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実写版「風の谷のナウシカ」、そして先人たちへのオマージュ

昨年、ブラジルの自主制作グループがYouTubeで実写版「ナウシカ」を公開したことは皆さんもご存じかと。
まだ見たことないという人の為に、一応本編を貼っておきます(16分)。

マテリアルの質感、もう少しどうにかならなかったのか?等ツッコミどころは多々あるけど、それでも制作者のナウシカ愛はちゃんと伝わってくるし、少なくとも映画「銀魂」のナウシカと比較すればクオリティが遥かに上だと思うよ。

ブラジル制作「WIND PRINCESS」
映画「銀魂」の実写版ナウシカ

一応、このブラジルの制作者はちゃんとジブリ側と交渉したそうだ。
ジブリ側のアンサーは、

公認しないが、黙認する


というスタンスだったらしい。
まぁ、そうだろうね。
というか、本家ジブリは「ナウシカ」実写化をしないのか?
鈴木敏夫プロデューサーは絶対に構想あるはずなんだよね。
一応ジブリには「スタジオカジノ」という実写作品を想定した第2レーベルが存在しており、既に3つほどの実写映画がスタジオカジノ作品として登録されている。
そのうちのひとつが、「巨神兵東京に現わる」(樋口真嗣監督作品2012年)
です。

じゃ、あと残るふたつの実写映画は何かというと、

・「式日」(2000年)庵野秀明監督
・「サトラレ」(2001年)本広克行監督

ということらしい。
サトラレ」については、鈴木さんが個人的に劇場版「踊る大捜査線」のファンだったらしく、本広監督と仕事をしたかったんだろう。
式日」は、記念すべきスタジオカジノ第1回作品である。

ほら、パッケージの上部に「ジブリ」ロゴがちゃんと付いてるでしょ?

この「式日」について鈴木プロデューサーは

「『エヴァ』が好きな人は、ぜひ『式日』を見るといいと思う。
より深く『エヴァ』の本質が分かる、いわば“副読本”みたいな映画だ」

と語っており、それに釣られて、多くの「エヴァ」ファンがこれを見たんじゃない?
実は、私もそのクチでして・・(笑)。
まぁ、「エヴァ」の副読本とはさすがに思わなかったけど、それでもこれが一種の「セカイ系」であり、また一種のループものだというのは間違いないかと。
庵野実写映画の中では傑作の部類に入るだろう。
この人の映画は、常にアングルが面白い。
彼いわく、それこそ宮崎駿は「アングルの天才」とのこと。
庵野さん的にも、きっと彼なりのアングルの美学がある。
彼が子供の頃から大好きな、実昭寺昭雄っぽいやつとかね。

実相寺昭雄アングルの一例
実相寺昭雄アングルの一例

実相寺昭雄は「ヌーベルバーグ」(ゴダールやトリュフォーなど)の影響下にあった作家で、固定カメラのみならず「手持ちカメラ」も多く使った監督である。
そして庵野さんは、この「式日」でそれを倣ってるっぽい。
自分のみならず、この映画の主演俳優に「手持ちカメラ」の象徴的存在ともいえる、あの岩井俊二を抜擢。
おそらく日本で「手持ちカメラ」といえば、岩井俊二村西とおるかの二択だろう。
一歩間違えれば、「式日」は村西とおる主演もあり得たかもしれん。

村西とおる

そしてヒロインは藤谷文子
この人はスティーブンセガールの実娘で、女優としては樋口真嗣ガメラ」シリーズにおけるヒロインとして知られている。
と同時に実は小説家でもあり、この「式日」は彼女の小説が原作なんだ。
なんていうか、私がこの作品で震えたのは、その異様なまでのセッション感である。

・主演俳優⇒岩井俊二・映画監督
・ヒロイン⇒藤谷文子・「式日」の原作者
・監督⇒庵野秀明・アニメ演出家

この映画は、実質3人の「作家」によるセッションという構造。
各々に独自の「作家性」があり、正直いって監督の庵野さん自身、どういう画が撮れるか、未知の領域だったじゃないだろうか?
あのアングルにこだわる庵野さんが、あの絵コンテにこだわる庵野さんが、である。
この「式日」、その後の庵野さんの作家性に及ぼした影響は大きかったんじゃないかなぁ・・?
実際、その後の彼は「監督」じゃなく、「総監督」を名乗ることが増えたのよ。

「式日」には、後の「シンエヴァ」を彷彿とさせる画がいくつか出てくる

そもそも、アニメと実写の違いとは本質的に何なのか?


