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世界の美味しい月

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世界の片隅であなたが味わう美味しい月の物語
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#短編小説

【掌握小説】おなじ月をみている

【掌握小説】おなじ月をみている

電車の座席に沈み込むと、仕事の疲れとともに力が抜けた。

ああもう、休日出勤なんてするもんじゃない。炎上鎮火に使った脳みそが、電車のリズムに合わせてぐらぐらとゆれる。窓の外を流れる景色はすでに夕方。それでも、空に浮かぶ白い三日月が、まだ夜があるよと私に教えてくれる。

こんな日は、ちゃんとグラスを用意して、お気に入りのビールを注ぎたい。重い気分をぐっと受け止めてくれるような、苦みのあるやつがいい。

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【小説】月が綺麗な夜もある

【小説】月が綺麗な夜もある

ヤマザキくんとは同じ塾だった。

母親がママ友から「厳しいけど成績を上げてくれるイイ塾よ」と聞いてわたしを送り込んだ英語の個人塾だ。会話なんかまったくやらないで千本ノックみたいにひたすら英語の長文を読むだけだった。成績が上がったかどうかはわからない。

ヤマザキくんは小太りでそんなに背は高くなく、ちょっと目にはいじめられるタイプに見えた。が、そうではない。よくしゃべる子で勉強はできた。少人数のこじ

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欠ける、満ちる、食べる。

欠ける、満ちる、食べる。

中国や台湾では、どこも欠けていない満月を「円満・完璧」の象徴ととらえている。中秋節の満月の日に、家族が日本の正月のように集まり、食事をしながら満月に見立てた丸い月餅というお菓子や、文旦という果物を食べる習慣がある。
引用:https://www.gldaily.com/inbound/inbound2611/

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理由なき否定ほど、腹の立つものはない。

結婚前に勤めていた職場の上司は「な

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タイの食堂から見える月光

タイの食堂から見える月光

こちらのパラレルワールド??

「へえ!こんな地方の町にも日本人観光客がいるのね。マーケットであんな大声出してすぐに分かったわ。それもバッグがひったくられただって。まったく海外で油断し過ぎよ」

 2019年秋、ここはタイの中部にあるタークという町。スコータイ遺跡やミャンマーとの国境にも近い。この地方都市いるのは明子である。明子はひとりで東南アジアを何度か旅しているので、マーケットで聞こえたような

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