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【ファジサポ日誌】102.若者たちの闘「走」~第9節 愛媛FC vs ファジアーノ岡山~

90分+6分、4分前の劇的な同点ゴールから岡山はその勢いのまま、勝点3を狙いにいく。CB(5)柳育崇は連続する岡山のセットプレーをモノにすべく前線に張り付いたままであった。
ここで勝点1を確実に得る為、一度増した火勢を自ら消火することなどは考えづらく、ごく自然な岡山の選択であった。

しかし、攻勢の裏には必ず被カウンターのリスクがある。
ましてやこの試合、愛媛のチャンスのほとんどが磨かれた鋭いカウンターによるものであった。愛媛としては1-1にされた後、すぐ勝ち越した自信もあったであろう。

愛媛必然のカウンターが発動される。

岡山(44)仙波大志の前線へのフィードを愛媛CB(37)森下怜哉がクリア、そのボールを前線に残っていた愛媛RSH(13)窪田稜がヘディングで繋ぎ、交代出場CF(9)ベンダンカンへと渡った。
(9)ベンダンカンが力強いドリブルで岡山陣内へ独走する。

本山遥、24歳。
愛媛(13)窪田の前でマークしていた彼は、自身の頭上をボールが越え、遥か先の愛媛前線へと繋がれた瞬間、何を思ったのだろうか?

彼の中ではもう払拭していたかもしれないが…

一昨シーズン終盤のある試合を思い出した。
2022J2リーグ第42節アウェイの東京ヴェルディ戦、1点ビハインドで迎えた63分自陣中盤(26)本山からの不意の横パスをかっさらわれ失点。前へ付けられなかった(26)本山の消極的なプレーが岡山の敗北を決定的なものにした。
試合後(26)本山は泣いていた。久々の本職RSBでのパフォーマンスも十分ではなかった。きっと己の不甲斐なさを噛みしめていたのだろう。

あれから1年半、そのユーティリティな能力を発揮し、彼は変わらず岡山の主力であり続けたが、昨シーズン途中からのRCBを除いては、どのポジションにおいてもファーストチョイスにはなり得なかった。
しかし、どのポジションにおいても献身的に戦い続けた。
そしてその真骨頂こそが、この愛媛戦でのこのプレーであったと思う。

彼はクレバーな選手である。
(44)仙波が(9)ベンダンカンを先に追走している。
仙波に任せて、ピッチ左のスペースを走る(13)窪田を再マークする選択もあった筈だ。しかし、彼のターゲットは(9)ベンダンカンであった。
迷いはなかった。味方の(44)仙波をも追い越し、いち早く(9)ベンダンカンに到達すると、レッドカード覚悟で手を掛ける訳でもなく、冷静に一度体を寄せて(9)ベンダンカンをボックス外へ追いやろうとする。それでも(9)ベンダンカンは体勢を立て直すが、今度は彼がシュート体勢に入ったタイミングを見計り、(15)本山は鋭いスライディングタックルを披露。PK献上のリスクもある中、なんとノーファールで(9)ベンダンカンのシュートを阻止したのであった。

もうそこにあの東京V戦での「ひ弱」な(26)本山の姿はなかった。
攻撃センス、テクニックでは上を行く(44)仙波への対抗心もあったのかもしれない。走力、対人守備では絶対負けないという(15)本山の自信と意地を垣間見たビッグプレーであった。

一時同点としたO・Gも彼の折り返しからであった。この日2点分の活躍、(15)本山は間違いなくこの日の岡山に勝点1をもたらしたのであった。
更に特筆したいのは、この試合の後半開始直後(15)本山は滑るピッチに対応するため、スパイクを交換していた点だ。ハーフタイムに交換しなかったことからも、いわゆる様子見をする選手が多いピッチ状況であったと推測される。そんな中での思い切った選択、ここにも(15)本山の決断の良さが現れているのだ。

