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小説・「塔とパイン」

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作:よわ🔎 概要:45歳、片田舎の洋菓子店のパティシエが、紆余曲折、海を渡ってドイツでバームクーヘンを焼き始めた。 ※毎週日曜日更新(予定) ※作品は全てフィクションです。著…
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2023年4月の記事一覧

小説・「塔とパイン」 #23

小説・「塔とパイン」 #23

18歳になるころ、僕は進路として「製菓」の道に進むことを決めた。実家が「製菓店である」という一点で、興味があったし、手伝いもしてたから、すんなり決めた。

学校生活はどうだったかというとあまり覚えていない。勉強はそれほどできたほうでもなかったし、興味も持てなかった。スポーツはと言えばこれも大したことはなく、クラスの中では「苦手もなければ、得意もない」微妙な位置にいた。

18歳までの学校生活、振り

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小説・「塔とパイン」 #22

小説・「塔とパイン」 #22

毎日、毎日、異国の地で、菓子を焼く。飽きないのか?と問われれば、そりゃふと「飽きる」瞬間もある。だけど僕にはもう、これしかない。好きか嫌いかと問われれば「好きな」ほうなのだろう。

嫌いだったらこの業界で働いているのは考えにくい。いや、ほんとうにそうだろうか?

ーーー泡だて器を使って、生地をブレンドする。

お菓子作りに目覚めたのはいつだっただろうか?いや、目覚めたというのは聞こえがいいけれど、

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小説・「塔とパイン」 #21

小説・「塔とパイン」 #21

「おはよう」

スマホに届いたメッセージで、まどろみから抜け出した。そうだった。昨日の夜、ベッドの上でスマホ片手に彼女ととりとめのないメッセージのやり取りをいくつか交わしてしていたはずだった。

いつの間にか、眠りについていたらしい。

スマホの電池表示が62%を示している。使い切ったわけでもなく、かといってこの残量では、一日を乗り切ることもできない。一喜一憂せず、快適に過ごすのなら、補給が必要だ

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小説・「塔とパイン」 #20

小説・「塔とパイン」 #20

バベッタと初めて出会ったのは、そう、市役所だ。右も左もわからない中、渡欧してドイツに来た。来ただけではダメで、住民となるには役所に届け出をしなけりゃならない。

前情報では「英語が読めれば何とかなる。」はずだったけれど、期待外れだった。英語での案内などなく、文字はほぼドイツ語だ。特段ドイツ語ができるわけでもなかった僕。

「全く、わからない・・・」

どこにいって、なにをすればいいのか、なにがどこ

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小説・「塔とパイン」 #19

小説・「塔とパイン」 #19

帰宅すると夕餉の時間が始まる。とはいえ1人で住んでいるから、仕度は自分でやることになる。自炊はできないので、スーパーで買ってきた、パンやサラダを食べ、チーズをかじる。

ドイツだからビールを飲めばいいだろうけれど、あいにくお酒に弱いし、ビールの味も好きじゃないから、ほとんど飲まない。ワインなら味はまだマシと感じる。

部屋の照明が弱いので、IKEAで購入したデスクライトで手元を照らしながら、ぼーっ

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