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海外で大人気の川尻善昭作品、なぜ日本で知名度ないの?

日本ではさほど知名度ないけど、海外ではめっちゃ評価の高いアニメーターというのが何人かいる。
その代表的なひとりが、川尻善昭氏だと思う。
川尻さんといえば、元は虫プロのアニメーター。
やがて、そこから出崎統氏やりんたろう氏らとともに独立し、彼らと一緒にマッドハウスの創設メンバーとなった大御所である。
しかし、「あしたのジョー」の出崎氏や「銀河鉄道999」のりんたろう氏と比べると知名度が低いよね。
川尻さんの代表的な監督作品を挙げると

・バンパイアハンターD(2000年)
・妖獣都市(1987年)
・獣兵衛忍風帖(1993年)

といったところだろう。
「バンパイアハンターD」はそこそこ有名かもしれんが、残るふたつは知らないという人も多いんじゃない?
ところが「妖獣都市」も「獣兵衛忍風帖」も、海外ではカルト的人気作品なのよ。
あと意外と知られてないことだが、彼は「日本で最も早くサイバーパンクを描いたアニメ監督」ともいわれている。

・MIDNIGHT EYE ゴクウ(1989年)
・電脳都市OEDO808(1990年)

これが、そのサイバーパンクに該当する。
この両作品も国内はともかく海外ではやたら人気があり、特に「OEDO808」は英国のNeroという音楽ユニットがこのアニメをミュージックビデオに使っているほど。

これ見てビックリしたんだけど、全編「OEDO808」のアニメじゃん(笑)。
これじゃNeroのミュージックビデオというより、「OEDO808」のプロモーションビデオだよね。
やっぱ川尻作品って、海外人気あるんだな~。
じゃ、今回は川尻作品の中から代表的なのをふたつご紹介します。

<妖獣都市>

この作品は、川尻監督の出世作である。
原作は菊地秀行先生の同名小説で、めっちゃハードボイルドな作風。
この作品の世界観は魔界というものが実在するという前提で、人間界と魔界の危うい緊張関係を描いたものである。
どちらの世界にも友好派と過激派はいるらしく、この物語の主人公は人間界に潜り込んだ魔界の過激派と闘うSPといったところか。
一応、ふたつの世界は不可侵条約を結んでおり、その条約の更新締結を前に人間界のVIPを護衛することになった主人公。
その護衛のパートナーとして、魔界の友好派からも1名SPが派遣されてきたのね。
それが、このヒロイン↓↓

クールビューティですな。
で、主人公+ヒロインが護衛する対象は、この爺さん↓↓

この爺さんは200歳を超えてるという重鎮で、魔界との条約締結には欠かせない重要人物だという。
しかしこいつがトンデモないクセ者で、せっかく護衛してるのにホテル脱走してソープランドに行ったりするわけよ。
で、案の定、そのソープで魔界の刺客に襲われたりする。
襲ってきた刺客ってのが、こんなのだからね↓↓

これはてっきり栗山千明だと思いきや、よく見たら蜘蛛女である。
これがもう、めっちゃ強い。
主人公は身体能力高くて射撃も上手いんだけど、しょせんは人間。
やっぱり魔物には敵わず、かなりやられる。
むしろ頼りになるのは魔界のSPであるヒロインの方であり、この人には爪の攻撃があるから。

とはいっても、最終的にはこうなる↓↓

蜘蛛の糸で緊縛・・

もうね、この作品は主人公とヒロインのやられっぷりを楽しめるほどの精神じゃなきゃ視聴は無理だぞ?
特にヒロインなんてクールビューティのくせに、めちゃくちゃ可哀相な目に遭うんだから。
触手で凌辱されるわ、拉致されて輪姦されるわ、まるでR18作品のヒロインみたいな扱いである。
一応、この作品はR15だったと思うけど・・。

しかし毎度、殺されそうになるギリギリのところでなぜか助かるのよ。
あれ?なぜ助かったんだ?と不思議に思ってたんだが、その謎は終盤で回収されることになる。
ああ、なるほど、そういう仕組みだったのかと納得のいくオチで、これほど陰惨な物語なのに、ラストには不思議と爽やかな気持ちになれる締め方だった。

