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映画「007スカイフォール」アートを味わう極上の作品

「これ以上のスパイ映画もう出来ないかも」

これが率直な感想でした。『007 スカイフォール』は、2012年に公開されたイギリス・アメリカ合作のスパイアクション映画。007シリーズの23作目。ダニエル・クレイグのボンド作品としては第3作目。最近改めて見直して、完成度の高さに「やっぱり素晴らしい」の一言に尽きます。

まだ観ていない人は、一度は観て欲しい作品です。数あるアクション映画の中でアートとしての美しさを感じられる、唯一無二の一本です。

映画「007 スカイフォール」

奪われたスパイのリストを取り戻す作戦中に敵の傭兵との戦闘になる。ボンドに同行していたエージェントに誤って撃たれたボンドは峡谷に落下し行方不明に。数カ月経過し、ボンドは公式に死亡が認定されてしまう。何とか一命をとりとめていたボンドは一線から外れて自堕落な生活を送っていた。そんな時、本部のMI6が襲撃された事を知り、復帰を決意。再度リストを追うボンドは意外な敵と対峙することになる…

https://video.foxjapan.com/release/007skyfall/

007シリーズの中で初めてアカデミー賞にノミネートされ、2つの賞でオスカーを獲得するという偉業を成し遂げた本作。

個人的にはシリーズ史上最高傑作だと断言できる出来栄えです。

完成度100%のオープニング

『スカイフォール』のオープニングは数ある007シリーズの中でも屈指の出来栄えです。オープニングシークエンスからオープニングタイトルまでの流れは映画史に残る完成度。

バイクで屋根を爆走するチェイス、列車の上でショベルカーを動かす奇抜なアクション、列車上での激しい格闘、そして銃弾に倒れ橋から落下するジェームズ・ボンド。そのあとに続くアデルのテーマソングのオープニングタイトルまでの流れは神がかった出来栄えです。このオープニングタイトルには物語の顛末を示唆する伏線も繊細に描かれているので2回見るとより楽しめます。

アデルが歌うテーマソングも美しく素晴らしいですね。この後に待つ数奇な運命を感じさせる最高のオープニングとなっています。

アクション映画史上最高の「美しさ」

エンタメ指向作品を毛嫌いするアカデミー賞ですが、見事に2つのオスカーを受賞した本作。観るとうなづけます。「スカイフォール」は007シリーズというエンタメの姿をしたアート映画です。アクション映画でありながら、全体的に静的で、詩的で、アーティスティックなトーンで満たされています。

香港の夜のビルで繰り広げられるシーンは幻想的なライティングです。黒と青の中に浮き上がるシルエットは痺れるほどカッコいいシークエンス。鏡を使ったシンメトリーな構図。くらげが漂う宣伝光が一瞬消えた瞬間、ライバルとの格闘シーンに切り替わる、カット割とカメラワークが絶妙です。

暗闇の中で銃火で二人の姿が刹那的に浮き上がる演出はまるで舞台を観ているような感覚になります。このシーンだけで、この映画がいかに優れたアートセンスで作られているかがわかります。

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そして続くマカオのシーンでは、色彩が一変し橙色のトーンで映像が統一されます。香港の張り詰めた緊張感のあるシーンから、妖艶で穏やかな気配が漂うマカオへのギャップ。一気に大人の世界に引きずり込まれます。

耽美に魅せるカラーグレーディング処理された映像美。非の打ち所がなさすぎて脱帽です。

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後半の舞台である007の故郷スカイフォールは、それまでのシーンとは対照的に、荒廃的なイメージ。

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一作品の中で別の映画を観ているかの様な感覚すら与えてくれます。

スーツとアクションとダンディズム

クレイグボンドシリーズになってリアリティを追求したアクションシーンも魅力の一つ。しかし、ジェイソンボーンシリーズやミッションインポッシブルシリーズなどの他のスパイ映画とは一線を画す要素となっているのは「ダンディズム」です。

007シリーズ史上最も痺れるシーンがこちらのシーン。

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列車をクレーン車で破壊してボンドが車両に飛び乗るというアイデア満載のシーン。とんでもないアクションシーンでありながら、カメラワークは静的。構図が安定しているので中心のボンドに注視できます。そして大ジャンプ直後に冷静にカフスを整える演技。このシーンこそボンドのダンディズムが冴え渡る究極のシーンではないでしょうか。スーツとアクションとダンディズムを融合した魅力が際立つシーンです。

洗練されたストーリー

『スカイフォール』のストーリーは明快で極めてシンプルです。このシンプルさは「単純」という意味ではありません。

そのシンプルさは映像的な美しさの邪魔をしない最小限の情報に洗練したという感じ。説明の少ないアート作品に近いです。今作のストーリーはサスペンス要素を持たせながら、驚くほど説明が少ないのも特徴です。敵役のシルヴァはその過去が犯行の源泉となっていますが、その説明も必要最低限しか明かされません。シルヴァの思考も説明ではなく映像で見せる。アクションで語る。この潔さとシンプルさが、本作のストーリーを引き締めています。

時代と戦い、超える

劇中のボンドは一度死に、そして復帰します。これは世代交代を暗に比喩しています。個性豊かな若手の新キャラクターもボンドを「おじさん」扱いし、復帰したボンドも自分に衰えを感じるシーンがあります。

それでもボンドは戦います。そこに観客としては熱くならざるを得ません。

劇中で引用されている詩があります。この詩と共に宿敵シルヴァが議事堂を襲撃するシーンは非常に完成度が高く、知性と品が同居した極めてユニークなアクションシーンとなっています。

かつて天と地を動かした あの強さを我々は失った。だが英雄的な心は 今も変わらずに持っている。時代と運命に翻弄され弱くはなったが 意志は強く、戦い、求め、見出し、決して屈服することはない

正にボンドが置かれている状況を暗に描写した詩です。

またこの詩は映画シリーズとしても過去とどう向き合うかの答えを高らかに宣言した詩とも取れます。007はスパイの映画としてフォーマット化しており当作品で23作目。マンネリとの戦いです。それでも新しいチャレンジをしながら、意志は強く、これからも伝統も守っていく、という強い決意を感じられます。

それを詩を引用して描写する演出。大人すぎて惚れてしまいます。

まとめ

タイトルになっているスカイフォールはボンドが生まれた街の名前です。そのルーツを絡めながら一度死を経験したボンドが再生するストーリー。

悪役のシルヴァはボンドが一本道を間違えればなり得たかも知れないダークサイドのボンド。ある意味自分の影との戦いです。その過程を通して、自分を乗り越えて再び007になる、再生する。

自分を見失いかけたり、挫折しそうな時、この映画は自分の原点を見つめれば、自分を乗り越えて、新しい一歩踏み出せる事を教えてくれます。

そんな骨太なストーリーを最小限の情報で構成している脚本は素晴らしいの一言です。そのストーリーを痺れるアクションと、男が惚れるダンディズム、それらを抜群の映像美で包み込む、異端のアクション作品です。

子供じみたアクション映画に飽きた方には是非お勧めしたい一本。

この週末に映画でアートを感じてみてはいかがでしょうか。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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