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ルパン三世の声が諸星あたるの声だった時期を知ってますか?

今回は、「ルパン三世」について書いてみたい。
「ルパン」といえば、日テレ+トムスエンタテインメント(東京ムービー)の昔からの看板である。
しかし今となっては、日テレ+トムスの看板は完全に「名探偵コナン」へと移ってしまった。
「怪盗」から「名探偵」へ・・。
いまや、劇場版「コナン」はドル箱中のドル箱である。
最新作の「100万ドルの五綾星」は興行収入140億円を突破し、シリーズ歴代最高記録を更新したという。
ここまでの成功事例を作れたのは、率直にいって私は「ルパン」のお陰だと思っている。
というのも、日テレ+トムスは「ルパン」で数々の失敗を経験し、その失敗を糧にして成功ノウハウを学んでいったといえるんだから・・。

これまで「ルパン三世」は、

・テレビシリーズを6期
・劇場版を11本
・TV2時間スペシャルを27本
・OVAを7本
・WEB配信用アニメを2本

を制作してきたとされている。
惜しいな、という思うのが劇場版の扱いだ。
せっかくこれほど知名度高いコンテンツだというのに、興行的にはほとんど成功していない。
あの有名な「カリオストロの城」ですら、興行収入は僅か6億。
酷いもんである。
同じ老舗ブランドでも、「ドラえもん」「ドラゴンボール」「ワンピース」あたりとは比較にもならない。
結局、この差は何かというと、私はプロデューサーの拙さだと思う。
昔から「ルパン」はその方針を右往左往させるばかりで、結局何も定められないまま、コンテンツとしてのうまみを消費しつくしてしまった、といっていい・・。
もったいない。
本当にもったいない。
ただアニメファン視点でいうと、この試行錯誤っぷりが逆においしいというか、色々なクリエイターの色が楽しめるアミューズメントパークとして享受することができる。
今回は、そういう楽しみ方としての「おすすめルパン3選」をご紹介したいと思う。
・・あ、「カリオストロ」はあまりにも名作すぎるので、除外するね。

<おすすめルパン3選>

「ルパン」の原点を知る為、私は初期を押さえておく必要があると思う。

①劇場版1作目「ルパンvs複製人間」1978年(吉川惣司監督)
②劇場版3作目「バビロンの黄金伝説」1985年(鈴木清順監督)
③OVA1作目(劇場版4作目)「風魔一族の陰謀」1987年(大塚康生監修)

まず押さえておくべきなのは、この3つだ。
①がSF路線、②がアクションコメディ路線、③が伝奇路線、という感じで、これに加えて劇場版2作目「カリオストロの城」は正義のヒーロー路線だし、とにかく初期の「ルパン」は方針がまるで一貫していない。
これは、明らかに日テレ+トムスの失策である。
90年代になるとやがてトムスはセガに吸収され、それ以降は我々がよく知る「ルパン」に落ち着くんだが、でもそれで冒険心を欠くことになった、とも解釈できるんだわ。
私は、初期の手探り状態で迷走していた「ルパン」の荒唐無稽さが逆に好きでね。
皆さんにも、ぜひそこを楽しんでもらいたいと思う。

<ルパンvs複製人間(吉川惣司監督)>

これは記念すべき「ルパン」劇場版第1作なので、見たことがある人は多いはず。
有名な悪役キャラ・マモーが出てくるやつだね。
マモーは、ウッチャンナンチャンの内村光良が有名にしたと思う。

マモー&ミモー
ホンモノは、これね

ルパンはこれまで数々の敵と戦ってきたが、正真正銘最強だったのはマモーである。
ぶっちゃけ、カリオストロ伯爵なんて目じゃないですよ。
だってマモーは、この地球上で1万年以上生きてきた人なんだから。
彼は先史文明を生きた人で、そこでクローン技術を開発して自分の複製体を大量に作り、永遠にも近い長寿を実現したという。
ちなみに監督の吉川惣司は「装甲騎兵ボトムズ」の脚本家で、実をいうと、この「ルパンvs複製人間」のアイデアの延長線上に「ボトムズ」があるという。

リアルロボット系アニメの名作「ボトムズ」

言われてみれば、確かに似たような話だね。
そう、これは「ルパン」シリーズの中で最もSF色が強い作品なんだよ。

<バビロンの黄金伝説(鈴木清順監督)>

なぜか「バビロンの黄金伝説」は、「ツィゴイネルワイゼン」等で知られる鈴木清順が監督を務めている。
元々この人は海外にもファンが多いカルト系監督なんだが、何かと問題作を作るもんだから映画会社をクビになり、その浪人時代に「ルパン」と携わることになったんだね。
その作家性は前衛的で、それはこの作品にも出ていて、とにかく終始ハチャメチャである。
そのくせ、アングルはやたらいいんだよなぁ。

