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【ファジサポ日誌】53.やる気スイッチがほしい~第18節栃木SCvsファジアーノ岡山

※表紙写真は群馬戦より(44)仙波選手
この栃木戦のレビュータイトルを考えた時に真っ先に浮かんだ言葉は「自滅」でした。おそらく多くのファジサポが同じように感じたと思います。
しかし、継続的にチームを追っているサポーターの一人としては、その自滅の背景から何が見えたのかを考えたいと思うのです。

前節、群馬戦でJ2通算200勝を達成したクラブには幸せな時間が流れていました。
政田でのファンサービス再開、岡山U-18出身太田龍之介選手(明治大)の来季新加入内定、仙波大志の結婚、輪笠祐士に第1子誕生、試合当日の朝はU-20ワールドカップで坂本一彩が先制ゴールを決め、佐野航大が相変わらずの存在感を示しました。(チームは負けてしまいましたが)。

クラブ内の空気が悪くなるはずがないのに、この栃木戦は今季最悪ともいえる内容で敗れてしまいました。

1.試合結果&スタートメンバー

昨シーズンは1勝1分と勝ち越しましたが、J2昇格の同期栃木とはいつも接戦になっています。敗れた試合は手痛い形での失点(記憶に残る失点)も多く、今回もスコアだけを振り返ると同様の傾向が出てしまったといえます。
元来、岡山は北関東グループ(栃木、群馬、水戸、大宮)との対戦を苦手にしており、長年それが勝ち点を十分に積み上げられない一因になっていましたが、木山体制に変わった昨シーズンは大きく勝ち越すことに成功しました。前節も群馬から勝点3を獲得、良い流れであっただけに残念です。

J2第18節 栃木vs岡山 スタートメンバー

ホーム栃木は若い機動力に優れた選手を前線に起用しています。この機動力を活かして前半からこの3人(36山田、37根本、38小堀)を中心としたハイプレスを仕掛けてくることも、これまでの栃木の戦いぶりから十分予想されました。

岡山は前節群馬戦と同様のスタメンです。前節も前半途中からは相手ペースとなり苦戦していましたが、勝利という結果を得たことであえてスタメン、ベンチメンバーを大きくは触らなかったのではないかと思います。
唯一、ベンチメンバーをMF(30)山田恭也からCB(4)濱田水輝へ変更しましたが、これはリードしている終盤を3バック(5バック)で守り切るためのメンバー入りであったと思われます。

2.レビュー

J2第18節 栃木vs岡山 時間帯別攻勢守勢分布図(筆者の見解)

「時間帯別攻勢守勢分布図」では岡山(43)鈴木喜丈のOGが生まれてしまった34分の時間帯を「白色」で表しています。つまり「五分」の時間帯なのですが、実際にはお互いに攻撃が停滞していた時間帯でした。
今回のレビューはこのOGに至った背景の話が中心となります。

試合は1点ビハインドとなった直後に岡山が一気にペースアップ、猛攻を仕掛けたのが35分以降の時間帯でした。

後半は頭から栃木がハイプレスを敢行、栃木の時間帯になりつつありましたが、岡山が危険な場面を迎えながらも栃木のギアチェンジを凌ぎ、50分以降の猛攻へ繋げ(42)高橋諒の見事なゴール(クロス)で同点。
時間帯的にも逆転のチャンスは十分にありましたが、(5)柳育崇の判断ミスによる再びの失点、そして(23)ヨルディ・バイスの退場により勝利の目は潰えた。全体的にはこんな試合であったと思います。

■木山隆之監督

残念な試合となった。自分たちのプレーもそうだし、色んな事がストレスの多い試合だったが、負ける時はこういうものなので、しっかり切り替えてやっていきたい。

予想と違ったところもあるが、それも含めて選手にはいつも相手を見てプレーすることを要求しているので、自分たちの思ったような形にならず、その中でミスで失点して前半を終えた。ただ、こういうことはあるので、後半切り替えて心新たにやり方も変化して、同点に追いついたところまでは良かったが、また1つミスで失点して、退場もあって難しい展開になった。もう少し自分たちでテンポを上げて、シンプルに縦にボールを入れながらプレーをすることが必要だった。

