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押井守ファンなら、「ルパン三世」Part6第10話は必見である

今回は、2021年に制作された「ルパン三世」シリーズのPart6、その中の第10話「ダーウィンの鳥」を取り上げてみたいと思う。
これ、押井守の脚本回なんだ。
このPart6は「ルパン」アニメ化50周年記念企画だったらしくて、いつもよりも趣向を凝らしてたんだね。
ルパンの宿敵キャラとしてシャーロック・ホームズを出してきたり、メインヒロインをワトソンの娘という設定にしたり。
脚本は押井さんの他にも大物ミステリー作家・湊かなえを起用したりして、なかなか気合いが入ってるじゃないか。
ちなみに、押井さんは第4話と第10話を担当。
第4話の方は押井さんらしい密室の会話劇になっていて、普通に面白かった。
問題は、第10話の方だ。
これも押井さんらしいといえば確かにそうなんだが、しかしワケの分からん内容。
彼の作品がワケ分からんのは、今に始まった話ではない?
・・まあ、確かに。
ちなみにだが、押井さんにとっての「ルパン三世」とは彼の経歴に大きな傷を残した、一種の鬼門なんだよ。
大昔の話だけど。
じゃ、彼の過去の傷を知らない人の為に、まずは「幻の押井版ルパン三世」という話題から入っていこうか。

上の画像にあるように、実は80年代、「カリオストロの城」に続く劇場版「ルパン」を押井さんが監督するはずだったのね。
ちょうど、彼が「ビューティフルドリーマー」を作った後ぐらいのことだ。
本当は東宝が宮崎駿に3作目続投のオファーをしてたらしいんだが、巨匠はそれを断り、自分の代わりに押井さんを推薦したという。
これはあれだな、日本サッカー協会がベンゲルに代表監督のオファーしたら、「私は無理だが、私の代わりにトルシエという有望な若手がいるよ?」と切り返されたようなものである。
智将ベンゲルにそう言われたら、協会も「じゃトルシエで・・」と引き受けざるを得ない。
こういう経緯でアニメ界のトルシエこと、押井守の新「ルパン」監督就任が決まったのよ。
ところがこのトルシエ、想定以上にめっちゃエゴの強い監督だったんだ。
東宝のプロデューサーが彼の持ってきた脚本をチェックすると、
・実は、ルパン三世という怪盗など最初から存在してなかった。
・これまでは次元、五右衛門、不二子が分担で変装し、ルパンを演じていたらしい。
・これをもって、ルパン三世シリーズは完結。
という内容になっている。
当然、プロデューサーは「はぁ?」となった。
押井守いわく、「きっと宮崎さんは僕にルパン三世に引導を渡してほしいという意味で推薦したんだと思う」とのことで、本人はいたって大真面目である。
ちなみにだが、実は宮崎さんはそんなこと、ひと言も言ってなかったらしいぞ(笑)。
それでも「フラット3こそ最強のシステム!」と叫ぶトルシエに対して、今さら何をいっても通用しないだろう。
というわけで、プロデューサーはトルシエを解任したんだそうだ・・。

上の画は、押井版「ルパン」用に作っていた予告リーフレットらしい。
これ見て、「うおっ!」と思うでしょ?
ここには化石になった骨が描かれてるわけで、これは「ルパン三世」Part6の第10話「ダーウィンの鳥」にも出てきたやつじゃないか!

「ダーウィンの鳥」に出てきた化石

そうなんだ。
つまり「ダーウィンの鳥」って、あれから40年近くもの長い期間を経て、これは押井さんなりの「ルパン」へのリベンジだったわけよ。
さすがに、今さら「完結編」とまではいわなかったけどさ・・(笑)。

そして、あともうひとつ。
これは押井守ファンだけがご存じのことと思うが、化石といえば彼の過去作で「天使のたまご」というカルト作品があるんだよね。
これは、1985年に彼が制作したOVAである。
押井史上最も難解な作品とされており、見たことない人はとにかく一度見てくれ。
多分、「???」となるから(笑)。
ちなみにこれを作った頃の彼は、まず「ビューティフルドリーマー」で高橋留美子に激怒されて「うる星やつら」を降板。
さらに追い打ちで、「ルパン」の脚本を東宝プロデューサーにボツにされ、また降板。
正直、めっちゃ鬱だったと思うのよ。
その鬱状態で作ったとされるのが「天使のたまご」で、やっぱり悔しかったのか、ここでもまた化石をモチーフにしてるんだわ。

「天使のたまご」に出てきた化石

うん、まずは「天使のたまご」の内容を少し説明しておこうか。
大まかなストーリーは、以下の通り。

①謎の少女が、謎の卵をもって温めている。

②ある日、少女は謎の男性と会う。

③なぜか男性は、「ノアの方舟」から鳥を飛ばせて陸地を探したエピソードを語る。
鳥は帰ってこなかったと言い、その上で「鳥なんて最初からいなかったのかも」と言う。
すると、「鳥はいるよ」と言って少女は男性をある場所に連れていく。

④それが、上の画の化石だった。
少女はこれを天使の化石だと思っていて、自分が温めてる卵からもいずれは天使が生まれる、と考えてるのかも?

