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【ファジサポ日誌】116.雨あがる~第21節 ファジアーノ岡山 vs ザスパ群馬 マッチレビュー ~

山本周五郎作の短編小説『雨あがる』。
後に黒澤明らの手によって映画化、仕官が叶わぬお人好しの浪人を描く物語である。

その爽やかな潔さ、人の好さ、なかなか望みを叶えられないもどかしさ、失礼な表現かとは思うが、どこかファジと似たところがあるように思う。

この日のCスタは再びの悪天候、またかと思いながらも「ああそうだったもう梅雨だった」と雨が当たり前の季節が来たことに一年の歩みの早さを感じた。しかし、この日はゲーム前にピタッと雨は上がった。

まさに「雨あがる」であった。

試合前にはオランダから帰国中の佐野航大が登場
スタジアムが湧く。
五輪代表入りに自信をみせ、A代表入りも誓ってくれた。
翌日はこのCスタでサッカークリニックを実施。
サポーターにチャントを「要求する」佐野航大

シーズン後半戦を白星スタート、怪我人が徐々に戻りつつある様子もみてとれた1週間。今節の相手は現在最下位のザスパ群馬でしたが、最近の戦いをみていても相変わらずの堅守ぶりが目立っており、熊本戦で決定力に課題を残したファジにとって簡単な戦いにならないことは容易に想像できました。
しかし、J1昇格を目指すのであれば、ここは順位どおりの実力を示して、次節アウェイの清水戦に臨まなければなりません。

振り返ります。

1.試合結果&メンバー

やはり簡単な試合にはなりませんでした。
群馬はおそらく先制すれば、守りを堅めてウノゼロ勝利を狙う算段であったと思います。その群馬に岡山は幾たびか危ないシーンもつくられましたが、群馬の決定力不足に助けられます。
一方、岡山も熊本戦同様にチャンスはつくりながらも群馬GK(21)櫛引政敏の再三の好セーブなどにより群馬ゴールをこじ開けられません。
スコアが動いたのは最終盤の86分、岡山途中出場LST(10)田中雄大からのCKをCB(5)柳育崇がゴール右下に叩きつけ、ついに岡山が先制、そのまま逃げ切りました。
なかなか得点奪えないことに選手から焦りの声も聞かれましたが(RCB(4)阿部海大)、試合全体18本のシュートの内、16本を枠内に飛ばした粘りが岡山を連勝に導いたといえます。

これで前節の熊本と同様に群馬にもシーズンダブルを達成、順位は4位に上昇しました。3位清水との勝点差は6。次節はいよいよその清水と6ポイントマッチに挑みます。

J2第21節 岡山-群馬 メンバー

メンバーです。
先にも述べましたように怪我人が徐々に戻りつつある岡山なのですが、スタメンは前節熊本戦と変わりません。今の岡山のメンバーのコンビネーションは非常に良いと思います。結果も出ている以上、そこは崩したくないという判断なのでしょう。
逆に今後、復帰メンバーが割り込むとするなら、今のチームに欠けている決定力不足を補う役割が求められます。これは補強が予定されています新戦力にも当然求められるところです。
なお、今節のサブGKはルーキー(21)川上康平でした。

アップ中の(21)川上(康)
終始元気一杯であった

群馬は3-4-2-1で表しましたが、保持時はRCB(3)大畑隆也が前目に上がりRWB(5)川上エドオジョン智彗を押し出すような形にも可変していたように見えました。非保持時には両WB、両STが一列下がる5-4-1の守備ブロックを敷いていました。
前回、アウェイでの対戦時は最終ラインからのビルドアップに人数を割いており、DF(29)田頭亮太が最終ラインからのボールの受け手として重要な役割をこなしていたのですが、その(29)田頭はメンバー外となりました。こうした点からも群馬のサッカーの変化がみてとれます。
2年連続で群馬にレンタルされているLST(14)川本梨誉は5試合連続のスタメンとなります。サブのMF(22)高橋勇利也はかつて岡山に在籍しました高橋範夫GKコーチの御子息、岡山U-15の出身です。

※前回の群馬との対戦時のレビューです。

2.レビュー

J2第21節 岡山-群馬 時間帯別攻勢・守勢分布図

全体的には熊本戦同様に岡山攻勢の時間帯が長かったといえます。
守備が堅い群馬相手であった点を踏まえますと、対戦相手に関わらず、相手を安定して押し込むことが出来ているといえます。岡山の攻撃に関しては着実に力はつけているものといえます。
最も危なかったのが、実は序盤の5分間でした。ここに群馬の最近の変化がみてとれた訳ですが、この立ち上がりを凌げた点も試合全体の大きなポイントになったと思います。