栃木戦後の木山監督のコメント ファジアーノ岡山HPより

試合後の木山監督のコメントに気になった部分がありました。
このコメントがこの試合の全てともいえます。
このコメントを中心に試合を振り返ってみます。

(1)「予想と違ったところもあるが」


これはおそらく、前半の栃木が予想していたよりもハイプレスを仕掛けてこなかったことを指しているのだと思います。

確かに栃木の3トップは岡山の最終ライン(バイス、柳、鈴木)に対して一定の距離までは詰めるものの、そこから強いプレスには来ず、岡山のダブルボランチへのパスコースを消すような動きを見せていました。では、サイドへ誘導したいのかというと、サイドへの追い込み方も徹底は出来てなく、非常に曖昧な守備であったといえます。よって岡山は両サイドへ展開は出来ていました。

前半途中に栃木の時崎監督から前線の選手に対して何度かプレスにいくよう指示が出ていた様子から、一連の栃木の形が意図したものとは言い難いと感じました。少なくとも前半に関しては栃木も上手くはいってなかったといえます。

岡山としては栃木のハイプレスを剥がして、その裏のスペースの(27)河井や(44)仙波へボールを預けるねらいがあったのでしょう。そのねらいが、栃木の戦術的な意図というよりは意思の不統一によって、外されてしまったのではないでしょうか?

(2)「選手にはいつも相手を見てプレーすることを要求しているので」

このような試合展開に対して、岡山のボランチ(27)河井が度々最終ラインまで下りてビルドアップに加わります。

栃木の前線3枚に対して4枚で優位にビルドアップを開始しましたが、前線へのボール運びという点ではそれほど効果的ではなかったと思います。なぜなら、数的優位を作ったことにより、栃木の前線からのプレスは更に引き出せなくなりましたし、球出しの際にボランチのもう1人を含めた前の選手のボールを受ける動き出しも少なかったからです。

それでも栃木の守備の不徹底ぶりにより、比較的サイドにボールを出せてはいましたが、右サイドに関してはRSB(16)河野諒祐のクロスが前半から精度を欠いており、なかなか決定機に至りません。

こうした攻撃停滞の大きな原因は、まず選手間で統一した状況認知が出来ていない点にあると思います。(27)河井は、ゲームプランと異なる状況が発生していることを一早く察知していたようにみえましたが、そこからボールをどのように運ぶのか、チームとしての意思が曖昧に感じられました。

河井からのビルドアップのイメージ

(27)河井から前方への球出しの選択肢は大まかに①両サイド、②仙波、③前線の3つであると考えられます。
(27)河井の目線(顔の向き、角度)を追いますと、様々な選択肢を瞬間ごとに探っている様子もわかります。

①~③の選択そのものはボールの預け先の状況によってはどれも正解なのですが、例えば②(44)仙波に出した時のフォローを周囲の選手が出来ているのかどうか?が大事なのです。

この試合での(44)仙波はボールを受けた際にボールを出す先を探すような素振りを見せていました。つまり、ボールを出す先が無いのです。
これは、周囲の選手が(44)仙波のキープ力とドリブルで(44)仙波自身がボールを前線まで運ぶことにを期待している、そしてその状況を「見ている」ことが原因といえます。

このシチュエーションでの(44)仙波は栃木ボランチと前線3枚の5枚に囲まれることになります。また、この日の(44)仙波は若干動きが重いようにも見えました。こうした状況を踏まえて周囲の選手が(44)仙波からボールを貰いに行く動きが欲しかったところでした。

(44)仙波にボールが入った場面はあくまでも一例なのですが、岡山の前半(先制点を献上するまで)は各攻撃局面でボールの出し手、受け手の意思のズレ、そして局面から局面への移行を予測した動き出しの少なさが目立っていたのです。

