考察系アニメの元祖「銀河鉄道999」
今回は、「銀河鉄道999」について書いてみたい。
といっても、これにはテレビアニメ版や劇場映画版やWEBアニメ版など色々あり、どこから手をつけていいのか分からん人が多いと思う。
率直に言おう。
とりあえず、劇場版の2作品だけ見とけばいい。
そこで気に入ればテレビアニメ版を見ればいいし、私は特に見なくてもいいと思うけどね。
だって全113話で、めっちゃ長いから。
この劇場版は、よくありがちなテレビアニメの編集版ではなく、監督は新たにりんたろう氏を迎え、作画も脚本も全部イチからやり直したという渾身の作品である。
結果、この映画は空前の大ヒットをした。
私は正直、70~80年代のアニメってあまり好きじゃないのよ。
作画が酷いから。
だけど、「名作」と称されるものはやはり例外で、この時代のものでも良いものはあるんだ。
【70~80年代の名作10選】
・りんたろうの「銀河鉄道999」(1979年)
・宮崎駿の「カリオストロの城」(1979年)
・出崎統の「あしたのジョー2」(1981年)
・宮崎駿の「風の谷のナウシカ」(1984年)
・富野由悠季の「逆襲のシャア」(1984年)
・押井守の「ビューティフルドリーマー」(1984年)
・宮崎駿の「天空の城ラピュタ」(1986年)
・大友克洋の「AKIRA」(1986年)
・高畑勲の「火垂るの墓」(1988年)
・宮崎駿の「となりのトトロ」(1988年)
そう、この時代の名作って大体が劇場映画なのよ。
テレビアニメの作画がマシになるのは、少なくとも90年代に入ってからだろう。
で、上記10作品の中でも特にエポックメイキングだったのが「銀河鉄道999」の大ヒットで、これがキッカケで映画界が「アニメ作品はイケる!」と踏んだらしく、やがて80年代のアニメ映画ブームが興ったのだとされている。
松本零士先生といえば、「銀河鉄道999」より「宇宙戦艦ヤマト」だろ、と言いたい人も多いかもしれない。
うん、私も子供の頃は「ヤマト」派だったよ。
だけど、ああいう艦隊系は後に「ガンダム」「銀河英雄伝説」が出てきて、そのてのものと比較した時にどうしても色褪せちゃうんだよね。
その点でいうと、「999」は他にカブるものがない。
いうなればオンリーワンの作風である。
こんなにファンタジー色の強いスペースオペラ、他にないさ。
だって、蒸気機関車が宇宙空間を飛んでるんだから(笑)。
そして何より、「999」といえばメーテルに尽きる。
普通、70~80年代のアニメヒロインといえば時代の古さもあり、令和の視点だと見るに耐えないものが多いというのに、メーテルに限って全くそういう感覚がないんだ。
時代を超えた美、といったところか。
着てる服も含めて。
近年だと、栗山千明が「999」実写版のメーテル役をやってたっけ。
栗山さんがベストかはともかくとして、そこに「昭和」を感じさせるような古臭さはない。
松本零士先生の描く女性は常に痩身で、巨乳とかの肉感的なやつじゃないんだよね。
同時代の永井豪先生はその真逆で、めっちゃオッパイを強調してたと思う。
この時代、女性タレントの人気ではふたつの潮流があったわけよ。
痩身でミステリアスな山口百恵か、健康的で肉感的なアグネスラムか。
おそらく松本零士先生は山口百恵派で、永井豪先生はアグネスラム派だったということだろう。
そう、メーテルの魅力はその見た目もさることながら、むしろ一番の魅力は彼女独特のミステリアスさにあったといっていい。
実際、彼女の正体はずっと伏せられたまま、物語は進行していく。
しかし様々な伏線があり、ひょっとしたら彼女は鉄郎の敵では?と思わせる要素も数多くある。
このへんのプロットが、秀逸なんだよなぁ。
