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【ファジサポ日誌】99.ミラーゲームの勝敗をわけたモノ~第6節 ザスパ群馬 vs ファジアーノ岡山 マッチレビュー~

タイトルを入力しながら無意識に「クサツ」と打っていた自分がいた。「草津」が「クサツ」に変わり、ついには「クサツ」が無くなった。
この日のDAZN解説を務めた柱谷幸一さんも無意識に「クサツ…」と述べている場面があり、このクラブにおける「草津(クサツ)」の物語は未だに強烈な刷り込みになっていることを再認識する。

「クサツ」を敢えて外した事情、経緯はネット記事程度での情報は得ているが、深いところは分かり得ないし、他サポがとやかく述べることでもないので言及は避ける。しかし、これも地方クラブが生き残っていく為のブランディングの一つであるのならば、クラブのアイデンティティとの共存という面で悩ましい問題を提供している。

しかし、ピッチレベルでの「群馬」はいつもと一緒である。勝とうが負けようが、いつも渋い戦いになる。

振り返ります。

1.試合結果&メンバー

近年は以前よりも勝てるようにはなりましたが、いつも北関東のアウェイ戦は難しい試合になります。今回も例に漏れず、岡山はまさかのO・Gで失点、今シーズン初となる先制点を許す展開となり、これまでの岡山であればこのまま敗れるか、敗れないまでも土壇場で追いつくのが精一杯であったと思います(あくまでもイメージです)。

そんな悪いイメージを払拭するという意味では、失点後早い段階でCH(44)仙波大志のテクニカルな同点ゴールにより、群馬の「ウノゼロ感」を打ち破り、時間を掛けて岡山の「勝ち筋」を見出せた点は2024岡山スタイルのこれまで隠されていた味わいであったと思います。

そして決勝ゴールが、岡山デビュー戦となった期待の新戦力MF(8)ガブリエル・シャビエルによるものとあれば、岡山サイドとしては盛り上がらない訳がないのです。

メンバーをおさらいします。

J2第6節 群馬-岡山 メンバー

3連戦の最後、岡山、群馬共に大きくメンバーを変えてきました。

岡山は、これまで先発で使われ続けてきたCHの一角(14)田部井涼、シャドー(19)岩渕弘人がメンバー外、(14)田部井に代わって(44)仙波大志が入り(24)藤田息吹とダブルボランチを形成します。
CF(9)グレイソンは初のサブスタートとなります。
使い分けが定着しつつあるCB中央には再び(18)田上大地、RCBには前節休養の(4)阿部海大が入りました。

そして右のシャドーに大器(11)太田龍之介が満を持して登場。
岡山U-18出身選手としては初のJリーグスタメン起用となりました。
1トップの(99)ルカオ、左シャドー(10)田中雄大と共に前線3枚を形成します。

ベンチには前述しました(8)ガブリエル・シャビエルがインスタの「確定演出」と共にこちらも初登場、ルーキーMF(25)吉尾虹樹も目を引きます。

群馬も前節横浜FC戦から先発メンバー5人を変えてきました。
GK(21)櫛引政敏はメンバー外、横浜FC戦RWBで起用された(3)大畑隆也がRCBに入りました。

2.レビュー

J2第6節 群馬-岡山 時間帯別攻勢・守勢分布図

(1)ミラーゲームにいかにズレをつくるか

岡山、群馬共に3-4-2-1という同じフォーメーションを敷くのですが、群馬はいわゆる可変するチームということもあり、ミラーゲームという観点については、試合前にそこまで話題にはなっていませんでした。
しかし、実際に試合が始まると思っていたよりもミラーゲームとなり、序盤から各ポジションで激しい球際の争いが繰り広げられます。

憶測ですが、お互いに選手が変わっていることもあり、どのポジションに「穴」があるのか、あえてフォーメーションをぶつける事で探ろうとしていた、そんな意図がどちからかといえば群馬側から強く感じました。