うん、脚本も作画も驚くほどレベルが高い。
特に作画は、これが1987年のアニメであることを完全に忘れるレベルである。
もはや、エログロアニメの最高峰といっていいだろう。
原作者の菊地先生が「原作通りの表現」と唯一認めたアニメが、この「妖獣都市」なんだ。
アニメファンなら、必見の一作。
こんな80年代の古い作品は入手できないと勘違いしてる人もいるだろうが、これはちゃんと復刻版が発売されてるんだ。
おカネが惜しいという人は、パソコン動画を「wicked city」で検索してみてくれ。
川尻ファンは海外にこそ多いので、海外サイトにはフル動画がアップされており、普通に無料視聴が可能である。
英語版が多いけど、探せばちゃんと日本語版もあるよ。

<獣兵衛忍風帖>

これこそ、海外で先行してヒットした川尻作品の典型である。
90年代、米国で起きた「ジャパニメーションブーム」を牽引した作品ともいわれていて、向こうでビデオがバカ売れしたらしい。
ウォシャウスキー兄弟がこの作品のファンで、だから「アニマトリックス」に川尻監督を呼んだんだね。
あと、ワーナーブラザーズが本作の映画化権を既に獲得済みらしい。

上の画の人物が、本作のヒロインである。
あれ?
なんか「妖獣都市」のヒロインと似てない?
多分、川尻監督はこのての女性が趣味なんだろうね。

でもって、今度の敵キャラはヘビかよ?
これまた、パターンは「妖獣都市」に似てるわ~。
ということは、やっぱりヒロインは凌辱される系?
はい、その通りです。

しかしこのヒロイン、実は体液が猛毒という特性のくノ一で、この敵キャラはそのうち毒が回って死にます。
なんか山田風太郎の小説っぽいノリだが、この映画に原作はなく、川尻監督のオリジナル脚本らしい。
基本、川尻監督作品は
・エロ
・グロ
・ハードボイルド

が3原則である。
ちなみに、この映画の続編を「龍宝玉編」としてテレビアニメ化してるんだが、川尻さんはそっちの監督はしていない。
だから、テレビアニメの方は本作と比較にならんほどショボいのよ。
やっぱ、こういうのは川尻さん本人にやらせなきゃ、あの淫靡な世界観を他の人が再現しようとしても無理なんだろうね。

作中、主人公とヒロインに同行するのが↑↑の爺さんである。
こいつがなかなかのクセ者なんだけど、思えば主人公+ヒロイン+爺さんというトリオ構成は「妖獣都市」そのまんまじゃん。
・ハードボイルドな主人公
・クールビューティなヒロイン
・クセ者の爺さん

色々な意味で、「妖獣都市」は川尻式の原典なんだろう。
結局のところ、主人公とヒロインは爺さんの掌の上で踊らされてたんだ、というオチの部分まで両作品は同じである。
ただアクションでいえば、「獣兵衛忍風帖」は原典のスケールを遥かに凌いでいる。
めっちゃ凄いよ。

で、不出来だったテレビ版はともかく、ちゃんとした続編を日米合作でやるというプロジェクトがあったんだが、米国側の出資者は集まったのに日本側の出資者が決まらず、結局話はご破算になったとの噂である。
何なの?
この日米の温度差。
日本は、あまりにも「獣兵衛忍風帖」を評価しなさすぎだ。
キアヌリーブスなんて、好きなアニメについて
「僕のお気に入りは『AKIRA』に『攻殻機動隊』、それから『獣兵衛忍風帖』」
といってくれてるんだから。

実は獣兵衛ファンだったキアヌリーブス

さて、「獣兵衛」以降の川尻さんについてだけど、彼は2000年に「バンパイアハンターD」、そして2007年には米国製作で「ハイランダー」の監督をしている。
実は「バンパイアハンターD」も「ハイランダー」も、日本より北米の方が1年ほど先行して公開してるんだよね。
それだけ川尻作品の評価が高いんだろうが、逆に日本は彼をあまり高く評価してないように思う。
だって今の川尻さんって、地味に「葬送のフリーレン」の絵コンテ描いたりしてるんだよ?
やっぱ、あれかな。
いまどきのコンプライアンスとして、彼のエログロな作品に出資できない、ということだろうか?
だとすれば、とても哀しい。
皆さん、もっと川尻さんを応援しましょう!


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