れるものではなく、あれは英vs米の独立戦争みたいなもんで、「一年戦争」ってジオン公国にとっては既存の中央集権体制からの脱却を目指すという、極めて政治的なものだったはず。
途中からコジれて、地球にコロニー落としをするから話がややこしくなったんだけど。
しかし、子供向けのアニメで勧善懲悪じゃない、複雑な構造のストーリーをメジャー化したという意味で「ガンダム」は偉大なんですよ。
それまでの悪役は、「世界征服」とかいうフワっとした野望ひとつで破壊の限りを尽くしてたんだけど、そもそも「世界征服」って何?
イメージ的には、世界統一政府を作って、そこの大統領的ポジションに就く感じ?
ヒトラーが公約していた、アーリア人の千年王国みたいな。
ようするに、スケールの大きな政治家志望だね。
しかし政治家志望という割には、アニメではそういう悪役からちゃんとしたマニフェストを一度も聞いたことがない。
自分たちが破壊した後の復興計画はどう考えてるの?
インフラは?
税制は?
というか、作家もきちんとそこを設定してないんだろう。
「ガンダム」以前のアニメは、特にそうだ。
だからこそ、70年代まで「アニメは子供が見るもの」と見下されたんだよ。
いや、まだ「世界征服」はマシな方だと思う。
ヒトラー、チンギスハーン、織田信長、そういったものの延長線上にあると思えば、まだ分からんでもない。
それよりもっと分からんのは、破壊が手段ではなく目的そのものである、というパターンの悪役さ。
これこそ、ワケ分からんでしょ?
先住民を皆殺しにして、その土地を自分の領土にするというならまだしも、ただブッ壊して終了、という悪役もいるんだわ。
そういうのが、「幻魔大戦」(1983年)ね。
この映画、りんたろう監督の演出は見事だし、大友克洋のキャラデザインはカッコいいし、なかむらたかし・金田伊功両氏の作画テクは冴えまくってるし、色々な意味でサイコーの作品なんだが、唯一マイナスなのが物語の意味がワケ分からんということ。
ここでの悪役は「幻魔」という概念っぽい敵で、とにかく「幻魔」の目的は純粋に破壊、それだけ。
別に自らの繁栄を求めるでもなく、全てを無に帰す(最後は自分も滅ぶのが前提?)ことだけに邁進している。
おそらくSF的に解釈すると、これは宇宙における【物質⇔反物質】の投影だと思う。
我々がいるのが物質宇宙だとして、それを打ち消す反物質というものは確かに物理学上で実在するわけで。
仮に物質が「創造」だとするなら、反物質は「破壊」。
「幻魔大戦」は、既存の物質宇宙を反物質が浸食していくという未来宇宙のシミュレーション、と解釈すべきだったんだろうか?
そもそも物質に対して、なぜ対になる反物質が存在しなきゃならないのかは私も物理に疎いからよく分からんのだが、こういう陰陽は世界の摂理なんだろうねぇ・・。
それにしても、いまどきの悪役は昔に比べてカッコよくなったと思わない?
凶悪であってもセクシーというか、敢えて人気声優さんを悪役にあてることも数多くある。
じゃ、ちょっと新旧の悪役を比較してみよう。
うん、日本アニメの悪役は着実にスタイリッシュなものとなっている。
櫻井孝宏の悪役とか、もう反則だよな。
時には主役よりカッコよく思えてしまって、こういうのを見て育った子供の将来が心配である。
こういうのは、逆によくない。
ここ数年におけるアニメにおいて、敢えて理想的な悪役を挙げるとするなら私はペテルギウス・ロマネコンティが頭ひとつ抜けてると思う。
うん、一挙手一投足、全てがキモチ悪い(笑)。
これは逆に情操教育として正しいというか、これを見てる子供たちが生理的にペテルギウスへの嫌悪感を植え付けられるので、むしろ理想的なんですよ。
「やはり人間、堕ちてはいかん」という最良のテキストである。
まさか「ソードアートオンライン」のキリトがここまでハジけた演技をするとは想像もしてなかったわけで、松岡禎丞にとっては会心のハマリ役だったよね。
これを超えるのは、最近見てないな~。
とにかく、ペテルギウスというキャラを輩出したというだけでも、十分に「Re:ゼロ」は意義深い異世界ファンタジーだったと思うよ。
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