序盤、岡山前線3枚の群馬3CBに対する「圧力」は良かったと感じました。CFに入った(99)ルカオは、プレスもですが、ボールが入った時の縦への力強くスピードに乗った推進により群馬最終ラインを十分押し下げることに貢献していたと思います。
そして、注目の(11)太田や(10)田中も群馬の球出しを忠実に制限していたと思います。
(11)太田に関しては、今の岡山の2シャドーの重要な役割である2CH脇のスペースを埋める守備をどの程度こなせるのか注目していましたが、(19)岩渕やMF(27)木村太哉と比較した時、そこまでではなかったというのが正直な印象です。しかし、この点については(11)太田と、(19)岩渕や(27)木村とのプレースタイルの違いを考慮する必要はあると思っています。

SPORTERIAさんのデータから、(11)太田と前節水戸戦の(19)岩渕のヒートマップを比較してみました。やはり(11)太田の方が若干前目残り、(19)岩渕はCH脇からサイドへのスペースでのプレーが目立ちます。

前半の中盤、群馬のプレスに対して、前へ蹴ることで陣地奪回を図っていた岡山でしたが(99)ルカオと(11)太田の位置を入れ換え、(11)太田の1トップにしてからはボールがよく収まるようになり、岡山攻勢の時間をつくれるようになっていました。

(11)太田の起用法に関しては、いきなり課題と収穫の両面が出たように思いますが、これも(11)太田が高い水準でプレーしているから見えるものであり、チームとして今後彼をどのように起用するのか、ポジティブな材料にしてほしいと思います。

話を本題(ミラーゲーム)に戻します。
「時間帯別攻勢・守勢分布図」で前半に拮抗した時間(白色)が多いのも、ミラーゲームになったことが原因なのですが、そこに有効なズレをつくろうとしていたのが群馬でした

ズレのつくり方は2つあったと思います。
ひとつ目は群馬シャドー(8)高澤優也の立ち位置です。
15分の場面を振り返ります。

J2第6節 群馬-岡山 15分 群馬のビルドアップ その①

群馬最終ラインからのビルドアップです。
この後の実際のボールの動きはひとまず置いていただき、両チームの「ねらい」を確認していきます。
群馬最終ライン3枚に対して、岡山の前線3枚がプレスの構えをみせます。
この時(11)太田や(10)田中は背中で群馬の2CH(15)風間宏希と(6)天笠泰輝を消しています。
岡山は群馬の中央へのパスコースを消すことによりサイドへ誘導させるねらいですが、仮に群馬がパスの出し所に迷う様子を見せるなら、前線の3人がプレスを開始できる準備が整っています。更に前線の3枚の動きに伴って(24)藤田や(44)仙波の2CHもボールを引き取りたい群馬2CHにプレス出来る構えを敷いています。

ここで群馬(8)高澤は、わざと岡山2CHの視野に入る位置にポジションを取り(映像では見切れていましたが、その後のシーンから推測)、岡山2CHの注意を引くのです。この動きにより、岡山前線3枚の動きに伴う岡山2CHの連動に遅れを生じさせ岡山のラインを分断、群馬2CHがボールを受けやすく出来るようお膳立てをしているのです。

中継中、解説の柱谷さんがこうした(8)高澤の動きを数度指摘していました。直接、決定機に至ったシーンは少なかったのですが、度々群馬が前向きにボールを持つきっかけにはなっていたと思います。
この試合での岡山は群馬に前向きに持たれても、各選手のプレスバックが速かったため、大きなピンチには至りませんでしたが、「違い」はよくつくれていたと思います。

