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アニメ界の最高知能・高畑勲の作品を我々は読み解けるのか?

今回は、高畑勲について書いてみたいと思う。
いや、個人的にこの人は鬼門なんだよねぇ・・。
なぜなら、彼の作品をそこまで面白いと思えないから。
ただ、私より見識が高く頭のいい人に限って、「高畑サイコー!」っていうのよ。
これがもう、悔しくって・・(笑)。
多分、あれだね。
ある程度、頭のいい人じゃないと理解できない系の作家なのかと。
その根っこを紐解けば、高畑さん自身が異様なほど知能指数高い人だということに行き着く。
なんせ、東京大学卒だから。
で、こういう頭のいい人は「自分が分かってることは相手にも理解できる」という前提で表現するんだけど、悪いが我々のほとんどが高畑さんの知能に及んでないがゆえ、やっぱり理解が追い付かないんですよ。
・・でも、頭のいい人にはちゃんと伝わるっぽい。
たとえば、巨匠・宮崎駿
少なくとも彼には高畑さんの意図するところがバッチリ伝わってたようで、明らかに高畑さんのことを「自分より格上の存在」と認識していたようだ。

故・高畑勲氏

高畑さんのことをよく知る人は、よく彼の「共感性欠如」について指摘している。
めっちゃスタッフに苦労かけてるのに、彼らに労いの言葉ひとつかけない人だったという。
また、彼の作品は毎度のように赤字を出し、常に宮崎駿の出す黒字でそれを補填してもらってたというのに、そこにも特に感謝などなかったようだ。
こういうのは広義だとサイコパスということになるんだろうが、頭のいい人にはそういうのが案外多いらしいね。
でも、彼の作品を見てると、そのへんのニュアンスを何となくだが感じないか?
なんていうか、同じ頭いい系でも宮崎駿の場合、たとえ難解であろうと観客を意識した作品作りをしてくれてるけど、これが高畑さんの場合、ほとんど観客を意識してないようにも思えるというか・・。
ぶっちゃけ、興行収入とか全く関心ないと思うんだよね。
じゃ、テキトーに作品を作ってるのかというとむしろその逆で、病的なほど細部のディテールにまでこだわり抜くという。
そのこだわりの結果として、「かぐや姫の物語」などは制作費52億にも及ぶというトンデモないことになったんだけど・・。

いやいや、これほどコスパの悪い監督というのも、なかなかおらんだろう。
というか、彼がこだわるポイントそのものがコスパ悪いんだよ。
その一番分かりやすい例として、「おもひでぽろぽろ」を挙げよう。

「おもひでぽろぽろ」

これは名作だよね。
宮崎駿プロデュース/高畑勲監督という稀有な例であり、「高畑さんの作品で一番好きなのは?」の問いにこの作品を挙げる人も結構多いかと。
私も、これはかなり好き。
分数の割り算のくだりとか抜群に面白い。
分数の割り算を難なく出来る子は、その後の人生もスムーズにいく、と。
しかしこの作品のヒロインは「分数を分数で割るってどういうロジック?」と考えてしまい、「ただ分母と分子をひっくり返して掛ければいい」という先生の教えを素直に実行できない。

確かに私の学校でも「なぜ、ひっくり返すのか?」、そのロジックを先生は授業で教えてくれなかった気がする。
単に「分数の割り算とはそういうもの」と教えられただけで、よく考えたらこれ、マニュアル伝授だけで学問としての教え方じゃないよね。
学校は、生徒に一種の思考停止を強いてるということか?
多分、高畑さんはこういうのを許せない人なんだろうなぁ。
彼は、ロジックありきの人だから・・。
まぁ、それはひとまず置いとくとして、そんな高畑さんが本作でこだわったというポイントは、主演声優の今井美樹だったという。
一度オファーして断られたらしいんだが、そこを何度も食い下がって何とか引き受けてもらったそうだ。
そんなに今井美樹のファンだったのか?
いや、違う。
高畑さんいわく「彼女の顔は頬骨が出ている」らしく、そこが抜擢におけるポイントだったという。

で、その頬骨をきっちり作画で表現してるんだわ(笑)。
この作品はプレスコ方式といって、まず声優のお芝居を収録し(声だけではなく表情の演技も撮る)、それをモトに作画をしていくというスタイル。
なるほど、今井さんは声優でなく女優だし、確かにそっちの方がやりやすいだろう。
ただ、この頬骨の表現というのがクセモノで、アニメーターさんたちはこれの表現でめちゃくちゃ悩まされ、作業は遅々として進まなかったらしい。
一説には、作画監督近藤喜文さんの寿命を縮めたのはこの時の心労じゃないかと・・(この作品の数年後に近藤さんは逝去)。
ちなみに高畑さんの狙いは、現代のヒロイン(27歳)をリアル作画、回想のヒロイン(10歳)をアニメ的作画というふうに、表現の描き分けをしたかったらしいのよ。

普通にかわいい10歳のヒロイン
めっちゃキモい27歳のヒロイン今井美樹(隣りは柳葉敏郎)