(16)河野のクロスが精度を欠いたこともおそらくクロスの受け手との意思統一が出来ていないことが原因であると思います。(16)河野はおそらく、クロスに走り込む選手をイメージして若干前方に蹴っているのですが、(7)チアゴや(18)櫻川が(16)河野がイメージしている程には前方を意識できていないのです。

こうした岡山の状況に、栃木のファールやボール扱いのミスで頻繁にタッチを割った影響が加わりました。
岡山はゲームプランが外れたことと、その状況を打開する攻撃の意思統一が図られないこと、そして試合の流れが度々止まる栃木のペースにおつき合いして、非常にリズム感が悪い、スローテンポな試合運びをしてしまったのです。

一方で選手「個人」からは停滞する攻撃打開の意思は強く感じられました。
筆者が最もそれを感じたのが皮肉にもOGを献上してしまった(43)鈴木なのです。彼もおそらくゲームプランどおりの試合展開でないことを察知し、これまでの試合でも見せていた自陣からの持ち上がりで栃木中盤の守備陣形を崩し、サイドの(42)高橋への展開だけではなく、前線に縦パスを入れるなど非常に攻撃姿勢を強めていました。

OGのシーンもちょうど持ち上がったタイミングでしたが、おそらくその先の動き出しが乏しく、攻め上がった勢いのままバックパスをしてしまった。
その分、強くアバウトなキックになりOGになってしまった。

このOGは(43)鈴木の積極的な攻撃姿勢とチーム全体のリズム感に欠けた試合運びにより生まれたものといえるのです。

ちなみに(43)鈴木の視野には(1)堀田が入っていたように見えましたし、キック自体も(1)堀田を目がけていたと思います。

ベンチも状況は把握していたと思います。
木山監督は、ここまで述べてきましたようなゲームプランが外れた状況の打開をベンチの細かい指示よりも、あえて選手個人の戦術的判断や、選手同士の自主的なコミュニケーションに委ねているように見えます。
おそらくこうした状況を自主的に打開できるフットボーラーが監督の理想像なのかもしれませんし、監督のこれまでの教え子に「自律した」イメージの選手が多いのもこうした育成方針によるものなのかもしれません。

岡山としては、予想していた試合展開にならなかったこと、そして全体的に試合のリズム感がなかったこと、この2点が前半全体の停滞に繋がっていたと思います。

(3)「自分たちでテンポを上げて」


栃木が自陣で守備ブロックを形成した影響もありますが、先制点を献上したことで、岡山はそれまでの停滞ぶりがまるで嘘のように反撃を開始します。
やれば出来るのです。
後半の同点弾とそれに至った攻勢の過程は、後半開始早々から栃木がハイプレスを仕掛けてきたことがきっかけでした。

つまり岡山の攻撃はその多くがメンタル的にも、戦術的にも非常に受動的、相手なり、リアクション中心といえるのです。
今シーズンなかなか勝ち切れないゲームが多い原因のひとつであると考えます。

それでは、そんな岡山のゲーム運びを改善するにはどうしたらよいのでしょうか?
端的に述べますなら、能動的に、主体的に試合運びをテンポアップする必要があります。まさに監督の言葉のとおり「自分たち」でテンポアップしなくてはならないのです。

強いチームには、攻撃のスイッチになる人がいます。
わかりやすい例ですとガンバ大阪やジュビロ磐田の遠藤保仁選手です。
「この選手がボールを受けたら攻撃のスイッチが入る」といわれる選手のイメージです。

今の岡山にはそういう攻撃のスイッチと呼ばれる選手が確立されていません。わかりやすくこういう選手をつくるのもひとつの手なのだと考えます。
筆者は(44)仙波がその有力な候補なのではないかと考えています。
彼のボール受ける力、相手を剥がす力、キープ力、ドリブル、そして攻撃のアイデアを複数持っているという強みは岡山の「攻撃やる気スイッチ」になる可能性を十分に秘めています。

