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今、SF界では「百合」がキテることを知ってますか?

皆さんは、「百合SF」を知ってますか?
このジャンル、SF界で今かなりキテるものらしい。
というのも「SFマガジン」という有名な雑誌があるんだが、そこが「百合SF」の特集を組んだところ大反響となって、創刊以来初となる増刷2回という未曾有の事態になったという。
それほどに、このジャンルは今おいしいんですよ。
・・そんなジャンル知らんぞ?と思うのも無理はないとしても、最近だと、その代表例のひとつとして挙げれられているのが「裏世界ピクニック」である。

「裏世界ピクニック」(2021年)

これ、まずまず面白かったよね。
この作品の監督は、佐藤卓哉さん。
佐藤さんの監督作の中で最も世間に知られてるのが「STEINS;GATE」だが、でもこの人、私の中では「苺ましまろ」の監督さん、というイメージが強いんですよ。
うん、
「苺ましまろ」+「STEINS;GATE」=「裏世界ピクニック」=百合SF
そういう解釈でいいと思う。
で、実は佐藤監督って他にも百合SFを手掛けてて、それが隠れ名作として名高い、「フラグタイム」なんだ。
今回は、まずこの「フラグタイム」のご紹介から始めようと思う。

「フラグタイム」(2019年)

これはOVA作品で、時間は僅か60分。
お気軽に見られる作品なので、ぜひお薦めしたい。
この作品は

あの「あさがおと加瀬さん。」のスタッフが再結集

というのが売り文句で、まず「あさがおと加瀬さん。」とか知らんわ!って人もいると思うが、百合アニメとしてはこれ結構有名なやつなんですよ。
百合アニメというより、声優アニメといった方がいいのかな?
エンディングで主演声優の佐倉綾音&高橋未奈美が「明日への扉」のカバー曲を唄ってて、これがまた異様にいいもんだから、そこそこ話題になってたと思う。
同様に、「フラグタイム」でもまたエンディングで伊藤美来&宮本侑芽が「frgile」のカバー曲を唄ってて、これもまたいいっすね~。
なんていうかな、あるいは佐藤卓哉って百合の達人?

ヒロインの美鈴(右)と遥(左)

さて、内容に入ろう。
まず、この物語はヒロインの美鈴が特殊能力者という設定であり、その能力というのが

世界の時間を(自分以外)3分間止められる


というものなんだ。
なぜ、そんな特殊能力をもってるのか?
そこが作中で詳しく追究されることはない。
多分、青春SFの名作「青春ブタ野郎」シリーズにおける「思春期症候群」と同じものだと思う。
ポイントは、ヒロイン・美鈴が極度のコミュ障だということ。
彼女は人に話しかけられるとテンパってしまい、その場から逃げ出したい、という強い情動から時間を止める能力が発動するっぽい。
3分間、自分だけ動ける状態というのが結構暇なので、暇つぶしに美少女のスカートの中を覗いたりしてるわけだが、その様子が上の画像である。
ところが、そのスカート覗きのターゲット・遥が、なぜか「止まった世界」の中で動けるという驚愕の事実が発覚。

このふたり、これまで一度も話したことのない関係ではあったものの、この事実の発覚以降、世界で2人だけが止まった時間を共有できる特別な関係として、急速に距離を縮めていくこととなる・・。
こういうパターンの話なら、コメディになりそうだよね。
ところが、そうはならない。
どっちかというと、重い話になっていく。

止まった時間の中で、はっちゃける遥

まず、なぜヒロインの美鈴はコミュ障なのか?
これが意外と大事なポイントなんだ。
彼女は、他人とコミュニケーションをとろうとしない。
なぜか?
それは、女子のコミュニティが悪意で満ちてるからだよ。
よく聞く話として

他人の悪口を言わない子は、女子の集団からはハブられてしまう


というのがある。
オンナノコたちは、大体が他人をディスる行為を共有することで仲間意識を深めるものだという。
で、そこに参加しない子に対しては
え?アンタ、ひょっとして私たちのことを見下してんの?
と判断し、偽善者のレッテルを貼ってコミュニティから孤立させるわけよ。
これは別に珍しい話でもなんでもなく、日本では昔からそうさ。
大昔から、ご婦人たちの「井戸端会議」というのは常にそういう性格のものであり、俗っぽくなる(オバチャン化する)ことは、生きていく為のスキルみたいなものともいえよう。
ただ、他人をディスることを生理的に受け付けない人が一定数いるのも事実なんだ。
そういう人が、そこに対処する方法はふたつ。