・・もし私が今井美樹だったら、この作画を見てブチ切れるね!
言っとくけど、当時の今井さんはベストジーニスト賞を獲るほどのイケてた美女だぞ?
この作中でもずっとジーンズ姿だが、そこにはベストジーニストの片鱗などまるでなし。
もちろん高畑さん的に悪意など全くないにせよ、あれほど熱烈オファーしておいて、これどゆこと?と言いたくもなるさ。

どう見ても、実写のおふたりの方がイケてるんだよね・・

つまり高畑さんは、努力するポイントが恐ろしく常人の感覚から乖離してるのよ。
努力のコスパが悪い。
私の知る限り、これを見た人の反応として

「現在と過去回想の作画の違いのつけ方、あれ痺れたね~」
「そうそう、あの頬骨の描写、サイコー!」

と絶賛してるのとか、見たことがない。
・・いや、高畑さん的には、そんな反応など最初から関心ないんだ。
ただ単に、彼自身がこれを試したかった、ということ。

私が思うに、高畑さんの本質は科学者、研究者である。


それも、マッドサイエンティスト系のタチが悪いやつ。
だからこそ常人には理解不能な実験を繰り返すんだが、それも作品のヒットとか評価とかが目的じゃなく、ただ研究者の本能として

仮説⇒実験⇒観察⇒考察


というのをやめられないんじゃないか?
そのニュアンスは、それこそ分数の割り算のロジックを紐解こうとする感覚にも近いと思う。

「かぐや姫の物語」

で、上の画みたいなのが高畑流の象徴なわけよ。
これも別に、我々観客にインパクトを与えようとして、こういう表現をしているわけでもない。
まず「こういう表現ができるのでは?」という彼なりの仮説があり、それを実証することこそが主眼。
じゃ、観客は置いてきぼり?
いや、そこまでは言わんが、でも絶対媚びない人だから、こっちが「与えてもらえる」という甘えたスタンスでは、間違いなく置いてきぼりとなる。
観客は受動のスタンスでなく、能動のスタンスでなければ作品の理解到達には無理だということ。
たとえば、このシーン↓↓

「かぐや姫の物語」のワンシーン

これ、「かぐや姫の物語」の後半にある空を飛んでいるシーンなんだけど、これの高畑さんの意図は

「ふたりが屋外SEXしてる場面」


ということらしいのね。
この描写でそれが観客に伝わるとも思えんのだが、知能指数高い高畑さんは常人がそこまで理解力や想像力がないなど全く想定しておらず、
わぁ~、ロマンティック~♡
という観客のリアクションに「??」となるわけよ。
ちなみに、このシーンの後は月からの干渉があって強制的に時間逆行の措置がとられるんだが、それすら伝わらず、「夢オチ?」と観客がリアクションするもんだから、再び高畑さんは「??」となるんだ。

「平成狸合戦ポンポコ」
「火垂るの墓」

さらにいうと、高畑作品のややこしいところは、その作風に一貫性が無いという点である。
たとえば、「火垂るの墓」があれほど重い作風でありながら、それに続く「平成狸合戦ポンポコ」では、狸がキンタマをパラシュートにして空を舞うという荒唐無稽な作風。
つまり、これも作品ごとに実験のテーマが異なってくるというか、そもそも高畑さんって、同じことは二度とやってくれないのよ。
だから高畑作品には「ブランド」みたいなものが成立せず、そこが宮崎駿との決定的な違いである。
彼自身、作品を「商品」と捉えてないんじゃないか?
どこか、作品をサンプルのようなものと捉えてるイメージすらある・・。

「レッドタートル/ある島の物語」

で、そんな高畑さんが生涯最後の仕事としたのが、Michaël Dudok de Wit監督作品「レッドタートル」。
Michaël Dudok de Witというのはアカデミー賞受賞歴のある大物なんだが、彼はジブリからの映画制作のオファーに対して「高畑さんが携わってくれるなら」という条件を出してきたらしく、高畑さんが急遽これに絡むことになったらしい。
これ、結構凄い作品である。
なんせ、セリフが1個もないからね。
セリフなしというアイデアは、高畑さんによるものらしいんだけど。
打ち合わせを綿密に重ね、なんと制作には8年を要したとのこと。
見てもらえば分かると思うが、「あ、高畑作品っぽいな」と感じるはずだよ。
人間と亀との異種交配みたいな話で、ある意味「崖の上のポニョ」に対するアンサーともとれる。
ただ、「ポニョ」より遥かに難解。
果たして観客がこの作品のメタファーをどれほど読み解けるか、思いっきり知能を試されてる気分になるよ。
高畑さんってば、最後の最後までホントにもう・・。
まだ見たことない人は、ネットで「The Red Turtle」と動画検索すれば普通に見られるはずなので、ぜひ一度ご自身の知能を試してみてください。
言っとくけど、亀との異種交配とかメタファーだからね。
大体、亀とSEXして子供生まれるわけないし。
じゃ、これが一体何のメタファーなのかを我々は考えていかなきゃならないんです。


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