ですので、やはり(44)仙波にボールが入った時の攻撃展開をもっとチーム全体に浸透させていく必要があると思いますし、今後の上位浮上への条件のひとつになるのではないかと筆者は考えます。

(4)空回りしたキャプテンシー

それでも一度は同点に追いつき勝ち越しの気運が高まったところに今の岡山の底力は感じるのですが、そんな気運が一気に消えてしまったキャプテン2人の振る舞いが残念でした。
栃木の勝ち越しゴールの場面は、相手ゴールキックのバウンドが不規則になった不運はありましたが、やはり(5)柳がボールの行方を決めつけてしまったミスであると言わざるを得ないと思います。
2敗のうちの1敗、甲府戦でもボールの目測誤りがチームの勢いを消す失点に繋がりました。この学びが活かされなかったと言うには厳し過ぎるのかもしれませんが、どうしても関連づけて考えてしまいます。
古巣栃木戦ということもあり、気合いは入っていたと思いましたが、セットプレーでは他チームとの対戦以上に栃木の選手にマークされて良い形でシュートを撃てず、背後のボールの弱さも失点に直結しまいました。
前方のボールへは非常に強気に自信を持って守備が出来る反面、背後のボールに対しては時折弱気な対応が顔を覗かせます。
この点については頑張って克服してほしいとしか言いようがありません。
苦手なビルドアップもトライ&エラーを繰り返しながら成長を遂げています。Jリーガーとしては中堅どころの年齢に差し掛かった今も自信の成長を信じて取り組む姿勢が素晴らしい選手です。
背後へのボール対応にも逃げずに取り組んでほしいと願っています。

ゲームキャプテン、(23)バイスの退場も軽率であったと言わざるを得ません。前節の群馬戦、この栃木戦もゴール前の守備で非常に良い面を見せてくれていましたので、より残念でありました。
彼に限らず岡山の選手はキャプテン経験者が多いためか「自分が何とかしてやる」というタイプの選手が多く、それが嚙み合えばものすごいエネルギーを発揮しますし、それが木山体制下でのチームの魅力であると感じています。昨シーズンの好調期はまさにそんな雰囲気であったと思います。
一方、今シーズンはそれが少々空回り、悪い方に出てしまっている試合も多いのかなと、そんな印象を持っています。

まとめ

岡山の編成は「自律した個の融合体」を目指しているのだと筆者は解釈しているのですが、今シーズンは戦術的に「繋ぎ」始めたことでより細かい部分が各選手に要求されている。使われる、黒子に徹する動きも昨シーズン以上に必要になっている。おそらくこうした面が選手の血気盛んなリーダーシップとミスマッチを起こしているのだと思います。
その「熱い心」を何とか能動的な、主体的なサッカーへと活かしていきたいのですが、そのためには攻撃のスイッチ役を確立することが必要であると、この栃木戦を通じて学びました。

明日は新戦術が浸透し始めた好調徳島が相手ということで不安に思う方も多いと思いますが、ある意味良くも悪くも相手なりにサッカーが出来るのが岡山の特徴ですし、試合展開が流れる方が岡山としても良いサッカーができます。ただし(23)バイスがいませんので、ボール運びについては前線一気のフィードは期待できません。(44)仙波にボールが入ることでチーム「やる気スイッチ」がオンになることに期待します。

お読みいただきありがとうございました。

※敬称略

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き社会保険労務士
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
ゆるやかなサポーターが、いつからか火傷しそうなぐらい熱量アップ。
ということで、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

応援、写真、フーズ、レビューとあらゆる角度からサッカーを楽しむ。
すべてが中途半端なのかもしれないと思いつつも、何でもほどよく出来る便利屋もひとつの個性と前向きに捉えている。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。
アウェイ乗り鉄は至福のひととき。多分、ずっとおこさまのまま。





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