61分、この(8)高澤が早めに下がってくれた点は岡山にとって幸運であったと思いました。

さて上の図をみる限りは、群馬(8)高澤がいくら立ち位置を工夫しても群馬にボールの出し所がないように見えますが、ここにも群馬の別の工夫がみられました。

J2第6節 群馬-岡山 15分 群馬のビルドアップ その②

群馬の2つ目の工夫、それはビルドアップ時の数的優位確保です。
図その①では、群馬と岡山は5対5の同数です。
お互いに睨み合っている最中に群馬LSB(29)田頭亮太が(10)田中の背後に迫り、(10)田中の後ろにいた(6)天笠が(99)ルカオの背後に移動します。これで局面は6対5の群馬の数的有利へと変わったのです。つまり(24)藤田と(44)仙波の2人で、群馬の3人を見なくてはいけない状況が生まれます。

この数的有利な態勢が整ってから、群馬は局面を動かし始めます。
CB(2)城和隼颯がわざと(99)ルカオの前へと持ち出します。
(99)ルカオがこの動きに反応したところを、LCB(36)中塩大貴を経由して(99)ルカオの背後にいた(6)天笠へボールを送ります。
(6)天笠から(8)高澤への縦への道もみえましたが、更にサイドへ開いた(15)風間へ渡し、ここに(24)藤田を引きつけていました。

群馬が数的優位から前進への確実な道筋をみせかけていたシーンでした

同時にこの「みせかけていた」というのがこの試合の大きなポイントのひとつです。群馬はこのように巧妙にミラーゲームに変化をつけて、前進する道筋を見出しながらも、実際にその道を使って前進するシーンはあまり見られなかったのです。

この場面も群馬が自陣で時間を掛け過ぎたことにより、岡山LSB(17)末吉塁が中に絞り警戒、(44)仙波も群馬の縦へのパスコースを消すことが出来ていました。群馬は逆サイドへ展開、もう一度作り直しとなったのでした。

群馬、大槻監督の試合後のインタビューでは、自分たちが「やれている」場面でもっと大胆にいっても良かったという趣旨の発言があったと思います。
憶測ですが、このような攻め切れる場面で遠回りを選んでしまう傾向も指しているのかなと推測しました。

さて、群馬の変化に対して、一方の岡山は仕組みとしての違いがなかなかつくれませんでした。
LSB(43)鈴木喜丈の「喜丈ロール」により中盤~前線にギャップをつくり出したいところでしたが、対応する群馬のRSHは攻撃のキーマン(10)佐藤亮でしたので、守備に気を割く場面が多かったように思います。

また有効な「喜丈ロール」の頻度が少なかったもう一つの理由に、左サイドのサポート役(14)田部井の不在は大きく影響していたように感じました。
昨シーズンのホーム磐田戦を思い出してほしいのですが、(43)鈴木の攻め上がりは(14)田部井のサポートでより効果的になるのです。

この群馬戦と前節水戸戦のパスネットワーク図を比較しましても、水戸戦での(43)鈴木と(14)田部井の近い距離感が伝わってきます。一方で今節群馬戦では(43)鈴木と(44)仙波の距離は遠く、この事が(43)「喜丈ロール」の回数を少なくしたものと考えます。

また、岡山の場合、個で殴り合う展開は寧ろ歓迎、「ミラーゲーム」歓迎といったフシもあり、群馬ほどにはギャップを生み出す必要性は感じていなかったのかもしれません。

では(44)仙波はどこにいたのかというと、どの時間帯も比較的(24)藤田と近い位置にいるのです。これは、前半、群馬が岡山の守備の穴を探った結果、(44)仙波が狙われていて(24)藤田が近くでサポートしていたという守備面の理由もあるのかもしれませんが、どちらかと言えば(24)藤田が奪取したこぼれ球を(44)仙波が引き取り縦に推進する攻撃面での効果をねらったものと推測します。

(44)仙波と(24)藤田のヒートマップを確認しましても、やはり(44)仙波は中央よりかつ(24)藤田と比べて前目でプレーしていることが分かります。

群馬が比較的誰が入っても同じボール運びを遂行出来るのに対して、岡山はその日のメンバーによりチームとしてのボール運びも、個の特性の影響が色濃く出る一例といえます。(44)仙波に(14)田部井のプレーを求めても良い味は出ない、中央でキープ出来、得点に絡んでいける(44)仙波の味をチームに還元させる。この個の特徴を容認というか寧ろ全面に出させるスタイルが木山サッカーの特徴といえます。