(1)群馬の戦法変化

前節までの群馬は勝点9の20位、19位栃木とは勝点8差、降格圏外の17位とは勝点12差を既につけられており、J2残留を果たすにはこれ以上負ける訳にはいかない、つまり是が非でも勝点3が必要な状況でした。
そんな群馬の課題は深刻な得点力不足にあります。6月に入ってからのリーグ戦の得点はPKの1点のみ、シーズン全体でも2点以上獲った試合がまだありません。
得点力不足の要因は様々かと思いますが、その一つが後方からのビルドアップに人数を割き過ぎることによる前線の枚数不足です。

そこでこの試合の群馬は積極的に前線からプレスを仕掛け、非保持時もリトリートではなくミドルブロックを敷き、とにかく前へという姿勢を強く打ち出してきます。
そしてボールを保持すると、(14)川本や推進力に秀でたLWB(50)菊地健太の左サイドを中心にボールを運び、左サイド奥を突破、または早いタイミングで岡山最終ラインの裏を狙ったボールを供給していました。
クロスに関しては岡山の泣き所といえる最終ラインとGK(49)スペンド・ブローダーセンの間のスペースを狙っている意図も感じましたが、いずれも精度を欠き、そしてやはり中の枚数不足により、岡山にとってそこまでの脅威にはなっていなかったというのが正直な感想です。

SPORTERIAさんより、群馬のエリア間パス図です。右サイドと比べると左サイド(岡山の右サイド)の方がより深い位置を取れていることが分かります。

群馬の左からの攻撃は有効な時間帯もあった。
(14)川本のクロスにニアで(8)高澤が合わそうとするが流れる。この背後のスペースに誰もいないのが群馬の課題と感じた。
群馬(50)菊地の決定機
この1本を決められるか決められないかの差が、
僅かなようで大きい。

(2)柳貴博の高い位置取り

では、岡山が数多くの決定機の数に表されるように試合全体を圧倒したのかというと、そんなことは決してなく、特に中盤と前線3枚との距離感があまり良くなく、このスペースに落ちたセカンドボール争いでは若干後手を踏んでいたように見えました。しかし、CH(24)藤田息吹やLST(19)岩渕弘人らが全く中盤でボールを拾えていないかといえば、そうでもなく、何とか持ちこたえていたという印象が残りました。

(24)藤田(息)の守備スタッツ。普段と比べるとやはりこぼれ球奪取数は少ない。しかし、いい所には常に居たという印象が残りました。

中盤の支配争いで若干後手に回っていた岡山がしっかり攻撃出来ていた大きな要因は、サポーターさんの多くが気づかれていたと思います。RWB(88)柳貴博の非常に高いポジション取りにありました。

J2第21節 岡山-群馬 岡山(88)柳貴博のポジションのねらいと効果

(88)柳(貴)が高い位置をとるねらいと効果をまとめてみたいと思います。
まずは8分56秒、18分54秒のシーンのようにCH(7)竹内涼や(5)柳育崇からのロングフィードを前向きに受けるねらいがあります(※図内①)。大柄ながらスプリント能力に秀でている、そして背後からのボールを止められる(88)柳(貴)の高い技術が活かされています。
そして、2点目は(49)ブローダーセンからのゴールキックのターゲットになることです(※図内②)。
これはCF(99)ルカオが本来ポストプレーを得意とはしていないこと、そして前線のターゲットが一枚増えることで(99)ルカオへのマークを分散させる効果があります。
こうして(88)柳(貴)が高い位置でボールを受けることにより、岡山はこの試合において後手に回っていた中盤を省略することが出来た効果は大きかったと思います(※図内③)。
また(88)柳(貴)がクロスを上げることによって、スムーズに前線の3枚がボックス内に入れる効果も期待できるのです(※図内④)。これは当たり前の話ではあります。
(99)ルカオが右に流れる形の場合、前線に混乱はつくれますが代わりに中に入る(88)柳(貴)に動き直しの必要があったり、そもそも中に入れる枚数が(19)岩渕やRST(39)早川隼平の2枚だけになってしまったりと得点の可能性を狭めてしまうきらいもあります。

このように(88)柳(貴)の高い位置取りは岡山の攻撃において様々な効果をもたらすものといえるのです。
おそらく、千葉戦の(19)岩渕のゴールシーンがチームとして大きなヒントになっているように思います。
更に今後はLCB(43)鈴木喜丈の復帰により、左でつくって右の(88)柳(貴)がフィニッシャーになる場面も増えそうな気もします。

このポジション取りの懸念は当然(88)柳(貴)の裏のスペースを相手に突かれることにありますが、このスペースを今は(4)阿部の頑張りでケア出来ている点は大きいです。この試合に関していえば、群馬の攻撃力との比較もあったと思います。ですので、今後上位陣と対戦した時に(88)柳(貴)の高いポジションを維持できるかは、岡山の更なる上位進出のポイントのひとつになると思われます。

前半だけでなく、後半も積極的に前に顔を出した(88)柳貴博

(3)撃ち続けろ!

