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あまり難しく考えすぎない、「君たちはどう生きるか」の解釈

今回は、宮崎駿監督の最新作「君たちはどう生きるか」について書きたいと思う。
これは間違いなく、宮崎駿史上最も難しい作品だよね。
ちょっと変わった作品ともいえる。

鈴木敏夫プロデューサーは、以前にこう言っていた。

宮さんは、実はただひとりの観客を意識して映画を作っている。
宮崎駿が一番作品を見せたいのは、高畑勲

その高畑さんが、2018年に逝去。
つまり「君たちはどう生きるか」は、宮崎駿がジブリ史上、初めて高畑さんのことを意識せずに作った作品なんだ。

高畑勲を意識しない=論理的整合性からの解放


よって、この作品が今までの作風と少し違うのは当然のことである。
論理的整合性の縛りから自由になった巨匠は、今回の作品、めちゃくちゃにはっちゃけてるよな~。
お陰でゴッタ煮のような作風となり、そのせいで分かりにくい構造になっている。
これはこれで、私はありだと思うけど。

「君たちはどう生きるか」(2023年) 

とにかく、本作はかなり難解な作風ゆえ、見た人たちが色々と面白い考察をしてくれてるよね。
様々な考察がある中、特に多いのは、

・主人公=宮崎駿
・塔=ジブリ
・青サギ=手塚治虫
・大叔父=今の老いた宮崎駿

というメタファー。
でもって、これはジブリの後継者問題を描いたものだ、とかね(笑)。
まぁ、確かにそういうニュアンスがあるのも否定はしないけど、そういうのはこの作品のオプションであり、本当の主題はまた別でしょ?
そんなことを伝える為に、老体に鞭打って映画を作ったとは思えん。
でなきゃ、そもそも「君たちはどう生きるか」という仰々しいタイトルなど付けないって。
だからあまり裏読みしすぎずに、メッセージをもっとシンプルに捉えた方が私はいいと思うんだけどなぁ・・。

じゃ、私なりの考察を書かせてもらうね。

まず最初に「塔」、および「下の世界」とは一体何なのか?について。
そもそも、これが作られてから壊れるまでの時系列は、

<はじまり>幕末、隕石が飛来
<おわり>太平洋戦争末期、「塔」が崩壊

というのが一連の流れである。
この時系列をシンプルに解釈すると、

「塔」「下の世界」=近代日本(大日本帝国)


という分かりやすいメタファーになる。
実際、上の世界(現実世界)と下の世界(異世界)はちゃんとシンクロしていて、食糧難、ファシズム化、格差社会など全く同じ構造といっていいんだから。

宮崎駿がこういう異世界を描くのは、これが初めてというわけでもない。
たとえば、「千と千尋の神隠し」もそうだったよね。
あの作品では湯婆婆という支配者がいて、彼女が誰かと「契約」して湯屋の経営をしてたんだけど、これと同じ役回りをしてるのが今回は「大叔父」である。
大叔父もまた石(?)と「契約」し、下の世界の支配者となっている。
彼は支配者として「世界のバランス」を保ってるという。

ワラワラ

ひとつ、この世界で特筆すべきは「ワラワラ」という存在。
めっちゃ、かわいい・・。
このワラワラ、いずれは上の世界に行って、新たな人間として転生する役割らしい。
ということは、上の世界⇔下の世界で輪廻の循環があるという意味だろう。
まぁ、それはそれでいいとして、問題はこのワラワラをペリカンが捕食してしまうということ。
このペリカンを下の世界に召喚したのは大叔父であり、なぜ大叔父は敢えてワラワラの数を間引くような措置をとるんだろう?
そこが、よく分からん。
上の世界の人口を調節してるのか?
その一方で、大叔父はヒロイン・ヒミにペリカンの一部排除もさせており、弱肉強食の生態系ピラミッド構造になってるんだよね。
それでいて、なぜかインコだけ生態系上の天敵がおらず(まさに人間の立ち位置)過剰に増殖し、彼らは「この世界をインコだけのものにする」として傍若無人になっている。

