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月刊「読んでみましたアジア本」

日本で出版されたアジア関連書籍の感想。時には映画などの書籍以外の表現方法を取り上げます。わたし自身の中華圏での経験も折り込んでご紹介。2018年までメルマガ「ぶんぶくちゃいな」(…
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#推薦図書

【読んでみましたアジア本】インドと中国、二大国の間に横たわる「アジア」事情を知る:タンミンウー『ビルマ・ハイウェイ』(白水社)

◎『ビルマ・ハイウェイ:中国とインドをつなぐ十字路』タンミンウー・著/秋元由紀・訳(白水社)

1年ほど前にジャーナリストの舛友雄大さんに紹介されて手にした本。いつも言葉の少ない舛友さんなので具体的に何が書かれているのかの説明は特になかったのだけれど、勉強家でとにかく目の付け所が現地に根ざしている彼ゆえに、尋ねるよりも「とにかく読んでみなければ始まらない」という気分になったのだった。

なぜにビル

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【読んでみました中国本】ヴィジョンを持つためにきちんと考えるべきこと:内田樹・姜尚中『アジア辺境論 これが日本の生きる道』

◎『アジア辺境論 これが日本の生きる道』内田樹・姜尚中 (集英社新書)

正確に言えば、今回は「中国本」ではない。ですが、われわれが中国(あるいはその他の国々)と付き合おうとするときに考えなければならない、日本という国の立ち位置について知ろうと本書を手にとった。

発売からちょうど1年ほどの本である。一時は内田樹氏のブログが更新されるたびに目を通していたが、昨今はそれほど読んでいない。氏のブログ

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【読んでみました中国本】今の日本を愛するなら忘れてはならない、日本の歴史の一部を担った人たちの足跡:野嶋剛『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』

◎『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』野嶋剛(小学館)

先日、以前の取材原稿を引っ張り出して調べ物をする必要があり、そのとき久しぶりにこの言葉を目にした。

「中国語がわたしのパスポートなんです」

拙著『中国新声代』に収録した台湾の作家、龍應台さんが、中国で行われた会合で「中国の作家」と紹介されたときの言葉だ。中国の政治制度に巻き込まれるのを拒絶し、紹介の言葉を「わたしは中国の作家ではなくて中国

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【読んでみました中国本】遠ざかっていく香港の味わいを思い起こさせてくれる「香港うんちくグルメ」:蔡瀾『人生の味わい方、打ち明けよう』

◎蔡瀾・著/新井一二三・訳『人生の味わい方、打ち明けよう』(角川書店)

「また香港です。お目にかかるチャンスがあれば嬉しいです」

と書いて「送信」を押したら、すぐにスマホが震えた。

「メッセージは送信されましたが、相手が受け取りを拒絶しています」

あら。

手元に残っている最後のやりとりは昨年のもの。香港返還20周年取材の企画で、返還当年よりもずっとずっと昔の香港の話題から始めたいと思い、

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【読んでみました中国本】巣立つ息子たちに捧げる台湾人作家父の中国うんちく学:呉祥輝『君と共に中国を歩く』

◎『君と共に中国を歩く』呉祥輝・著/東 光春・訳(評言社)

アマゾンができて便利になったわぁー、と思ったりもするんだけど、それでもやっぱり自分で書店の書棚を眺めてみたりもする。でも、そこに並ぶ主観バリバリのタイトルにアテられてさっさと撤退したくなる。

なぜ、人は中国について述べる時、自分の結論をまず押し付けるのか? そんな本がずらずら並んだところで、素直に自分が体験できない、あるいはまだ触れた

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【読んでみました中国本】中国の少数民族を訪ね歩く、醍醐味たっぷりのルポルタージュ:デイヴィッド・アイマー『辺境中国:新疆、チベット、雲南、東北部を行く』(白水社)

◎『辺境中国:新疆、チベット、雲南、東北部を行く』デイヴィッド・アイマー・著/近藤隆文・訳(白水社)

「本が売れない」「本が読まれない」…こういわれるようになって久しい。出版社の人たちと会って話すと必ず出て来る言葉だ。

だが、じゃあ、いまでも本を読んでいる人たちが何を求めて本を読んでいるか、について、出版する側は本気で考えているのかなぁ、と思うことがよくある。前述の不満ともとれる言葉を吐いても

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【読んでみました中国本】 「政治的分析はお控えください」――でもやっぱり比較してしまう面白さ:ケン・リュウ(編)「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」(早川書房)

◎ケン・リュウ(編)「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」(早川書房)

正直な話、この本を読むまで中国作家のSF作品がこんなに面白いとはこれまでまったく知らなかった。

この「読んでみました中国本」で何度も書いてきたとおり、わたしは大人になってからほとんど小説を読まなくなった。なので大人になってから暮らすようになった香港や中国でも、あまり当地の小説には関心を払ってこなかった。

だいたい、

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【読んでみました中国本】選択できない夢を見ながら生きる人たちの希望、人生、そしてお金:山田泰司「3億人の中国農民工 食いつめものブルース」

出稼ぎ労働者、というと、いつも「小伍」(伍さん)を思い出す。わたしの13年あまりの北京での生活で、最も頼りにし、また最も身近にいてくれた出稼ぎ労働者だった。

当時わたしが暮らしていた家はとても快適だったが、一人暮らしにしてはちょっと大きすぎた。もともと家事の中でもっとも苦手なのが掃除だったので困っていたら、友人に紹介されて彼女が週1回掃除に来てくれることになった。

当時の彼女は30代そこそこだ

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