さて、前々項で岡山中盤の若干の苦戦について触れましたが、(24)藤田(息)は守備スタッツでは目立った数字は残せなかった一方、攻撃面では2本のラストパスを出していて、その内1本は29分の(19)岩渕の決定機的なシュートに繋がりました。(24)藤田(息)がこれだけ前に出られるのも(7)竹内との縦関係がしっかり定着しているからで、ワンタッチで素早くコントロールした(19)岩渕のシュートと共に岡山の攻撃の成長度を感じることが出来ました。
シーズン序盤から前半の決定力不足という点はチームの課題として根強く残っており、即ちこの点が上位3チームとの大きな差にもなっていると筆者は感じています。
しかし、一時のアバウトなシュートや曖昧なクロスが続いた頃と比べると、その精度は確実に上がってきてはおり、この試合でも16/18という高確率で枠内に撃てたという点はチームの努力を評価しなくてはならないと思います。

29分(19)岩渕のシュートをセーブした(21)櫛引

また、フィニッシャーについてもセットプレーで(5)柳(育)のみではなく(4)阿部が決定的なシュートを放つなど、最近になり決定的なシュートを撃てる選手が増えてきた点は相手のマークを分散させる意味でも今後の戦いにプラスの効果をもたらすものと考えます。

この(5)柳(育)の決勝ゴールは直前の(4)阿部のシュートと真逆のコースに撃てており(4)阿部のシュートが伏線になったと筆者は考えています。

決勝ゴールの直前、(6)輪笠の浮き球のパスから(4)阿部の枠を捉えていたシュート。
(21)櫛引が辛うじて外に弾いた。
そしてついに歓喜の時が訪れた
まさに闘将
水分を補給しながら(21)櫛引はずっと(5)柳(育)のゴールが映し出されるビジョンを見つめていた。止められる要素が無かったのか探っているようにも見えた。

3.まとめ

熊本戦から2試合連続で1点が獲れそうで獲れないという展開が続きました。今までの岡山であれば、焦って前がかりになりカウンターで失点、敗戦という展開も多かったと思います。
しかし、今の岡山からは(私も含めて)サポーターはともかく、選手からはそれ程の焦りはみられません。
それは何故なのか?
筆者は、決定力不足という課題をチーム全体で許容(共有ではないところが重要)出来ているからではないかと推測します。
これは何となく木山監督のコメントから推察するのですが(有料媒体の内容なので書きません)、上手く選手にプレッシャーを掛けない言葉の配慮があるように筆者にはみえるのです。
そして、シュートが決まらないならチャンスを増やすしかないと、シンプルな考え方を選手に浸透させることで、選手は良い意味で淡々とチャンスづくりに勤しめているのだと思います。

さて、そんな状況で迎える次節清水戦ですが、ご存知のように清水は前節で秋田に敗れました。秋田は特段清水対策をしていたようには見えず、非常に「潔く」自分たちのサッカーに徹していました。寧ろ、秋田対策をしていたのは清水のようにみえました。
今の岡山も実は秋田同様「潔い」サッカーをしているといえます。
相手の嫌がることをやるよりは常に自分たちにフォーカスを向けているといえるでしょう。では岡山の「潔さ」で秋田のように勝てるかというと、話はそう簡単ではないように思います。まだ清水はホームでは無敗、それが故に序盤から強度の高いプレスを仕掛け攻撃的に戦ってくるものと予想します。
岡山としてはその清水の圧力を裏返すことが出来るのか。まずここがポイントになります。
そして裏返した先に(88)柳(貴)が高いポジションにいるのか、この点が2つ目のポイントになると思います。
清水のSB、SH相手に強気に高い位置をキープできるのか、注目したいと思います。

今回もお読みいただき、ありがとうございました!

※敬称略

悪天候の中、7,479人の観衆を集めた。
雨が弱点のファジ丸にとっても苦難?のシーズンが続く
木山監督と村主コーチ
そのマネジメントに注目している
魂際
群馬の強みであった左サイドと
岡山の守り
戻る時は戻るヤナタカと、
そこにもいるの?藤田さん
(29)齋藤恵太はいずれ大仕事をやってくれそうな気がする
(大物を釣り上げてくれそうな気がする)
僕がファール?
入らぬなら、入るまで撃とう
パンチングで逃れるブロ
ホームでの勝利は格別

【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。

レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。


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