おそらくその(44)仙波の縦への、ゴールへの積極的な姿勢が同点ゴールを生み出したのではないでしょうか。

(2)充実したメンタルを感じさせた失点後の振る舞い

メンバーを入れ替えたことを考慮すれば、岡山としても悪くはなかった前半であったと思いますが、試合後木山監督が述べていましたように攻撃最終局面での淡白さは気になったのだと思います。

後半開始から(99)ルカオに代えてCF(9)グレイソンを投入します。
そして、さあここから!という段階での失点でしたが、シュートととも、クロスとも判断しかねるボールが飛んできてしまったこと、バウンドが不規則になったこともあり、観ている立場からも事故的な失点とすぐに捉えることが出来ました。(88)柳貴博や声を掛けにいった(43)鈴木の表情や仕草を観ていても、ここからやり返すという前向きなオーラをみてとることが出来ました。今シーズン初の追いかける展開、新たなチーム力を観られるぞという気持ちで筆者は観戦していました。

昨シーズンのチームからは、こういう場面で取り返そうという個々の強い気持ちはよく伝わってきたのですが、その分攻撃が単発になる傾向もみてとれました。その点、この試合では(9)グレイソンを中心に各選手が冷静に攻撃を組み立てていたと思います。
この時間帯(11)太田と(9)グレイソンが共にピッチに立っていたのですが、(9)グレイソンが前線に入ったことで(11)太田の下りる動きも活発化、下りて空中戦で繋いだところから敵陣奥へボールを運び、(44)仙波の同点弾に繋がったことを考えると、こういう運び方もシンプルながら、試合の局面を変えるには有効と感じたのでした。


(3)緩急で勝負あり!決勝ゴール

失点から5分後と早い時間に同点に追いついたことにより、岡山には勝ち筋を探る十分な時間が与えられます。69分、ついに(8)シャビエルが登場、決勝ゴールが生まれる25分間で味方との距離感を修正、徐々にチームにフィットしてきた点はさすがでした。
皆さま、何度も観ていると思いますが、もう一度観ましょう!

群馬はしっかり5-4-1のブロックを敷いているのですが、(10)佐藤の様子をみても相当に体力を奪われている様子が伝わってきます。
この場面で単調にボックスに放り込むのではなく、まず鋭い縦パスを差し込んでくる選択自体に他の選手との違いをみてとりました。
そして縦パスを入れて(9)グレイソンを追い越すまでのスピード、ワンツーはならなかったものの一度群馬最終ラインの裏に出て、DFの視野から消えている駆け引きの巧みさ、ここでこぼれ球を拾った(17)末吉が一度縦への切り返しを入れた点も群馬のタイミングを外すよい緩急になりました。
そして最後は(9)グレイソンのフィニッシュを予想していたようですが、自身にこぼれた際の瞬間的な対応力と振り抜く右足の素早さ…。
名古屋で観た記憶があるGXだと思いました。

この場面、(8)シャビエル、(9)グレイソン、(17)末吉のプレーは全てが丁寧で緩急に彩られていました。群馬はきっちりした守備態勢は整えていましたが、岡山の緩急に対応する余力は残ってなかったのです。

3.まとめ

この試合、ミラーゲームにどのような変化をつけていくのという点で両チームの攻防に注目しましたが、有効な変化という点では群馬に分があったと思います。しかし、岡山は心身充実している個の力で対抗し、最終的にはゴールに近い局面での変化と緩急で勝利した一戦であったといえます。

追いかける展開を経験出来たという点でも今後のチーム力に厚みが加わることでしょう。

今回もお読みいただきありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。

2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。


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