「999」はミステリー仕立てで、ある意味「考察系アニメ」の元祖といっていいのかもしれない。
上の画は松本先生のヒット作として知られる、「キャプテンハーロック」「クイーンエメラルダス」「1000年女王」。
こうした数々の作品が、「999」の作中にてクロスオーバーしていることは皆さんもご存じだろう。
ある意味「999」は、これら松本作品群の最も重要な基幹部分を担ってる、ともいえる。
このへんは既に有名な話だからネタバレしても構わないと思うが、たとえばメーテルはクイーンエメラルダスと姉妹である。
さらにいうと、この姉妹は「1000年女王」の実の娘である。
あれ?と思う人もいるかもしれない。
確か「999」って、最後は【メーテルvs母親プロメシューム】という構図じゃなかったっけ、と。
そう、ここが松本零士作品群の面白いところなんだ。
ぶっちゃけると
「999」のラスボス=プロメシューム=「1000年女王」のヒロイン
ということね。
非常に哀しい話だが、「スターウォーズ」EP1~EP3の主人公だったアナキンスカイウォーカーが、闇落ちしてEP4~EP6のラスボス・ダースベイダーになったことをイメージすればいいさ。
プロメシュームも、もともとは慈愛に満ちた聡明な女性だったんだ。
ただ、惑星の気候が寒冷化して、このままでは全ての民が滅亡すると踏んだ女王は、自ら率先して「機械人間化」の手術を受けたんだわ。
すると人の心が消失し、闇落ちして冷酷非情な暴君になってしまったのよ。
全く原型をとどめてないところが潔いね(笑)。
このへんのくだりを見たい人は、00年制作の「メーテルレジェンド交響詩 宿命」をご覧ください。
ま、別に見なくていいけど。
やはり、必見は2本のみ。
・劇場版「銀河鉄道999」りんたろう監督(1979年)
・劇場版「さよなら銀河鉄道999」りんたろう監督(1981年)
このふたつできっちり完結してるから、これだけで十分。
でも、めっちゃ残酷な話だから見る時は気をつけてね。
やっぱ松本零士先生は、この作品で「戦争」の残酷さを描きたかったと思うのよ。
人間vs機械人間の戦争は、この作品や「ターミネーター」以降SFの定番になったけど(最近のvs人工知能も同類)、松本先生は戦前の生まれだけに、なんか描き方の重さが違う。
特に劇場版は、1作目より2作目の方が残酷度がより濃くなっている。
たとえばこれ↑↑、大量の人間から魂を抜き取り、それが機械人間の食糧となっていることが明かされたシーン。
この後、鉄郎は死体の山の中から友人の変わり果てた姿を見つける・・。
これ↑↑はプロメシュームの忠臣・黒騎士なんだけど、正体は鉄郎の父であることが終盤に明かされた。
うわ~、めっちゃ「スターウォーズ」(笑)。
しかも鉄郎、父親(と知らずに)殺しちゃったよ・・。
どんだけ重い話やねん?
ちなみに、りんたろう監督は富野由悠季と同じく1941年生まれなので、この世代のアニメーターはやっぱり鬱描写がエグいということ。
・・てなわけで、私として「さよなら銀河鉄道999」を見た後には、口直しの意味で「モーレツ!宇宙海賊」の視聴をお薦めします。
この作品は、松本零士作品のパロディがテンコ盛りだからね。
アホっぽいスペースオペラでも見て、鬱な気分を一回リセットしましょう。
ようするに、私の視聴お薦めセットは
①劇場版「銀河鉄道999」
②劇場版「さよなら銀河鉄道999」
③テレビアニメ「モーレツ!宇宙海賊」
という流れである。
もう少し踏み込みたい人は、①の前に「メーテルレジェンド交響詩 宿命」でプロメシュームを予習しておくのもありだね。
プロメシュームを楽しめるようになれば、あなたも立派な「999」通です。
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