その(15)本山の折り返しをO・Gとしてしまったのが愛媛(37)森下であったが、この試合において愛媛の両CB(37)森下と(33)小川大空の奮闘ぶりは岡山を苦しめた。
愛媛DF(21)パク・ゴヌ退場以降の岡山の猛攻時間帯も含めて、この試合で岡山は一体何本のクロスを愛媛ボックス内に送り込んだのだろうか?
CKに至っては12本を数えた(愛媛は1本)。

岡山のクロスが単調気味であったにせよ、そのほとんどを愛媛の両CBに先に触られ、跳ね返された。90+5分、この試合では明らかに低調なパフォーマンスに終始していた岡山CF(9)グレイソンが、一瞬の閃きからヒーローになりかけたオーバーヘッドを跳ね返したのも(33)小川であった。

(33)小川は70分には一時勝ち越しとなるゴールも記録。
ゴールを決めた(33)小川は一目散に愛媛サポーターがいるゴール裏へと走っていく。その行動は自身へのゴールセレブレーションを求めるのではなく、両耳に手を当て「声が聴こえない!」、「もっと応援をくれ」というサポーターへの要求、アピールであったのだ。

試合観衆5,313人、このうち岡山サポーターは1,600人以上であったといわれている。単純計算で実に約3~4人に1人が岡山サポであったことを示している。そしてその多くがレプリカユニなどのファジレッドを着用し、チャント、声援、手拍子でホーム愛媛の応援を圧倒、ニンジニアスタジアムをジャックしたのであった。

愛媛としては渾身の末得た2-1のリードが、最終的に2-2のドローに終わった。
選手の頑張り、ベンチワークといったピッチ上での出来事のみではなく、悲願のJ1昇格を目指している以上、序盤とはいえチームを連敗させたくないという岡山サポーターの熱意が力になったという見立てはあながち間違いではないように感じられた。その反面リードを守り切れなかった愛媛の選手たちとしては「ホームなのに」というシンプルな感情が爆発したともいえる。

試合後のクラブ生え抜きのベテランLSB(5)前野貴徳の行動はこうしたシンプルな感情によるところでったと思うが、その引き金は(33)小川のゴール後のアピールであったのではないかと思うのである。

岡山サポーターという立場を超えて驚いたのは、愛媛の選手たちからの「要求」に対して、愛媛のサポーターがゴール裏が少ない、サポーターが少ないことに関して、すぐさまクラブが抱える構造的な問題や街づくりの観点から建設的な意見を述べていたことであった。
個別の引用は避けるが、下記はそうした投稿を拝読した際の筆者の感想である。

ゴール後の主将(33)小川の要求が愛媛というクラブ、更には愛媛の街がこれから変わっていくことの呼び水になるのか、その今後にも注目である。

(33)小川は岡山(15)本山と同い年の24歳、大阪体育大出身ということは関西学院大出身の(15)本山とは学生時代凌ぎを削った間柄であろう。また、昨シーズン岡山から愛媛にレンタル移籍していた疋田憂人の後輩にもあたる。
愛媛3年目(特別指定時代を含めると4年目)のシーズンであるが、J3で迎えた昨シーズン当初の序列は低かったものの、左利きのビルドアップ力を買われて開幕スタメンに抜擢された。

ちなみに筆者は昨シーズンの愛媛をJ3優勝候補と目し、比較的その試合をチェックすることが多かった。

しかし、その開幕戦はいわてグルージャ盛岡にセットプレーを中心に衝撃的な5失点の大敗を喫してしまう。そこから約1年、J3優勝を遂げて今シーズンのJ2でも安定した守備をみせる(33)小川、この日の自陣ゴール前での力強さからはあのひ弱な開幕戦での姿は微塵もみられなかったのであった。

1.試合結果&メンバー

岡山としてはミスから早々に先制点を献上、苦労して同点にしたかと思えば、前節横浜FC戦とほぼ同じ形のセットプレーですぐに勝ち越しを許すという最悪な試合運びとなりました。よく負けなかったどころか、逆転の雰囲気まであったというのは、間違いなくこのチームの自力であると思います。
一方で、このリズムの悪さについては振り返らざるを得ません。

