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【読書】多分、一刀両断できないであろう"心"や"からだ"にまつわるあり方や制度そのものを考えててみる?

深遠にして、身近な問題?

現代社会において、人体に対する医学的・科学的介入というのは、日常でもよく見られるものです。病気になれば、薬物であったり、手術であったりといった治療を希望する方が多いと思います。

ただし、その技術をほかに転用した場合はどうでしょうか。このような話はエンハンスメント(enhancement)と言いますが、エンハンスメントから心とからだの倫理を考えてみようというのが今回の記事で取り上げる「心とからだの倫理学 エンハンスメントから考える」になります。

著者はメタ倫理学が専門の佐藤岳詩氏。エンハンスメントを全く知らずに手に取り、かつ、倫理観に自信がない山田(仮名)が、本書を通じて心とからだの倫理とは何かを探索した的記事です。

あなたならどう考えますか?

本書では、次の8点が議論となっています。

①美容整形

②ドーピング

③身体の機械化(義手義足、ペースメーカー、不老不死…)

④ADHDの治療薬をスマートドラッグにして認知能力向上させること

⑤SSRIなどによる感情制御

⑥性を一致させる=性別移行をすること

⑦遺伝子操作(植物、動物、ヒト…)

⑧道徳的能力の向上(モラルエンハンスメント)

多分、この質問をみなさんとの間でした時に、すべての一致点を見出すことは不可能でしょう。

特に①から⑦の話は、現代の科学技術の進歩や社会情勢とは切ってもきれない関係にあります。その際の判断基準…となると、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)のようなすでに世界的にコンセンサスが得やすいものもありますが、法令、倫理などから推定していくことになりそうです。

本書の目論見

そこで、著者の佐藤岳詩氏は当事者、周囲、社会の3つの視点で考えることを勧めます。そして、倫理学の重要な考え方のポイント(帰納法での推論、普遍化可能性、法と倫理、比較可能性、平等etc.)を押さえながら、敢えて対立する議論を呼び起こしますが、同氏の意見は全く出てきません。

そう、かんたんにいうと、論点の交通整理の結果が書かれています。それにすべてが賛成なのか、一部賛成なのか、すべて反対なのかは読者にお任せという内容です。

道徳的能力?

これは、⑧道徳的能力の向上でも同様の展開になります。

私も小学生・中学生のときに道徳の授業はありましたが本当にそうなのか?と疑問を抱いた場面もありました。

その後のいじめ問題などなどで、文部科学省が「特別の教科 道徳」を推しています↓

道徳そのものの向上は良さげな感じがするものの、教育として考えた時にどのように扱い、効果判定をし、フィードバックしてあげられるのか?が私にも現時点でよくわかっていません。

考えてみることのススメ

前述①から⑦については、私なりの意見はありますが、ここでは割愛します。本書を通じて、心や身体に直接関与する技術であったり、制度であったりは当事者、周囲、社会の3次元で考えてみる、そのような習慣があれば閉塞感や切迫感がある現代社会を冷静に俯瞰できる…そんなことを教えてくれたような気がするライトでありながら、ヘビーな一冊でした。(了)

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