これについて、岡田斗司夫さんはこう語ってくれている。

なるほどねぇ・・。
いうなれば、
・アニメ⇒監督の作家性による画の100%コントロール
・実写⇒監督×役者の作家性融合と偶然による化学変化

といったところか。
これと同じようなことを、確か原恵一監督も言ってたと思う。
最近は3DCGの進化もあり、アニメと実写の境界線がだんだん曖昧になってきてるのは事実だよね。
たとえば、こういう例もある↓↓

「アップルシード」
「アップルシード」

一応、こういうのも立派にアニメなんですよ。

そういや以前、岩井俊二は「花とアリス殺人事件」で、「ロトスコープ」という一風変わった方法でアニメ制作に取り組んでたっけ。

それこそ昔は2Dのアニメーターが必死こいて「リアルな動き」を作画で追求したもんだが、今の技術なら本当の「リアルな動き」を「ロトスコープ」でトレースしてアニメ化できちゃうわけです。

ロトスコープで制作された「花とアリス殺人事件」

逆にそうなってみて初めて分かったことだけど、
あれ?リアルな動きって、よく見ると逆にショボくね?
と感じてしまった、というのは正直ある。
逆に2Dアニメならではのエモさが分かったというか、たとえば、京アニのこの動画を見てほしい。

何なんだろう。
京アニの丁寧な作画を見てると、ただ単純に走るだけの動画に涙が出てきてしまう・・。
これ、実写だと絶対こういう感じにならないと思うんだよね。
じゃ、比較対象として、女優・土屋太鳳が必死こいて走ってる動画と見比べて検証してみようか。

・・うむ、結論いうと、実写だと土屋太鳳のオッパイしか印象に残らない。
欲情はすれど、感動はしない。
そういうことなんだ。
こうしてCGが進化し、アニメと実写の境界線が曖昧になった今だからこそ、ここにきて逆に2Dのありがたみが分かってきた・・というべきかな。
それと同時に、実写におけるオッパイのありがたみも分かってきた。

エモさ【アニメ>実写】
エロさ【アニメ<実写】

話をまとめると、こういう解釈になるね。
かえって2Dアニメの価値が見えてきただけに、私は「昔ながらのアニメ」の凄さが最近になって染みるようになってきた。
いまどきのアニメは、とにかくエフェクトがテンコ盛りである。
じゃ、そういうデジタルがまだ普及してなかった70~80年代のアニメって、どんな感じだったと思う?
それを少し見てほしい。

こういうの見て、正直凄いな~、と思う。
CGとかない時代ゆえ、全部手描きで視覚効果をつけているという神技。
とにかくキャラがめっちゃ動くし、こういうのを「カートゥーンアニメ」というのかな。
それこそ無声映画時代のチャップリンみたいなもんで、いまどきのキャラの3倍ぐらいは動いてるんじゃない?
ちなみに、上の動画は百瀬義行さんというベテランアニメーターの特集となっていて、この百瀬さんは今なお現役バリバリ。
もともと「高畑勲の右腕」といわれていた人で(高畑さんは絵が描けないので、この人が描いていた)、現在はスタジオポノックに移って、米林宏昌と並ぶ二枚看板の一翼を担ってくれている。
こういう70代のベテランがまだまだ頑張ってくれてることだし、ポノックは今後もきっと大丈夫だろう。

そして何より、こういうベテランたちを馬鹿にするなかれ、と思うんだ。
いまどきのアニメの中核を担ってるアニメーターのほとんどが、百瀬さんをはじめとするベテランたちが昔に描いてた画のスタイルに実は憧れてるものなんだよ。
たとえば、私が好きな制作会社のひとつにTRIGGERというのがあるんだが、ここなどは明らかにやろうとしてることが「カートゥーン」である。
じゃ、ちょっとTRIGGERの10周年記念動画というやつを見てほしい。

それこそ、エフェクト盛りまくりで新しい映像表現に見えるかもしれんが、実はさほど目新しいことなどやっておらず、むしろ彼らのやってることは、そのほとんどが先人たちへのオマージュである。
多分、9割以上がそうだと思う。
元ガイナックスって、案外そういうイズムなのさ。
庵野さんだって、いまだ実相寺昭雄(円谷プロ)オマージュの範疇だもんね。
他の業界なら、新しい表現をする人ほど「ジジイは去れ!」というスタンスだと思うが、なぜかアニメ業界はその逆である。
最先端を走る人ほど、実はめっちゃジジイのことをリスペクトしている。
そりゃ、宮崎駿の牙城が崩れなかったわけだね・・。


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