①それでも俗っぽくなったふうに装い、徹底して同調してる演技をする
②コミュニティとは距離をとり、孤独に耐える

処世術として、ほとんどの人は①を選択する。
なぜなら、②はイジメの対象とほぼ同義だから。
イジメの対象は、常にマイノリティである。
自分の身を守るにはマジョリティに迎合せねばならず、つまり①を選択した人は、②を攻撃しなくてはならん。
たとえキモいと思ってなくとも、「あの子キモいよね~」とか言わなくちゃならんのよ。
いまや学校とは、そういう生存戦略を叩き込まれる修業の場かもしれない。

せいぞ~んせんりゃく~!

いやいや、キモいと思ってもないのにキモいと言わなきゃならないなんて、そんなの人間としておかしい、という高潔な人だっているだろう。
そういう人は、②にならざるを得ない。
私は思うんだけど、イジメられっ子や引きこもりの中には、「高潔であるがゆえ」というタイプも含まれてると思うんだよね。
純粋、いうべきかな・・。
多分、この作品のヒロイン・美鈴はそっち系のタイプだ。
そして、もうひとりのヒロイン・遥の生存戦略は全くの逆ベクトルである。
彼女は徹底的に自分を殺し、努力に努力を重ね、あらゆる人に迎合することでコミュニティの頂点に立つという戦略だったんだ。
あぁ、それが一番理想的じゃん、と思うかい?
とんでもないよ。
結局、遥は「相手が喜ぶキャラ」をあらゆる人に対して演じており、もはや自分がどんな人間だったかも分からなくなるぐらいに疲弊してるんだから。
半分、壊れてるといってもいい。
そんな遥から見ると、たとえ殻に閉じこもってでも「自分」を維持できてる美鈴が羨ましいという、おかしな逆転構造。
一方、美鈴から見ると、みんなに人気のある遥は常にキラキラしてて、普通に羨ましいし・・。
分かる?
この少し歪んだ百合の関係。

で、このふたりは今後どうなってしまうのか?
そこは、本編を見てお確かめください。

それにしても、佐藤卓哉さんってオッサンのくせに、何でこんな若い女子の感性を瑞々しく描けるの?
ワケ分かんないんですけど。
あと、この「フラグタイム」を見て気に入った人は、ぜひ佐藤監督の別作品「好きっていいなよ。」も見てほしい。

「好きっていいなよ。」(2012年)

これは大ベストセラー少女漫画のアニメ化で、実写化もされたから知ってる人も多いだろう。
特にアニメは画が美しく、サイコーである。
そして、この主人公ふたりの関係が「フラグタイム」美鈴⇔遥の関係と酷似してることにすぐ気付くはず。
というか、まるっきり同じ構造なんだ。
それをいうなら、
・「裏世界ピクニック」の空魚⇔鳥子
・「あさがおと加瀬さん。」の由衣⇔加瀬さん

も全く同じ。

「あさがおと加瀬さん。」(2018年)

陰キャ⇔キラキラした人というカップリングは、佐藤監督のライフワークなのかも。
普通、「陰キャがキラキラしたのと、くっつくわけないじゃん?」と考えると思うが、おそらく佐藤監督の解釈として

陰キャ=俗っぽいコミュニティに迎合しない、高潔なキャラ


という捉え方なんだと思う。
よって、俗っぽさに迎合しすぎて自分がよく分からなくなっている人には、かえって眩しい存在なのかも。
ああ、そうか。
だから百合なのか・・。

百合=俗っぽい価値観には迎合しない、高潔なキャラ


百合とは、多分そういうモチーフ。
一歩間違えれば、これはコミュニティからハブられる対象である。
だけど自分に正直であることは、むしろ美しい、と。
2020年、佐藤監督は一本のオムニバス映画「どうにかなる日々」を制作している。

「どうにかなる日々」(2020年)

これは3本の短編で構成されてて、1本目がレズのカップル、2本目がゲイのカップル、3本目が男女のカップルを描いたものである。
3本目だけ普通じゃん?と思うところだが、そうでもなく、このカップルの男子の従姉がAVに出演してることが発覚し、それを意識しまくる女子の葛藤を描いた内容なんだ。
結構面白かったわ。
なんていうか、佐藤卓哉はブレないな~、という感じ。
こういう作家性のちゃんとある人、私は好きでね。
彼の監督作品はハズレがないので、皆さんにも安心してお薦めできます。


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