J2第9節 愛媛-岡山 メンバー

続きましてメンバーです。
現状、最終ラインに関しては起用できる選手が(15)本山、(5)柳(育)、(18)田上大地、(4)阿部海大の4人であることがはっきりしました。
一方でCHに(14)田部井涼が戻ってきた点は好材料です。
そして注目は横浜FC戦、途中出場でホームデビューを飾ったばかりの(11)太田龍之介のスタメン起用です。位置的にはLST(左シャドー)でした。

2.レビュー

J2第9節 愛媛-岡山 時間帯別攻勢・守勢分布図

愛媛に「持たされていた」とまではいえないという印象でした。
岡山は中盤以下ではしっかりボールを保持出来るのですが、肝心の前線に繋がらない、またラストパスやシュートの精度を欠く場面が最近数戦同様に頻発しました。愛媛はそこからカウンターを狙うのですが、この試合における岡山のネガトラは非常に秀逸で、32分、35分のように中盤でノーファールで奪還する守備は見事であったと思います。
72分(21)パクゴヌの一発退場後はゴール前を堅める愛媛、パワーがある選手を次々に投入し押し込む岡山という構図になったのです。

(1)セカンドプランの曖昧さ

両チームの熱という部分では非常に好ゲームといえましたが、全体的にみますと岡山の課題が目立ったゲームであったといえます。
ちょうどこの試合で9節を消化、J2の約1/4が終わった訳ですが、岡山のここまでの躍進はやはりCF(9)グレイソンの献身的なポストプレー抜きには語れません。
その(9)グレイソンに明らかに疲労が見え始めましたのが、第7節の群馬戦であったと思います。そしてこの9節、明らかに(9)グレイソンの調子は下降していました。

SPORTERIAさんから、アウェイでドローという同様の結果から第2節いわき戦と今回の愛媛戦での(9)グレイソンのヒートマップを比較してみます。
今節ではLST(11)太田との棲み分けという要素はあったのかもしれませんが、明らかに(9)グレイソンのプレーエリアが狭まっているのです。
J2の場合、走行距離が一般人には公開されませんので正確なところは不明ですが、(9)グレイソンの運動量低下も示しているのかもしれません。

ということで、岡山は序盤からいつものように前線に配球するものの、なかなか(9)グレイソンに届かない、また収まりません。

筆者が問いたいのはこうした状況に陥った時にチームとしてセカンドプランが用意されているのかという点です。ここでポイントになってくるのが(11)太田で、前半の割と早い段階から岡山は(11)太田への配球を増やします。しかし、競る位置、収める位置がいわゆるシャドーを意識したポジションなので、収めてもゴールまで若干距離を残しているのです。
また(11)太田と(9)グレイソンについてもその関係性は整理されていないという印象が強く残りました。
怪我人が多い中、チームの課題となっている得点力をいかに上げるかという点で、おそらく木山監督はボックス内にストライカーを少しでも多く置きたかったのかと思いますが、その前の組み立て面でスムーズさを欠いた印象でした。この2人を併用するという前提に立つなら、2人の位置を入れ換える、また思い切って2トップを選択するといった策も検討の余地はあったように思います。

そして岡山には自陣から繋ぐ、持ち運ぶという前進方法もあります。
しかし、これもどのような試合展開、シチュエーションで繋ぐのかというイメージの共有が非常に曖昧に感じました。その曖昧さが愛媛の先制点に繋がったと思います。

LCB(18)田上のグラウンダーのパスに岡山の選手は誰も反応しておらず、愛媛がカット、パスを受けた愛媛CF(10)松田力が左足を一閃したというシーンでした。CH(14)田部井には受ける準備もしておいて欲しかったと思います。おそらく最初からロングボールと決めつけているのですね。
(18)田上も愛媛のプレスを受けて、慌てて蹴ってしまったという面はあったかもしれませんが、やはりボール運びについての意識の共有が図れていないと感じました。どういう場面でロングボールを蹴り、どういう場面でビルドアップするのか、もう一度チームとしての戦い方を徹底してほしいです。