⑤男性は少女が寝付くの待ち、寝てるうちに卵を割った。
そして、その場を去った。

⑥翌朝、卵が割られてることに気付いた少女は狼狽し、男性を追いかけてる途中で崖から落下し、落ちた水中で大人になったっぽい自分と出会う。

⑦水中で、大人の自分と融合した少女。
そこから泡が出て、それが水面で大量の卵になった。

ね?
ストーリーがワケ分かんないでしょ?
最後に少女たちがいた場所の空撮映像になって、そこが単なる陸地でなく、「ノアの方舟」であることを匂わせて終幕なのよ。
ようするに、これは旧約聖書の「ノアの方舟」のパラレルワールド、
つまり鳥が帰ってこなかった世界線の物語なんだね。
それはそれでいいとして、結局のところ卵の中身は何だったの?
一応タイトルは「天使のたまご」になってるけど、天使にしちゃ化石がグロすぎるし。
他にも、不気味な映像がたくさん挿入されていた。

これ、「ベルセルク」の「触」の世界観じゃないか?

私として、この作品は非常にモヤモヤしたものを抱えたまま、未消化だったのよ。
だけど、あれから長い期間を経て、押井さんが「ルパン三世」Part6で再び謎の化石を描いた。
そして作中、化石を見た峰不二子にはっきりこう言わせたんだ。

不二子「・・ルシファー!」

そう、不二子は化石を見て、はっきりと「ルシファー」という名を口にしたのよ。
おそらく、これは「天使のたまご」のアンサーともいえるわけで、あの謎の卵の中身は天使じゃなくて、堕天使、すなわち悪魔・ルシファーだったことが今になってようやく解明されたんだ。
ああ、スッキリした(笑)。
つまり、「天使のたまご」は「放った鳥が帰ってこなかった」版のパラレルワールドゆえ、少なくともあの方舟の世界では神と悪魔が逆転してる構造と解釈した方がいいだろう。
これで、あの作中で町の住人たちが魚を憎むように攻撃してたことの意味が理解しやすくなった。

古来より「魚」は、キリスト教のシンボルである
町には、魚の亡霊のようなものが出没し、住人たちはそれを攻撃している

魚(キリスト教)を攻撃する世界。
つまり、この世界はアンチ神ってことだね。
じゃ、最後に卵が大量に出てきた事態って、逆にめっちゃ怖いかも?

さて、この化石についてだが、2012年に押井さんの弟子・神山健治が作った映画「009 RE:CYBORG」にも実は出てきてることを知ってるかい?

「009 RE:CYBORG」に出てきた天使の化石

というか、この「009 RE:CYBORG」、もともとは押井さんが監督する予定だったみたいだね。
ところがこのオッサン、またしてもやらかしたんだよ(笑)。
彼が出してきた企画は次の通り。
・サイボーグのうち、002、004、005、006、007、008の6名は既に死亡してる状態から物語は始まる。
・009は、自宅に引きこもってニートになってる。
・001は、犬になってる。
・ヒロインの002は、58歳のおばさんになってる。

で、案の定、押井さんの案は却下され、ほどなく彼は監督降板。
というか、このオッサンは「ルパン」降板の時から全く進歩しとらんやないかい(笑)。
で、師匠の尻を拭くようにして、弟子の神山さんが監督・脚本をやることになったという。

「終わらせなければ始まらない」って、また完結させる気だったの?

ただ、それでも作品に押井さんの匂いが染みついて残ってるんだよね。
そのひとつが「天使の化石」だったりするわけで、この映画は是非とも一度見ておいてほしい。
なんせラスボスが、創造主たる「神」だから(笑)。
私はこれを初めて見た時、正直「はぁ?」となったのよ。
だが、「ルパン」の「ダーウィンの鳥」を見て化石の正体がルシファーだと初めて把握し、その前提を踏まえて「009 RE:CYBORG」の内容もようやく腑に落ちた。
神=善、悪魔=悪という一元的な世界観では断じてない。
仮に天使の化石=ルシファーなら、なおさらのこと。
そうか、「天使のたまご」と「009 RE:CYBORG」と「ダーウィンの鳥」はいうなれば3部作なんだ。
私は、敢えて「天使のたまご」3部作と名付けようと思う。
これから見る人は、この3つをワンセットで見てくれ。
あ、見る順番を間違えないでよ。

①「天使のたまご」(1985年)OVA
②「009 RE:CYBORG」(2012年)劇場版
③「ルパン三世」Part6第10話「ダーウィンの鳥」テレビアニメ

①で天使の化石の存在を知り、②で人類はその所業に悩まされ、③でそれの本当の正体を知る、というのが正しい流れだ。
凄いな、ひとつのサーガになってるじゃん。

「天使のたまご」サーガ、今後も続くのかどうかは知らんが、マニアックな人にだけオススメです。

「天使のたまご」
「天使のたまご」
いい齢して、ホント懲りない押井守、大好き


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