インコの王

ただ、それを観測するだけの大叔父。
あるいはこれって、一種の実験みたいなもの?
おそらく大叔父は、上の世界に絶望したから下の世界に引き籠ったわけでしょ?
上の世界での彼は華族で、明治維新以降の日本を見て先行きがもう暗いことを予感してたと思うんだ。
だから下の世界に理想郷を構築したかったというのに、疑似人類のインコが上の世界の日本人と同じく、調子こいて帝国主義の拡張路線に走り始めたという皮肉・・。
そして、太平洋戦争の流れとシンクロするようにして、愚かなインコ自らの手により、塔は遂に全崩壊。
ある意味、大叔父は作中で最も憐れむべき人物である。

大叔父

あと、この作品見て「なぜ鳥ばっかり出てくんの?」と不思議に思った人も多いだろう。
私の解釈としては

①「もののけ姫」で山の獣
②「ポニョ」で海の魚

とくれば、陸・海・空の順でいうと

③「君たちはどう生きるか」で空を飛ぶ鳥

にする必要があったんだと思うのよ。
おそらく人間嫌いの大叔父は人より鳥の方が好きなので、敢えて下の世界を鳥中心にしたという設定だろうけど。
ただ、彼も元はただの人間、真のボスは「石」である。

謎の「石」

「石」が何なのかを分かりやすく捉えるなら、「ポニョ」に当てはめて

・石=ポニョの母
・大叔父=ポニョの父

と解釈すればいいさ。
ポニョの母も「石」も、やってることは生態系のコントロールという意味でほぼ同じ。
ただ、ポニョの母が対話可能な形態だったのに対して、「石」は対話不可能ってのがミソよね。
絶対的存在でありつつも、モノ言わぬ存在。
冒頭で私は
「塔」=近代日本(大日本帝国)のメタファー
と書いたが、ならば今回は

「石」=天皇陛下のメタファー


ということになるんだと思うよ。
天皇は「君臨すれど統治せず」が原則で、いわば「石」みたいなもんである。
モノ言わぬ存在であれば、その意思の解釈は人それぞれ。
主人公の真人は
石に悪意がある
と言い、それに対して大叔父は
だから今度は悪意のない石を用意した
と言い、やはり「石」を真人に託そうとする。
それでも、拒否する真人。

この一連の流れに、私は「左翼・宮崎駿健在」を思わず感じてしまった。
「石」の力(天皇)に頼る世界より、苦労はあるだろうが人間が主体の世界の方がいいです、と。
私が解釈する「君たちはどう生きるか」とは、結局そういうお話なんですよ。

まぁ、今回私が書いたのはあくまでオモテの意味のメタファーであり、当然裏には別のメタファーも潜ませてあると思う。
前作「風立ちぬ」がそうだったが、やはり今回もまた自分語り要素がかなり強いもんね。
でも、仮にこれが自分語りなんだとして、主人公が自傷行為に走るシーンは胸が痛かったわ・・。
巨匠の少年時代は、そんなにも心に闇を抱えてたのか?
確かに、彼については私が知ってるだけでも

・本人は戦争を嫌いつつも、実家は軍需で儲けてきた会社
・やがて左翼思想を持ちつつも、これまでずっとブルジョア育ち
・最終学歴は、皇室も通う学習院大学を卒業
・反戦思想を持ちつつも、一方で実は戦闘機などミリタリー大好き

という二律背反の矛盾を抱えてる人である。
「風立ちぬ」「君たちはどう生きるか」は、そんな彼なりに恥部をさらした独白だったんだろう。
太宰の「人間失格」みたいなもんさ。
とはいえ、今回最後に「完」をつけなかったのを見るに、あともうひとつは映画を作るつもりなんじゃないか?
「風立ちぬ」⇒「君たちはどう生きるか」ときて、最後に何かメッセージを締めくくる作品ありきの「戦争3部作」シリーズであるような気がするんだよねぇ・・。

思えば、「風立ちぬ」も「君たちはどう生きるか」も太平洋戦争の頃の物語だというのに、全く「戦争」そのものを描いてない。
敢えて、避けている。
それも左翼ゆえの配慮というものだろう。
だけど最後の最後で、遂に禁断の扉を開けるんじゃないかなぁ?
巨匠も本音は零戦の空戦を描きたくってしようがないはずだし、もう最後は解禁するんじゃないだろうか。
最新作のはっちゃけっぷりを見る限り、その可能性は十分にあると思うぞ。


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