(2)繰り返されたセットプレーからの失点

再び愛媛のゴールシーンですが、愛媛の選手が蹴った段階でイヤな予感がしてしまいました。まるで横浜FC戦の再現をみるような失点でしたね。
完全にゾーンの隙間を狙われてしまっており、またその隙間にピンポイントでボールが落ちるという愛媛の思惑どおりのゴールでした。

岡山にとって不運でしたのは、横浜FC戦から中3日のアウェイ戦ということでおそらくほとんど、セットプレーの守備に手をつける時間が無かったことでしょう。チームとして問題意識は持っていると思います。
ゾーン、ハイラインで守るのはもう難しいと思いますので、ライン設定の見直しやゾーンとマークの併用等の対策を講じる必要があると思いますが、そんな事を考える中で筆者はセットプレーで興味深い守り方をしているチームを見つけました。

いわきFCです。この第9節で「天敵」(24)福森晃斗がキッカーを務める横浜FCと対戦していました。

J2第9節 横浜FC-いわき 64分のシーン

64分横浜FCのFKの場面です。
いわきもセットプレーはゾーンで守るチームです。
まず注目されるのが、そのライン設定の低さです。
最終ラインとGKの間を狭めることで、このスペースに落とされるボールへの対応を早める意図がみえました。また、福森のキックと同時にいわきの最終ラインは更に下がります。
O・Gのリスクは高まるような気はするのですが、福森の精度の高いキックに対して守備者が少しでも前向きに跳ね返せる可能性を高めていた守り方でこの試合全体でも有効であったと思います。
(思い出せば、岡山の第2節での対戦時にはCKでこの狭いスペースに配球、(9)グレイソンが触り(18)田上が押し込みましたね。)

今後のセットプレーについては、岡山の対策に注目しますが、こうした他クラブのやり方も積極的に参考にしてほしいと思います。

(3)1/5齋藤恵太の決定力を活かせ

以前のXの投稿で昨シーズンのCF(29)齋藤恵太の決定率が20%であったことを述べたことがあります。これはシュート機会が少ない(チャンスが少ない)秋田での数字でしたので、岡山でシュートチャンスが増えた時にどうなるのか?という点に注目していました。
この愛媛戦での(29)齋藤のシュートは5本、つまり1/5、やはり20%の決定力を披露した同点弾であったという見方も出来るのです。

つまり(29)齋藤の「点取り屋」としての能力にはもっと着目した方が良いと思ったのでした。岡山のチャンスクリエイトが増えれば増えるほど、そしてゴール期待値の高い時間帯に投入する事により、チームの得点力アップに貢献してくれることでしょう。これからの第2クール、切り札になるのは彼かもしれません。

3.まとめ

この試合は論点が多く、いわゆる熱の部分と岡山のマズイ試合運びの局面とを分けて述べてみましたが、この試合から見えたことはゲームのセカンドプランをもっと明確にする必要性があるということでした。
第1クールの失点に関してはセットプレーの守り方を中心に、課題が明確な点は却って明るい材料といえます。今年のチーム方針に照らし合わせれば、ここは潰してくれるものと、ひとまずチームを信じたいと思います。
大まかにはサッカーのやり方そのものは変えなくてはよいと思っていますが、攻撃の課題であるシャドーの決定力に関してはMF(19)岩渕弘人の復帰に期待したい第2クールです。まだ移籍後初ゴールは生まれていませんが、ゴールの感覚、アイデアを最も感じさせてくれたプレーヤーであったといえます。その第2クール、МF(8)ガブリエル・シャビエルの先発起用や前述の(29)齋藤の爆発、更にはMF(24)藤田息吹を休ませる意味でもMF(20)井川空や(7)竹内涼の出場など新戦力の台頭にも期待したいところです。

今回もお読みいただきありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。

2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。

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