あと、鈴木清順といえばハードボイルドの名作「殺しの烙印」がお薦め

やはり映画監督というのは「どこにカメラを設置するか」と「どの角度から撮るか」がキモであり、そこにこそ美学が出る。
特に、80年代アニメにはまだデジタル技術がないからこそ構図こそが全てであり、そのアングルの良さは、いまどきのアニメを遥かに凌いでるといっていい。
この作品も、ぜひ構図をポイントに見てほしい。
あと、鈴木清順監督はこの作品の前年、TV第3期の第13話「悪のり変装曲」の脚本を書いていて、これがもう前衛的すぎて「??」となるのよ(笑)。
「バビロンの黄金伝説」は「悪のり変装曲」よりマシだけど、やはり前衛的で、宮崎駿が前作「カリオストロ」で作った「ヒーローのルパン」を見事に破壊してくれたね。
本来、この劇場版3作目は押井守がやる予定だったんだが、それがあまりにも酷い企画内容だったので急遽それを中止して、なかば無理やり鈴木監督を引っ張ってきた経緯である。
それもあるので、本作が多少ぶっ飛んだ内容でも、プロデューサー的には「押井版よりはマシ」という思いでOKしたんだと思う。

<風魔一族の陰謀(大塚康生監修)>

この作品には、監督が存在しない。
制作側はTVシリーズ制作の中核だった大塚康生氏にオファーしたんだけど、大塚さんは「自分みたいな年寄りが・・」と固辞し、結局は監修という名目で実質的な監督っぽいことをしてくれたという。
大塚さんといえば、そう、あの宮崎駿の師匠筋である。
彼は「カリオストロ」作画監督もやっており、だから上の画を見てお分かりのように、「カリオストロ」っぽいでしょ?
タイトルの「風魔一族の陰謀」は、言うまでもなく映画「柳生一族の陰謀」のパロディだろう。

巨匠・深作欣二の名作として有名

しかし、この作品はめっちゃ評判悪いんだよね~。
いや、厳密にいうと内容はめっちゃ面白いんだ。
事実、原作者のモンキーパンチ先生は「最高傑作のひとつ」と評価している。
なのになぜ評判悪いかというと、それは「声優の総入れ替え」をしたからさ。
しかも、山田康雄氏をはじめとする声優さんには何のアポイントもとらず、秘密裏にことを進め、後に事態を知った山田さんは烈火のごとく大激怒。
正直、この遺恨はその後も結構引きずったらしい。
それにしても、何でまたこんな不誠実なことを制作側はしたのか?
そこは、いまだもって謎とされている。
新ルパン役をやったのは「うる星やつら」のあたる役、「パトレイバー」の遊馬役で知られる古川登志夫
古川さんのところには「ルパン」ファンから苦情の手紙が殺到し、トムスにもまたクレームが大量に殺到したらしい。
実際、古川さんも「何で俺のところにルパン役が?」と不審に思い、敢えて山田さんに尋ねたら、そこで初めて声優総入れ替えの件が発覚したんだね。
他の声優さんたちも、大塚康生さんでさえも知らなかったようだ。
聞けば、モンキーパンチ先生は「声優にきっちり了承をとること」を条件にプロデューサーにOKを出したらしいんだけど、なぜかこのプロデューサーは一切声優にアポをとってなかった。
この人物、一体何なの?
プロデューサーであること以前に、約束を守らないって社会人として失格だろうに・・。

故・山田康雄氏

結局、この作品はいまだTV放送をされておらず、おそらく見たことある人は少ないと思う。
まぁ確かに、この作品のルパンの違和感たるや、もうハンパないから・・。
古川さん、なぜかルパンっぽくアレンジせず、敢えて地声でやってるのよ。
仮にこれをTV放送でもしようもんなら、想像を絶する酷い惨状になっていたと思う。
ただ、内容は「獣兵衛忍風帖」っぽい伝奇のテイストで、なかなか面白いのよ。
石川五右ェ門メイン回である(この作品で五右ェ門は結婚してる・・)。
興味ある人は、ネットで「LUPIN FUMA CONSPIRACY」と検索してみてください。
無料動画が見られます。
個人的には、今の栗田貫一さんをはじめとする現ルパン声優陣で、この作品の吹き替えやり直しをすりゃいいんじゃないかな、と思う。
古川さんたちには申し訳ないが、事情が事情だけに理解してくれそうな気がするよ。
ちゃんと「違和感ないルパン」に仕立て直しさえすれば、この作品は陽の目を見て、必ず再評価されるものだと思うけど。
なんせ、宮崎駿がこの作品を見て、「ルパンをもう1本作りたい」と言ったらしいんだから・・。

「風魔一族の陰謀」のワンシーン

この作品の2年後、TVスペシャル第1弾「バイバイリバティー危機一髪」(1989年)で声優陣は全部モトに戻し、「風魔一族」は無かったことにして再スタートを切った。
この「バイバイリバティー」も出崎統監督作品で、なかなか面白いのよ。
89年というネットがまだ普及しきってない時代だというのに、ハッカーの手による世界滅亡の危機を描いたサイバーパンク系の野心作である。

やっぱ80年代のルパンが、一番自由でいいよな!

出崎統の演出が冴える、「バイバイリバティー危機一髪」(1989年)
小池健監督がハードボイルドに原点回帰「LUPIN THEⅢRD」シリーズ(2014年~)
山崎貴監督が3DCGで新機軸を見せた「ルパン三世THE FIRST」(2019年)


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